型押しかと見まごうほど美しく並んだ腑(ふ)に驚いた
洋品、車、ワインで、それぞれ家一軒分ほど散財するという趣味が高じて、2019年東京・人形町にヴィンテージショップ「Tango245」を開店した結城恵介さん。
膨大な数の服を所有してきた結城さんが、なかでも捨てられなかった服をご紹介する企画の第11回目は、ガットのビスポークシューズ、素材はポロサスです。
残念ながら、いまは既にブランド自体がなくなってしまったローマのガット。このブランドについては、こちらも今はなき日本の銘店、池田洋品店の店主にご教授いただき、イタリア語も喋れないまま単身ローマへ乗り込み、アポなし突撃ビスポークを敢行したのが良い思い出です。
当時は一回のオーダーで最低4足が基本でしたので、まずは4足を注文。その後2足を追加しましたので、計6足作っています。
そのときは、「お前はうちで2人めの日本人」と言われたのを覚えています。
伝説と都市伝説とが入り混じるガットではありますが、私が靴工房の順位付けを行うなら、まことに僭越ながら、まずは このガットと、コークストリート時代のクレバリーと答えます。
その後に、すべて昔のという前提ですが、ジョンロブ・パリ、フォスター&サン、ジョンロブ・ロンドン、マリーニ、バリーニが、ほぼ同列で並ぶという感じでしょうか。
単品で見れば、ボノーラやジョンロブ、エドワードグリーン、クロケット&ジョーンズ、チャーチなど素晴らしい靴は多いのですが、やはり比べてしまうと佇まいやオーラに差が出てしまい、かすんでしまうから不思議です。
それで、このポロサスは ある方が持っていたものを譲って頂いたんですが、ブラックとブラウン2足とも良い状態で残っているというのが 凄まじい。
ほとんど履いていないのでアウトソールも かなり綺麗な状態です。そもそも、このクラスの靴を履く人は ほとんど歩いたりしないのかもしれませんが…。
もちろんオリジナルのシューツリーも付いておりました。この時代の手間をかけて削り、軽量化までしているシューツリーだけ見ても素晴らしいです。
そして何より、「腑・斑(ふ)」の大きさ、並びともに美しすぎて……、型押しに見えてしまいます。どんな綺麗なワニだったんでしょうか。
自分の足には少しばかり小さいので ほとんど履かず、飾ってあるような状態なんですが、今後の革事情を考えると、こんなポロサスを手に入れることは ほぼ不可能かと思います。
間違っても捨てるようなことはないのですが、おそらく履くこともないので観賞用として綺麗に保管して、次の世代へ受け継いで貰おうかと考えています。
Photo:Shimpei Suzuki(Item)
Edit:Ryutaro Yanaka
結城恵介
ヴィンテージショップ、Tango245店主
DCブランドや英国物、イタリアンブランド、クラシコイタリア等の荒波にもまれながら、会社員時代、出張にかこつけてビスポーク、スミズーラを巡る旅に年数回出るまでに。その趣味が高じて2019年ヴィンテージショップを開店。欧州の銘品、逸品を販売する一方で、日本の若い職人と組んだ別注品も手掛け、海外展開を計画。散財額は、洋品、車、ワインそれぞれで 家一軒分? モットーは「迷ったら全部買う」