人生を豊かにしてくれる90sカーのススメ
自動車趣味人にとって今ほどいい時代はないのかもしれません。EVとか燃料電池とか、おまけにクルマがしゃべるようになったけれど、少なくとも一般庶民が金持ちになれる時代であることは確か。貴族じゃなくてもロールス・ロイスに乗っちゃうワケですね。
マネーゲームなヴィンテージカーの世界はひとまず置いといて、21世紀になって、じりじりとジャンルを確立したのが、「ネオクラシック」とか「ヤングタイマー」と呼ばれるちょいと古いクルマたち。中年男子憧れのクルマも多いことでしょう。
ボーダーラインは30年。ココを超えるとお国によってはハンドルが逆側でも登録できたり、税金がぐーんと安くなったりします。で、モータースポーツの世界でも生産から30年でクラシック車両によるレースイベントへの参加資格が認められたりします。
さかのぼること30年といえば1990年前後に売り出されたクルマたちです。日本はバブル真っ盛り。今にして思えばこの時代のクルマって、ハードの部分がどんどん進化した時代です。ドイツ車じゃなくても高速巡航速度がアップし、また逆に安全性も向上。デザインの面でも従来の心地よさを残しつつ、空力など洗練させていきました。
ところがです。そんな時代も10年過ぎれば個性喪失という目に見えるカタチに変化します。安全性を筆頭に、クルマに対する要求性能は世界基準なのですから当然です。各社ともに似たようなソフトウェアで設計し、似たような課題を抱え、似たような価格で販売。至極当然といえばそれまでですよ。
現代の生活でも過不足ない十分なパフォーマンス。クルマは錆びにくく、エアコンもバッチリ(?)効いてくれる。しかも、見た目も乗り味も個性的。「ネオクラシック」とか「ヤングタイマー」が人気になるのはうなずけるトレンドなのです。
しかし、しかし。全部が全部、趣味性と実用性、費用対効果を発揮してくれるワケじゃありません。尋常ならざる高額、修理しても信頼性が得られないとか、まあ現実はお金のかかる趣味という側面も否定できません。肝心なのは己の目利き。
そこで今回、費用をかければ相応の効果が得られる、日常遣いができそう、いまなら買える金額、という1990年代のクルマをリストアップ。価値観は人それぞれですし全ジャンルをフォローできませんが、ワタシの趣味も少し加味してご紹介してみます。
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まずメルセデスから。この時代のクルマは古き良き質実剛健な部分と、モダンなエンジニアリングが抜群のハーモニーを奏でた時代かなと思います。骨太なシャシーは相変わらず鉄チンですし、素材特有の吸収力で乗り心地よく、しかも明確にハンドリングできるクルマでした。
最上級ロードスターのSLは相場上昇気味ですが、まだ低走行の車両が整備費込み500万以下で上物が入手できそうです。新車時のオーナーは高所得者ですから保管も整備もケタ違い。とはいえ、生産初期のものはあとすでに30歳の車齢です。その点はお忘れなく。
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予算的にはコミコミ150万円から乗り出し可能なのが190やEクラスです。この手のクラシックモデルの部品を再生産・供給するなど、メルセデスは積極的なのでまず困ることはありません。そして、バブル景気の恩恵でタマ数豊富……でしたが、現状は枯渇気味。いいクルマが少なくなってきました。いまが買い時です。
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BMWもココ数年で3シリーズの初期モデルが人気者に。クロームパーツのエレガントさは樹脂パーツが増えた後期型にはありません。よさ気な物件で200万円台後半。このクラスは新車価格から判断しても消耗品。焦らずじっくり探しましょう。
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めっきり売り物件がなくなったのが“世界一美しいクーペ”と呼ばれた6シリーズです。価格は予想できませんが、金額に見合う整備が施されていることを祈ります。マニアはDOHCのM6が……とかいいますけど、2台乗り継いだワタシの経験からいえばOHCのシルキー6で十分魅力的。6シリーズの美点が感じられます。ただし、部品は少々お高めです。
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アウディは縦置き2.7リッターV6ターボ+クワトロ(AWD)+6MTのS4をオススメします。セダンとワゴンがありますがコスパも性能も最高。しっかり整備すればいまだにビュンビュン走れます。上級グレードにハイチューンのRS4がありますが、早くて乗りやすいS4に軍配を上げておきます。
信頼性に不安が過るかもしれませんが、この時代のイタリア車はまさに日常をリフレッシュしてくれる最高のパートナー。いま狙って仕上げるなら156がいい感じですね。先代の角張ったデザインの155も魅力ですが完成度はコチラが上手。じゃあ159とかブレラってどうよ? となれば、面白みに欠けますね……というのがワタシの結論。
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2リッター4気筒は上玉が極少なので忍耐力が必要。ワタシならV6+ATの組み合わせを探します。アルファのV6は秀逸ですしATでもワクワクする気持ちは変わらず。モダンクラシックな濃度は156が最右翼でしょう。禁断のタイミングベルト、ウォーターポンプなどは納車時にリセットを。欠品パーツが出ているので、各種アキレス腱を含め専門店でイロイロ教えてもらいましょう。それがお店選びのヒントにもなります。
バウハウスのデザイナーたちはアメリカと北欧に流れたようですが、クラシック・ボルボの魅力はミニマルな風情と道具感のバランスでしょうか。人気は240でしょうがワタシの狙い目は740エステートです。
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搭載するエンジンは2.3リッター直4ターボ。よって走りの良さが今の時代にマッチします。ただし、ボルボオーナーはよく走るためか過走行気味の個体が多く流通しています。ぶつけてなければボディは錆びませんが、コチラも気長に好物件を探したいですね。部品供給は問題ありません。
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ジャガーのフラッグシップであるXJ。新型はEVになるとのハナシですから、スチールシャシーのX300型は見逃せませんね。ただし、ATがキモなのでOHは前提条件となりそう。でもね、低いルーフがもたらす独特の空間は何とも言えず上質です。相場は底値を脱出したのか整備してあるのか、売値+50万を考えておきましょう。
底値を脱したといえば、X100型のXK8です。ひところは2桁万円で買えたんですけどね。流麗なEタイプの面影残るビッグキャットもスチールシャシーで楽しみましょう。味わい深いいいクルマです。ボディタイプはクーペとコンバーチブルがあります。
本来であればじっくりと1台1台クロースアップしたかったのですが、今回はアウトライン程度の解説にとどまってしまったことをご容赦ください。いずれにせよ、「ネオクラシック」&「ヤングタイマー」は大人の嗜好品です。人生を豊かにしてくれることだけは間違いありません。
Text:Seiichi Norishige
■Jaguar XK8 & Mercedes SL | Fifth Gear Classic