単なるクルマ自慢に終始せず、その男のライフスタイルを通して、愛車を見れば、僕たちのタメになる何かが必ず潜んでいるはず。

われわれ取材班が岩谷さんのご自宅に近づくと、スレートグレーのナローが鎮座していました。陽光のあたり具合でさまざまな色合いを見せるこの独特の灰色は、スティーブ・マックイーンの、かつての愛車911 Sを参考に、エンジンルームからすべて、オールペンしたものだといいます。

果たして、なぜこのナローを岩谷さんは手に入れたのか。自宅のチャイムを鳴らし、ドアが開くーーと、そこには、まるでホテル、いやホテル以上に快適な空間が広がっていたのでした。

まず、笑顔の岩谷さんとともに出迎えてくれたのが「Pierre Jeanneret(ピエール・ジャンヌレ)」のOffice Cane Chairであります。ジャンヌレは、かのル・コルビジェの従兄弟であり、同時に彼のビジネス上の重要なパートナーでもありました。自身も建築家であり、インドでの集合住宅や大学などの建造物を手掛けたほか、当地インドで考え、生み出された数々の名家具もあります。そのひとつが、このチェアなのです。

続いて登場したのは「Arne Vodder(アルネ・ヴォッター)」のmodel29A Sideboardです。北欧ヴィンテージ家具を代表するデザイナー、ヴォッター。2m50cmの長さを誇る、この名サイドボードが似合う日本の家庭、なかなかありませんよ。

さらに、リビングに目を向けると、春の「Hans J.Wegner(ハンス J.ウェグナー)」祭り。

GE236のソファ、GE270のチェアが2脚、PP225こと通称フラッグ・ハリヤードまで!

コーヒーを一滴でもこぼそうものなら数週間は落ち込んでしまう、緊張感あふれるリビングです。が、「いやー、ふつうにここで寛いでいますよ」と岩谷さん。

ちなみに自宅自体もヴィンテージマンションとして有名なもので、「何年も待って、ようやく空きが出て、引っ越してきました」といいます。

さらに、部屋全体をスケルトンにし、壁材はもちろん、エアコンの位置にいたるまで、微に入り細を穿ってあつらえたのだそうです。

部屋奥まで進むと、「Jeane Prouve(ジャン・プルーヴェ)」のテーブルとチェア。さらに、イームズのラウンジチェア。寝室もヴォッターとウェグナー祭り。書斎も……(詳細は動画をご覧ください)。

もちろん、家具だけではなく、その周辺を彩る「安齋賢太」の器や、多肉植物アガベ、巨大サボテンなど抜かりなし。

「この家は、ロスの邸宅をイメージしています」と語る岩谷さんは、小さなころから収集やカスタムが大好きで、コツコツと趣味に合ったアレコレを集めてきたとのこと。とはいえ、岩谷さんは会社員。どうしてここまで、高額なものを? と誰しもが思うことでしょう。訊くと、株などの資産運用で、これらを買ったわけではないそうです。

「大好きで手に入れた物を、引っ越しや住宅環境で手放さなければならないときがありました。そうすると、それらは買ったときよりも、高く買い取ってもらえるのです。もちろん、転売目的で手に入れた物はひとつもありません。そうして、徐々にいろいろな名作を手に入れることができたのです」。

クルマもそうです。まず、ポルシェ911(993型)、続いて964のターボ3.6ℓ、フェラーリF355、ポルシェに戻って930スピードスター、ボクスター・スパイダー、そして、現在の901型のポルシェ911 Eへと流れています。
お金があれば何でも手に入れられる、と誰もが思うことでしょう。しかし、虎視眈々と自身が狙ってきたものに限って、指先でふれた瞬間、指のあいだから漏れていってしまうことがほとんどかもしれません。はたまた、お金でいろいろなものを手に入れられたとしても心の充足感は満ち足りないかもしれません。イーロン・マスクほどの大金持ちでも飽くなき欲求があることでしょう。そして、岩谷さんもその例にもれず、なのかもしれません。

しかしながら、岩谷さんは実に幸せそうです。愛する妻と、心地よい衣車住に囲まれて。もちろん、次なるFX(次期愛車)を水面下で狙っていることもうかがえますが笑。

次回は岩谷さんの愛車をたっぷりとご紹介いたします。その魅力は、エキゾーストサウンド満載な動画でぜひ。
Video&Photo: Naoto Otsubo
Video Edit: Kabuto Ueda
Co-operation:Takashi Fujii
Text:Takashi Ogiyama