メンズモード黎明期の雰囲気をまとう
ジル サンダーは、27歳のときに初めてグレーツイードのドロップショルダーのコートを買って以来、ストレッチナイロンのパンツや黒のナイロンコートなど、当時から今とあまり変わらないシルエットが好きでよく着ていました。
ジル・サンダーさん本人や、その後任としてクリエイティブディレクターを務めたミラン・ヴィクロヴィッチさんにインタビューさせてもらったのもいい思い出になっています。
最近ニール・バレット熱が高まっていたこともあり、少しモダンなコートを探していたんです。ここ数年、ジル サンダーのブティックはちょっと足が遠のいていたのですが、久しぶりにお店を覗いてみたところ、このコートとご対面!
前から見るとAラインのシンプルなバルマカーン型で、長めの着丈にもビビッときてしまい……。とにかくシルエットが素晴らしいですよね。表地の素材は、67%レーヨンに33%ポリエステルで、少しだけ光沢があるというのも上品です。
ジル サンダーやプラダは 90年代のメンズモード創成期に、僕が夢中になったブランド。そのときのプラダのメンズデザイナーがニール・バレットだったこともあり、僕はこのへんのブランドに共通の世界観を感じてしまうんですよね。あのころ流行った、ネイビーや白、ベージュ、黒をシンプルに組み合わせたコーディネイトは、今も影響を受けていてあれこれ試していますから。
そうそう、普段ロゴものは極力着ない僕ですが、このコートには背中に大きく「JIL SANDER」のロゴが入っています。後ろを見る間もなく惚れ込んでしまったわけですが(苦笑)、それはそれでアリな気がしてきて、前から、後からの2面性を楽しんでいます。
スーツの上に羽織れるエレガントさがあるのに、後ろから見るとサッカーのベンチコートみたいな感じでスポーティな軽やかさがある。一粒で二度美味しいとは、まさにこのことかなと思いまして……。
ちなみに、普段のカジュアルではニットとジーンズなどを合わせて着ています。シンプルなコーディネイトでもサマになるのは、やっぱりこの独特のシルエットのおかげなんですよねえ。
Photo:Ikuo Kubota(OWL)
Text:Toshiaki Ishii