こんなものを今後作るブランドは現れないだろうから手放せません
『MEN’S Precious』を中心に、数々のカタログなども手掛け、ファッションエディターとして活躍する山下英介さん。
膨大な数を所有してきた山下さんが、なかでも捨てられなかった服をご紹介する企画の第9回目は、アルニスのシルク100%パンツです。
パンツの話に入る前に「左岸のアルニス、右岸のエルメス」についてですが、セーヌ河は パリをほぼ南北に二分して東から西へ流れ、北側を Rive Droite (リーブ・ドロワット)で右岸地区、南側をRive Gauche (リーブ・ゴーシュ)で左岸地区と呼びます。右岸が貴族的で保守的な傾向であるのに対して、左岸は庶民的で革新的、芸術的な側面を持ち、それはそのままメゾンの個性にも反映されているようです。
それでこのパンツですが、フリーに成りたての時期、名品を買い漁ってた頃に出会いました。すでにアルニスは閉店してしまったので、もうこんなものを作るブランドは絶対に現れないだろうと思って、買いましたね。
三喜商事が仕入れて以降、代理店が変わったり、LVMHに買収されたりを繰り返して今やパリのベルルッティ内に
ニューシマズのご主人にはアルニスの昔のカタログを貰ったり、結構貴重なものもお持ちでした。
このパンツは、ウミット・ベナンのネイビーブレザーを合わせて、「こんな格好してるヤツはオレしかいない」なんて思いながら履いていました(笑)。
ディテールを見ると乗馬用のロングブーツを合わせるために裾にボタンが付いていて、靴に乗る感じになっているんですが、シルク100%…。
ただ、不思議なことに コレ穿いてパリを歩いていると、やたら おじいちゃんから「売ってくれないか」的な声をかけられて、探している人がたくさんいてファンも多いみたいです。
閉店セールにも行って、いろいろと買ったのを覚えています。素晴らしかった靴下はさすがに全部穴が空いてしまって もう履けないんですが、文化財的な価値があるので なかなか捨てることができませんね。
Photo:Shimpei Suzuki
Edit:Ryutaro Yanaka
山下英介
ファッションエディター
大学卒業後いくつかの出版社勤務を経て、2008年からフリーのファッションエディターとして活動。ファッションディレクターとして参画している『MEN’S Precious』を中心に、数々のカタログなども手掛ける。背景にクラシックな文化を感じさせるものに興味を持ち、まだ知られていない世界の名品やファッション文化を伝えるべく日々精進中。1976年埼玉県生まれ。