2020年6月、道路交通法の一部改正であおり運転が「妨害運転」と名付けられ、罰則が定められた。
他車の通行を妨害する目的で急ブレーキをかけたり、車間距離を詰めたりという違反を行った場合には最大で懲役3年、妨害運転がきっかけで危険な行為を生じた場合は、最大で懲役5年の刑に処せられることになり、妨害運転をした者は運転免許を取り消されることになった。
警察では、この法令を用いて捜査を徹底するとともに、積極的な交通取締りを推進していくとしている。これを受けて一部のドライバーの間では、高速道路で普通に追い越すためのパッシングすら違反になるんじゃないかと危惧する意見があるけれど、そこまでデリケートにはならないと思っている。
あおり運転と聞いて多くの人が思い出すのは、2017年の東名高速道路での死亡事故と、昨年の常磐自動車道での傷害事件だろう。
しかしこの2つのときは、あおり運転を取り締まる法律がなかった。どちらも発生時は車速0km/hで、加害者のクルマによって被害者が死傷したわけではなく、道路交通法の適用外だった。
常磐道の件では、実際に加害者が被害者に暴力を振るったために傷害容疑が適用されたが、東名の件では死亡した夫婦は後続の大型トレーラーに追突されて命を落としたことから、当初は大型トレーラーの運転手が書類送検されたほどだった。
しかも、危険運転致死傷罪を認めた一審の判決を二審が破棄したので、あれから3年も経ったのに判決はまだ出ていない。新しい法律を作らないと、このような犯罪を裁けない状況なのである。今回の法改正を批判している人は、3年経っても結論が出ない東名の一件で家族を失った遺族の気持ちを、どう考えているのだろうか。
それに今回の道交法に反論している人が例に挙げる、高速道路の追い越し車線をゆっくり走り続けるクルマは、筆者の経験ではあきらかに減った。そういう走り方はあおられやすいと、多くのドライバーが認識するようになったからだろう。
しかも、警察庁は高速道路の一部区間で、最高速度を120km/hに引き上げようとさえしている。引き上げ候補になっているのは、静岡県の新東名高速道路や岩手県の東北自動車道の他、首都圏の東北道、常磐道、東関東自動車道の一部で、状況を見たうえで他の区間も検討していくとのこと。ゆっくり走ることばかり要請しているわけではない。
それでも追い越し車線をゆっくり走るクルマが目立つなら、一部の国で行われている最低速度の引き上げを導入してほしい。写真は中国上海の高速道路で、最高速度はすべて120km/hだが、最低速度は車線によって違っている。もっとも中央寄りは110km/h以上で走らないと明確な違反になる。日本も参考にしてほしい。
ドライバーの8割があおり運転を受けたと感じている
それよりも今後は、一般道でのあおり運転が増えるのではないかと予想している。新型コロナウイルスの流行が続く中、地方を中心に、感染防止の観点から自動車通勤を奨励している会社が多いからだ。
昨年末から今年初めにかけてパナソニックが調査した結果によると、あおり運転を受けたと感じた人が8割いた一方、あおり運転をしたことがあると感じた人も半分近くいた。
運転中にイライラしたことがある人は8割以上いて、渋滞にはまったこと、時間に遅れそうだったこと、周囲の車両のスピードが遅かったことが理由のトップ3になっていた。
通勤は始業時間までに会社に行かなければいけない。しかし渋滞は予期せず発生することが多々ある。自動車通勤が多くなれば、その分イライラする人が多くなるのは目に見えている。
予防策として考えられるのは、あおられない運転を心がけることと、常磐道の事件でも役立ったドライブレコーダー(ドラレコ)を装着することだろう。ドラレコは今や車両前後の2カメラでも2万円程度とお手頃になったし、一部はWiFiを内蔵していて、現場の動画を家族などに送って助けを求めることもできる。
SNSを見ればわかるように、この国は匿名になると突然気が大きくなる人が多い。ナンバープレートがあるにしても、箱の中に収まって正体がわかりづらいクルマもまた匿名状況であり、自分の体よりはるかに大きい車体を自在に動かせるという能力も持つ。
日本人の性格が大きく変わらない限り、あおり運転はなくならないだろう。でも海外へ行けば、あおり運転の結果、銃で撃たれる恐れがある場所だってある。すべてが自由かつ安全な国などないわけで、日本らしさのひとつと捉えて気をつけるしかないのだろうか。
Text & Photos:Masayuki Moriguchi
Edit:Takashi Ogiyama
森口将之プロフィール