新車に限っては安くなっている?
マイカーのオーナーにとって5月は憂鬱な季節だ。年一回の自動車税の支払いの時期なのだから。銀行やコンビニなどで支払いをしながら、日本はどうしてクルマ関連の税金が高いのか、思った人も多いことだろう。
ただし直近で言えば、自動車税は安くなっている。昨年10月の消費税率10%引き上げに合わせ、経済産業省が作った表にあるように、軽自動車を除く乗用車の新車について税額が下がっているだ。すべての排気量で自動車税が引き下げられるのは、1950年の制度創設以来初めてだという。
さらに消費税率引き上げ時には、新車を買うときに支払う自動車取得税が廃止された。ただしこちらは環境性能割という、新しい種類の税金が自動車税の中に加わることになっている。
これまでの自動車取得税は、車種によらず登録車は3%、軽自動車は2%だった。そのうえで燃費の良い自動車はエコカー減税によって、税率が20%から最大100%、つまり免税レベルまで軽減されていた。それが環境性能割では、燃費に応じて登録車は0~3%、軽自動車は0~2%課税されるという内容であり、看板だけ掛け替えた感じがする。
どちらもあまり話題にならないのは、新車に限定しているからだろう。つまり現在所有しているクルマに関しては関係ない。では筆者を含めてそういう人たちが支払うクルマの税金の額は、本当に飛び抜けて高いのだろうか。
欧米主要国と比べてみると
ここで紹介する2つのグラフは、いずれも日本のクルマ関連の税額を欧米主要国と比べたものだ。カラーのものが日本自動車工業会(自工会)、モノクロのものは財務省の資料になっている。
自工会のそれは、自動車税と自動車重量税をオレンジで示して、この2つが欧米よりかなり高いことをアピールしているが、目立たないグレーで書いた消費税/付加価値税の数字は欧州諸国の約半分であることがわかる。ここには出ていないが北欧諸国など日本より負担が重い国もいくつかある。
一方財務省のグラフは、自動車税と自動車重量税にあたるのは薄いグレーの保有/利用課税の部分で、濃いグレーが消費税/付加価値税となる。大きく数字が違うのは、自工会のほうは13年分のデータであるためで、1年分の数字を出した財務省の保有/利用課税を13倍すると、自工会のそれとほぼ同じになる。
財務省のグラフではさらに、燃料に掛かる税金も紹介している。これらを合算すると、極端に安い米国はともかく、欧州の国々と比べると日本はクルマの税金は高くないということになる。
自工会はクルマを作って売る会社の団体、財務省は税金を扱う国の組織なので、前者は税金が高いこと、後者は逆に安いことを強調したいのかもしれない。どちらが正しいかは、どこまでをクルマの税金と見なすかによって違ってくるだろう。
新車の新規登録13年度超車両の増税について
そしてもうひとつ、自工会のグラフが13年間の累計で出している理由も説明しておこう。一部のクルマ好きは知っていると思うが、日本では新車の新規登録から13年を超えた車両については自動車税が上がる。写真に出した筆者の納税通知書もそうだ。
実はこれ、世界的に珍しい税制である。欧米の多くの国では自動車税は車齢が増えるほど減少していく方向だからだ。英国のように1973年以前のいわゆるヒストリックカーはゼロという国もある。
ただしクルマ好きの間でよく取り上げられるドイツのHナンバーは、車齢30年以上のヒストリックカーについて適用されるものだが、年額191ユーロの自動車税は掛かるので、小排気量だったり年式が新しめだったりするとむしろ割高になる。なんでもドイツが最高! というわけではない。
クルマに限らず、身のまわりにあるモノは持ち続けていれば資産価値が下がるものだし、古くなれば故障がちにもなるので走行距離は少なくなる。だから安くしていくのは理に叶っているし、予算に余裕がないので中古車からカーライフを始めたいという人や、昔から乗っている愛車が扱いやすいので乗り続けたいという人にとってもありがたい措置だ。
一方の日本は環境に優しいクルマの税金を優遇した際に、逆に古いクルマの税金を上げたと記憶している。しかし欧州の多くの国では自動車税にCO2排出量など環境要素を入れており、単純に排気量だけで分けた日本よりはるかに時流に沿っている。しかも今回、自動車取得税に代わって環境性能割という制度を入れたわけで、環境対策の税金を二重に取っていることになる。
財務省の肩を持つわけではないが、筆者は日本のクルマ関連の税金が飛び抜けて高いとは思わいない。それよりも目立つのは、昨年の自動車税の減税が新車に限っていることを含め、新車を買ってもらおうという意識が強く、クルマを文化として見る意識が弱いということだ。
Text & Photos:Masayuki Moriguchi
森口将之プロフィール