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FASHION 百“靴”争鳴

【唯一無二のヴィンテージシューズショップ「スーパー8シューズ」堀口崇】フローシャイムに魅せられて〜前編〜

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百靴争鳴。日夜美しい靴作りに情熱を燃やし合う、異色の靴職人たちへのインタビュー集。

その靴をはじめてみたときには思わずため息が漏れました。たしかな職人仕事に、数十年を経て味わい深く育った革。しかしなんといっても驚かされたのは、鮮やかに染め替えられていたことでした。もはや靴ではなく、工芸品の風格をたたえていました。

このカスタム・サービスを提供しているのが、ネット販売から始まったアメリカのヴィンテージシューズを扱うSUPER 8 SHOES(スーパー8シューズ)。オーナーの堀口崇さんは古着業界でもブルーオーシャンだったそのジャンルにいち早く目をつけたものの、澄んだ海には ほとんど魚が泳いでいませんでした。

アメリカの靴

アメリカは移民の国だから、その国で生まれた靴は表情がじつに豊かです。たとえばこれ。向こうではMウィングと呼んでいましたが、いわゆるウィングチップに比べてふたつの山が浅い。野暮ったくてたまらないでしょ。

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ドイツ系移民の流れではオーソペディの思想が反映されていて興味深い。おそらくウレタン系の素材だと思うんですが、緩衝材を装填したのは1930年代ですからね。ナイキのエアよりずっと早いんです。

それとね、アメリカの靴っていうと大味な印象があるかも知れないけれど、いまはともかく、むかしの靴はそんなことはありません。出し縫いなんて驚くようなピッチの細かさですよ。

革靴業界の501®です

SUPER 8 SHOESで扱う靴のなかでも特別な一足がフローシャイムのケンムーア。革靴業界の501®です。ぼくが勝手に言っているだけですが(笑)、これから説明する内容を聞けば納得していただけると思います。

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まず、生産数が多く、だれでも手に入れることができた。これぞアメリカン・プロダクトの優等生です。そして木型は人を選ばない懐の深さがあった。極めつきは、ロングウィングチップというデザイン。

つま先をW字に切り替えたパーフォレーション&ピンキングがヒールまで続くロングウィングチップはアメリカにポピュラーなデザインです。当時のシューメーカーなら たいがい手がけていましたが、比べてみればその違いは一目瞭然です。

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いまは亡きハノバーってメーカーはケンムーアと並べたアメリカおなじみの比較広告を出したことがありました。おんなじ素材、おんなじデザインで うちはこんなに安いんですよって。けどね、ツラがまるで違う。ケンムーアのすらりと伸びた鼻先もそこに載せたウィングチップのマスキュリンっぷりもかえって際立っていました。

フローシャイムといえばコブラヴァンプと呼ばれるユーマが有名で、ご存じのかたも多いでしょうが、ケンムーアも負けず劣らずの名作といえると思う。

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シューメーカーとしての歴史を振り返っておけば、フローシャイムはミルトン・フローシャイムさんが1892年にシカゴで創業しました。第一次世界大戦も第二次世界大戦も軍のサプライヤーに選ばれ、そして戦後はアイビーリーガーの足元を飾りました。自他ともに認める、アメリカを代表したシューメーカーです。

すこし前にミルトンさんの墓にも行ってきました。シカゴのどこそこにあるらしいって情報が ぼくのところにまわってきたんです。これは行ってこいってことですよね(笑)。出張は1分を惜しんで買い付けにまわるのが常ですが、そんなことは言っていられない。いや、言っちゃいけない。ミルトンさんは足を向けて眠れないひとですからね。きちんとご挨拶をしてきましたよ。

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いま、デッドストックが5足以上揃っています(11月25日現在)。これだけ揃うことはなかなかありません。すこしでも興味が芽生えたら、この機会にぜひ。

その名を知らしめた染め替えテク

うちが そこそこ知られるようになったのは 渋谷の店の軒先を借りたポップアップストアがきっかけでした。売り場に並べたのは染め替えた靴。インラインにはないカラフルな靴は若者のあいだで一気に火がつきました。

その靴はお客さんだった男性が染めてくれています。本業は別にあって、趣味で靴の染め替えをしている方。ネットでお買い上げいただいていた方なんですが、あるとき事務所にやってこられた。ネットだけで商売していたころは、予約制で試着したい方を事務所にお招きして、接客していました。

玄関に立ったその方の足元に ぼくの目は釘付けになりました。見たこともない色のケンムーア。挨拶もすっ飛ばして「それはなんですか」って聞いたら、ぼくが染めているんだよって。光が差す、という言葉がありますが、そのときのぼくの視界はたしかに光で満たされた。これは商売になる。そう確信したぼくは口説いて染め替えのサービスを立ち上げることにしました。

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その靴にはもうひとつ、度肝を抜かれたディテールがありました。トップラインに沿って縫い込まれたメッシュがそれです。コードバンは履いていると割れてきちゃうから補修としてやっているとのことでした。これひとつとってもいかに高い技術を有しているかがおわかりいただけると思います。染め替えもメッシュも、店の顔となるカスタム・サービスになりました。

