旅の思い出が蘇る、その味を再現したくて
ロンドンに住んでいた頃、暇を見つけては英国内を旅に出たものです。そして各地に思い出の味が残っています。その中でも最も強く記憶に残っているのがスコットランドの首都エディンバラで出会った「Flapjack (フラップジャック)」というお菓子です。
オーツ麦を使ったシリアルバーのようなもので、ドライフルーツを加えたものやチョコレートでコーティングしたものなど、様々なバリエーションがありますが、私がエディンバラで出会ったのはレーズン入りのシンプルなタイプ。その作り方をご紹介しましょう。
◆味の決め手、ゴールデンシロップとは?◆
フラップジャックの材料はいたってシンプルで容易に手に入ります。オーツ麦は小粒のものを選ぶようにします。小粒の方が綺麗に固まるためです。
バターは無塩、砂糖は白砂糖では甘味に角が出て、黒糖では癖が強すぎる、粗糖がベストです。
そして、味の要になるのがゴールデンシロップ。スコーン作りの回でもご紹介しましたが、ゴールデンシロップは砂糖を精製する際に副産物として出来るシロップを酸で加工したもので、1881年にAbram Lyle & Sons社から発売され、Tate & Lyle 社と名前を変えた今も変わらぬレシピで作り続けています。メイプルシロップとはまた違った濃厚な味わいが魅力で様々なお菓子に使用出来ます。
◆記憶を頼りに再現したレーズン・フラップジャックの作り方◆
1, オーツ麦とレーズンを混ぜ合わせる。レーズンは粒がひっついていることが多いのでバラしておく。
2, 砂糖、バター、ゴールデンシロップを鍋に入れ、弱火でバターと砂糖が溶けるまで加熱する。
3, この間にオーブンを170℃に予熱しておく。
4, 砂糖とバターが溶けたらオーツ麦とレーズンに注ぎ入れ、よく混ぜ合わせる。
5, ベイキングペーパーを敷いた型に移し、スプーンで表面をしっかりならす。
6, オーブンを160℃に落として20分焼く。
7, 焼き上がったらまたスプーンで表面をならして、型に入れたまま完全に冷ます。冷ましてから型抜き、カットする方が綺麗に仕上がる。夏場は粗熱が取れたら冷蔵庫の方がベター。
8, 正方形や長方形にカットして完成。
※ ジャーなど保存容器に入れておけばしばらく楽しめます
◆ビスケットやクッキーに代わるお茶うけとして◆
ティータイムに小腹は空くけどケーキを食べるほどではない、このような時はフラップジャックがおすすめです。一欠片でも満足感のある食べ応え、紅茶との相性も抜群です。ついつい手が伸びるので、食べ過ぎには要注意です!
◆私を虜にしたエディンバラのフラップジャック◆
冒頭でも触れたとおり、私のレシピの元となったフラップジャックとの出会いはエディンバラでした。訪れたのは6年前の12月のこと。その年の9月にロンドンへ引越した私にとっては英国内で初めての旅行でした。幼少期からの憧れであったスコティッシュ・ハイランドを訪ねるのが目的で、初日と最終日をエディンバラ、中3日をハイランドで過ごすという日程です。
スコットランド旅行での1コマ。ハイランド屈指の名所、Glencoe(グレンコー)にて
初日の宿はB&B (Bed & Breakfastの略でいわゆる民宿のようなもの)で、チェックインした際にマダムがお茶を出してくれました。その日は分厚いツイードのオーバーコートを着ていても寒さを感じるくらい冷え込んでいて、スコティッシュ・ブレクファストティーが最高に美味しかったのですが、それ以上に感動したのがマダム自家製のフラップジャックだったのです。しっとりとしていて、甘さのバランスもよく、上品な味わい。
必要な材料はたった5つだけなのに再現しようとしてもなかなか同じ味や食感にならず、かなり時間がかかりました。2年後にマダムに答え合わせをしてもらうことができ、全く一緒ではなかったのですが、かなり近かったのですごく嬉しかった記憶があります。
《材料》18cm×18cm型
・オーツ麦 340g
・レーズン 85g
・砂糖 85g
・バター 190g
・ゴールデンシロップ 220g
photos&text: Kohki Watanabe
◆渡邉耕希(わたなべ・こうき)◆
愛媛県出身の1992年生まれ。ロンドンの大学でクラシック音楽を学ぶ。現地でヴィンテージ・アイテムの魅力に取りつかれ、服や靴を中心にアイテムの歴史的背景まで探求するようになる。無類のスイーツ好きが高じて開設したYouTubeチャンネル「The Vintage Salon」にて料理や英国菓子作りを通して日本で実践できる英国的生活を発信している。