1991年製で 付属品もすべて揃う文化的価値も手伝って…
洋品、車、ワインで、それぞれ家一軒分ほど散財するという趣味が高じて、2019年東京・人形町にヴィンテージショップ「Tango245」を開店した結城恵介さん。
捨てられなかったどころか、履くことすらできなかったジョンロブ・パリのビスポークシューズ
膨大な数の服を所有してきた結城さんが、なかでも捨てられなかった服をご紹介する企画の第8回目は、ジョンロブ・パリのビスポークシューズ、デッドストックです。
今回の企画趣旨は「捨てなかった」なんですが、捨てられなかったどころか、履くことすらできなかった靴です。
靴や服もできれば新品の方が良いわけですが、素材の枯渇・職人不足などにより、同じブランドであっても革やシェイプなど古い品に勝てない場合が多いというのが現状かと思います。
既製品なら まだそれなりにデッドストックなども存在し、探すことも可能だとは思いますが、ビスポークのデッドストックなんかは そうやすやすと見つかるものではありません。
わざわざ高いお金と時間をかけてビスポークしたのに一度も履かずに残っているというのは普通では考えにくいのですが…、ヨーロッパのお金持ちっていうのは厚みが違います。
ビスポークを注文するのが仕事かのような人が精力的に作ってくれていたりして、たくさん作り過ぎたのか? はたまた完成したときには気分が変わってしまっていたのか? たまに出物がありまして、そういう品に出逢えれば、未使用で手に入れられることもあります。
ただし、難点がひとつあります。そういうものには「ハンパない」ものが多いということ。
ただでさえ、昔の素材と職人が手掛けた現行品とは異なる逸品なのですが、おそらく相当なお金持ちの常連さんの場合が多いので、店側も粗相がないよう、さらにランクが上の素材と職人によるものが多いんじゃないか、と。あくまで個人の感想ではありますが。
実際、私もビスポークの靴を100足以上見てきていますが、上客と呼ばれる方々のビスポークと 一見の方のそれとは佇まいと雰囲気がなんとなく異なるような気がしています。
それの何が難点なのかというと、凄すぎて履けないのです…。一度でも履いた形跡があれば心置きなく履けるのですが、例えば30年以上前のデッドストック。革もシェイプも美しく、さらにシューツリーもオリジナル、ダストバッグも箱も付いているとなると、自分が履いてしまっていいのかと思ってしまいます。
靴は履かれてナンボとは思う反面、これは後世のために動態保存すべきなのでは、とも考えてしまうわけです。
これはまさにその、捨てられないどころか、買ったのに一度も履けない、そう思ってしまう一足。
1991年製のビスポークで 付属品もすべて揃っている、ジョンロブ・パリのスエードのセミブローグです。革質もシェイプも何とも言えません。
Photo:Shimpei Suzuki(Item)
Edit:Ryutaro Yanaka
結城恵介
ヴィンテージショップ、Tango245店主
DCブランドや英国物、イタリアンブランド、クラシコイタリア等の荒波にもまれながら、会社員時代、出張にかこつけてビスポーク、スミズーラを巡る旅に年数回出るまでに。その趣味が高じて2019年ヴィンテージショップを開店。欧州の銘品、逸品を販売する一方で、日本の若い職人と組んだ別注品も手掛け、海外展開を計画。散財額は、洋品、車、ワインそれぞれで 家一軒分? モットーは「迷ったら全部買う」