染め替えには基本、染料しか つかっていません。顔料はどうしても風合いが損なわれてしまいますからね。そんなわけで黒の靴は対象外です。

大高さんという右腕

ネットが軌道に乗ったら、いつかは実店舗をという思いがありました。店の柱にしようと考えていたのがヴィンテージシューズの販売、リペア、そしてオリジナルブランドでした。

状態の良いものに絞って買い付けていますが、どうしてもリペアが必要になる靴もある。そんなときは池尻にある勝川(永一 [ エイチ・カツカワのデザイナー ])さんのリペアショップに持ち込みました。20足とかリュックに詰めて自転車で。これが大変だったのもあり、リペアは自分のところでやろうと決めていました。

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募集をかけたところ、大高(博未)さんが名乗りをあげた。ぼくはしょっちゅう海外で店を空けることが多い。半地下で外から見えにくい店だし、女性ひとりに任せるのは危険だなって思っていたから、いったん保留に。するとほどなく男性が応募してきた。ぜいたくですけど、2人態勢でまわしてもらうことにしました。ところが その男性が土壇場で働けなくなった。気づけば彼女がひとりでリペアを取り仕切っています。

大高さん:オープンしたばかりのころはずいぶんと気取った店でした。靴を棚にちょんちょんとしか置いていない。まるでおしゃれな洋服屋さんみたいに。スカスカの売り場はどうにもしっくりこない、ということで まもなくいまのかたちに落ち着くんですが、什器を揃えて靴を並べるのも一緒にやりました。いい思い出ですね。ちなみに いまではわたしを放ったらかして海外に行っちゃいます(笑)。

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料金は町の靴屋さんと変わりませんが、彼女はかなりの腕前です。ぼくはロミヒーと名づけて彼女を前面に押し出しました。キャラ化が功を奏して、リペア部門もそうそうに軌道に乗りました。

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お店を開けてから はやくも10年が経ちました。子どものころからわかっていましたが、ほんとう、ぼくはダメ人間です。目標の半分もやれていないんじゃないでしょうか。重い腰をあげてようやくやっつけたのがオリジナルです。

フレンドリーなオリジナル

数年前に業界の知人が中国でつくっている靴を履く機会があって、ぼくは心底感動しました。往年の名作をベースに日本人の足に合うようモディファイしたというその靴、足に吸いつくようにフィットしたんです。

ぼくは売る靴すべてに足入れをしています。この商売をはじめてからずっと。試してみないことにはお客さんに説明できませんからね。ひとよりも多く靴を履いてきたぼくを驚かせたんです。これでいいじゃんか、って思った。

オリジナルはオープンの際にもトライしたんですが、残念ながら かたちになりませんでした。

失敗に終わったのは、50年代のアメリカの靴の復刻を目論んだからです。ただデザインやスペックだけ真似たって、思うような靴は つくれない。敗因をあげるとすれば、靴をつくるということの意味をわかっていなかった ぼくの見通しの甘さに尽きますね。

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そういう古着屋のロマンのようなものを取っ払って考えたときには、履きやすさがなにより大切です。この履き心地でアンダー3万円なら十分勝負できると踏んで去年の春にローンチ、1年経ってスリップオンも追加しました。

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これでいいじゃんか、とは言いましたが、それはそれでこだわっていますよ。製法はグッドイヤーウェルトだし、ソールはレザーと見紛うラバー製。雨の日も臆せず履けます。そしてデザイン。オールド・アメリカンを意識したストレートチップに、ユーズド、デッド市場においてはほとんど手に入れられなくなったアルゴンキン(Vチップ)。意味のあるデザインをラインナップしています。

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新たにつくったスリップオンはホールカット(一枚革)。知る人ぞ知る存在ですが、このデザインは じつは1950年代のアメリカを代表するものなんです。スリップオンだと木型もそのままっていうわけにはいきません。そんなの無理だよと言われることを覚悟して担当者に相談したら、あり型をいじればいけると思うよって。素材もグレードアップさせたので1万円ほど高くなりましたが、しみじみいい出来です。

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名前はジャーマン(1930年代創業)のフレンドリー5シューズから拝借して、フレンドリーに。フレンドリー5シューズはいわゆる廉価版です。安く、手に入りやすいからフレンドリーというわけ。このオリジナルにぴったりの名前でしょ。

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Photo:Shimpei Suzuki
Text:Kei Takegawa
Edit:Ryutaro Yanaka

 

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堀口崇(ほりぐち たかし)
1972年茨城県生まれ。大学卒業後、渋谷の古着屋TEXで働き始める。レディスのアパレル部門を引き継ぐかたちで独立。2009年、ヴィンテージシューズのオンラインストア SUPER 8 SHOESを立ち上げる。2015年、実店舗を東京・千駄ヶ谷にオープン。

 

【問い合わせ】
SUPER 8 SHOES
東京都渋谷区千駄ヶ谷3-22-5 B1F
03-6804-2174
営業:12:00〜19:30
定休:火金
http://www.t-8intl.com



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