センチュリーじゃなければいけない理由とは?
兵庫県の井戸知事が、公用車としてトヨタ・センチュリーを高額リースしている件が話題となっています。センチュリーは、国内エグゼクティブ(上級管理職)に向けて開発されたクルマですが、世間の目は厳しく、「税金の無駄遣いだ」と、指摘されています。
井戸知事はセンチュリーを選んだ理由を、「排気量は大きい方が信頼性の高い走行性ができるし、安全性能も優れている、車内で公務ができるだけの広さや快適性もある」としていますが、そういったクルマは他にもあり、例えば、近年は「トヨタ・アルファード」を公用車にしている要人も多いです。
なぜセンチュリーじゃなければならなかったのか、例としてアルファード/ヴェルファイアと比較しつつ、分析していこうと思います。
■生粋のショーファーカー「センチュリー」
センチュリーは、1967年からトヨタが販売しているクルマで、公用車としての役目を担うために開発されました。現行型は、2018年に登場した3代目。安全装備の充実やハイブリッド化による燃費向上など、2020年以降のショーファーカーにふさわしい性能を得ています。天皇陛下や首相など、要人の公用車として、広く使われています。
センチュリーのリアシートは、座り心地のよいモケットシート、フンワリとした座り心地のレザーシートが用意されており、シートに内蔵されるマッサージ機能や、充実したエンターテインメント機能によって、リアシートを使用する人が、移動時間を快適に過ごすことができるようなつくりとなっています。
センチュリーは、すべて熟練の職人による手作りで生産されています。7層にもなるボディ塗装には1週間ほどが費やされ、手作業で水研による磨きも行われています。深みのあるセンチュリーの黒は、エターナルブラック(神威:かむい)といった名前が付けられるほど、特別な加工が施されています。
フロントグリルやアルミホイールに配された、鳳凰のエンブレムもポイント。グリルの鳳凰は、1967年のセンチュリー誕生時に、当時の工匠が行った手彫りの金型を、現代の匠が継承して進化させたものです。
生粋のショーファーカーとして開発されていますので、性能の高さはもとより、後席に座る要人の満足感も刺激する、公用車に適した一台です。
■菅総理も愛用していた「アルファード」
ド派手なフロントフェイスをもつアルファードは、若い方にも、ファミリー層にも、ちょっと頑張れば手に入る豪華なミニバンといった位置づけの、7/8人乗りのラージサイズミニバンです。室内は広く、特に2列目のシートを後ろに引いたときには、まるで、飛行機のファーストクラスのように、足を前に真っすぐ伸ばせるほど。
エントリーモデルの「S」(税込396万4000円)から、最上級の「HYBRIDエグゼクティブラウンジS」(税込775万2000円)まで、非常に幅広いグレードがあります。
エンジンは、直列4気筒2.5ℓガソリン(WLTCモード燃費 11.4~11.6km/ℓ)、V型6気筒3.5ℓガソリン(9.5km/ℓ)、そして直列4気筒2.5ℓのハイブリッド、駆動方式は2WDと4WD(ハイブリッドはE-Fourのみ)と、複数の選択肢があります。
先ほども触れたように、近年は、政府要人や官公庁の上級役職の移動車にも、こうしたミニバンが使われるようになってきました。例えば、菅総理は官房長官時代、公用車にトヨタ・アルファードを愛用していたようです。車内が広く、快適に移動ができるという点で、アルファードも公用車に適した一台です。
■センチュリーにはアルファードにはないオーラがある
しかし、センチュリーのような「黒塗りのセダン」がもっていた、「直視してはいけない」独特のオーラは、アルファードにはないように感じます。
なぜなら、アルファードは、ファミリー向けのミニバンとして、複数の乗員が快適に過ごせるように作りこまれているからです。車内がどれほど静かで、公務ができるほどに快適であっても、「高級ミニバンの雰囲気」では、満足感は得られないのかもしれません。
県知事にセンチュリーが適しているか否かは、私が論じる問題ではありませんが、ショーファーカーとしてつくられているセンチュリーに対し、ファミリーカーとしてつくられているアルファードと、クルマとしての性能は明確に違う、ということだけは、事実としてお伝えしておきます。
Text:Kenichi Yoshikawa
Edit:Takashi Ogiyama
Photo:AC、TOYOTA