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FOOD 日本独自のカレーを探れ

カレーの街・下北沢が誇る激ウマ名物『漆黒のカツカレー』を今すぐ食すべし

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現地完全再現の本格インドカレーからご当地カレーまで、百花繚乱な日本のカレー事情。そんななかから、いまも進化を続ける日本独自のカレーを「カレーライス」と定義し、個性溢れる「今食べるべきひと皿」とその作り手を、気鋭のカレーライター 橋本修さんが追いかけていきます。

今回は下北沢「般°若(パンニャ)」

現地完全再現の本格インドカレーからご当地カレーまで、百花繚乱な日本のカレー事情。そんななかから、いまも進化を続ける日本独自のカレーを「カレーライス」と定義し、個性溢れる「今食べるべきひと皿」とその作り手を、気鋭のカレーライター 橋本修さんが追いかけていきます。

今回橋本さんが訪れたのは、話題のドラマ「獣になれない私たち」でも抜群の存在感を示した俳優、松尾貴史さんがオーナーを務める下北沢の人気店、「般°若(パンニャ)」。

2009年、駅前の商店街から少し外れたところにオープンした般°若は、すぐさま食通のあいだで評判となり、以来、カレー激戦区・下北沢においても行列の絶えない店として君臨してきました。

そんな般°若が昨年、下北沢駅北口からほど近い、商店街の路地裏に移転しました。席数が倍増し、今までよりも気軽に楽しめるようになった般°若の絶品カレーは、日々進化を続けている模様。一体、どんなカレーを食べることができるのでしょうか?

行列の解消を目指して

カフェ風だった旧店舗から、印象も一転、スペインバルの居抜き物件に移転。再開発により迷路化している下北沢駅前ですが、北口から歩いて3分ほどと、以前よりも駅から近くなりました

老舗「茄子おやじ」をはじめ、スープカレーの名店「マジックスパイス」など、バラエティ豊かなカレー店を擁する下北沢。毎年10月に街全体をあげて開催される「下北沢カレーフェスティバル」は日本最大規模のカレーフェスとなり、演劇の街・下北沢はいまやカレーの街としての顔も併せ持つようになりました。

そんなシモキタにゆかりのある俳優、松尾貴史さんがオーナーを務めるカレー店が、今回訪れた「般°若」。2009年のオープン以来、下北沢カレーシーンを牽引し続ける重要店のひとつとして、カレー好きにとってはすっかりおなじみの存在でしょう。

般°若は昨年、以前よりも下北沢駅に近い場所へ移転し、新たなフェーズを歩みはじめました。長きにわたり行列店として名を馳せた旧店舗からの移転は、なにがきっかけだったのでしょうか? 店長の岡井さんに聞いてみました。

岡井さん(以下、敬称略)「やっぱりスペースの問題ですね。前の店舗はカウンターだけで席数が少なかったので、夏も冬もお客さんに外で待ってもらうというのが、ずっと申し訳ないと思っていたんです。いまの店舗は席数も広さも、ほぼ倍になったので外で待っていただくこともだいぶ減りました。

もうひとつ、駅から近くなったことも大きいです。前の店舗のときは駅からちょっと距離もあったし、なにより少し中心地から外れた立地だったので、とにかく『場所がわからない』という電話が多くて(笑)。その問い合わせが移転以降は大幅に減ったので、そういう意味でも今の場所に移ってよかったですね。

物件自体は何年も断続的に探していて、今回はご近所のかたから『あそこ空いてるよ』と教えてもらったんですが、本当にタイミングがよかったんです」

進化を続けるレギュラーメニュー

チキンカレーとラムキーマを楽しむことができる定番メニュー「チキンとキーマのカレー(1,350円)

キャパシティが倍増し、駅からのアクセスも格段によくなった新生般°若。提供されるレギュラーメニューは、開店当初から存在するチキンカレー、カツカレー、キーマカレーに、途中から加わった野菜のカレーをあわせた全4種という、旧店舗時代から変わらないラインナップですが、そのいずれもが、長い時間をかけて変化を続けています。

岡井「般°若のカレーのオリジナルレシピは、オーナーの松尾と初代の店長が作り出したものです。もともとカレー好きだったオーナーが、以前上馬で春風亭昇太さんら8人の仲間と共同でバーをやっていた時に出していた、山梨の居酒屋さんのカレーに影響されて、試作をはじめたのがお店をオープンさせるきっかけでした。

でも、その当時のカレーと今の般°若でお出しているカレーは、結構変わっているんですよ。カツカレーのカツやごはんも変わったし、チキンはカレーのベースが変わっただけじゃなく、使う部位も手羽元からモモ肉に変更しています。キーマも、今は羊ですけど、以前は鶏のキーマを出していたんですよね。そのあたりも、作る人が変わることでマイナーチェンジを繰り返しているんです」

名物、黒いカツカレーの誕生秘話

漆黒のカツがインパクト大な「マハーカツカレー(1,520円)」は下北沢店限定のメニュー

これらの進化は味や食感だけでなく、ビジュアルも大幅に変化しています。羊のキーマは相性が素晴らしい大量の香菜の緑を合わせることで色味も豊かになりましたが、なによりもインパクトが強いのは、マハーカツカレーの黒いカツでしょう。あまりにも独特なそのカツカレーの誕生は、仕入れが困難になったことから生まれたアイデアでした。

岡井「カツカレーリニューアルのきっかけになったのは、もともと限定で出していたカツカレー用のお肉が、仕入先のお肉屋さんが人気になってしまい、安定して出せなくなってしまったことなんです。そこでオーナーが、大阪でご縁のあった豚料理屋さんに相談をしていたなかで、あのイカスミ入りのパン粉を分けていただけることになって、生まれました。

『女性ひとりでもペロッと食べられるカツカレー』というコンセプトに基づいて、その生パン粉をさらに手で細かくして、食感を軽くしています。ちなみにカツカレーは(大阪の)福島店では出していなくて、下北だけのメニューなんです」

昼に食べてもちゃんと夜にお腹が空くカレー

カウンター席だった旧店舗から一転、席数が倍増した現在の店舗

その唯一無二な黒いカツカレーは、いまや般°若の顔役となっていますが、そのカツカレーやチキンカレーのグレイヴィーもサラッとした軽めのものながら、しっかりと食べごたえもあります。そこにはやはり、女性の1人客が目立つ立地ゆえの工夫がありました。

岡井「昼に食べてもちゃんと夜にお腹が空く、もたれないカレーだと思います。キーマのマトンにしても、カツカレーの豚にしても、脂身の少ないところを使うようにしていて、それは脂っぽさを減らすためでもあるんですが、マトンが苦手な方でも食べてもらえるように、臭みが出にくい脂身の少ない部分を選んでいます。

それに、スパイスと香菜で調理しているので、より食べやすいと思うんですね。だから、羊が苦手で迷っている方でも、一度試してもらうと気に入ってもらえることが多いんです」

新メニューはオーナーのチェックを経てから

注文は食券制。アルコールも楽しめます

個性的なメニューが看板として鎮座しつつも、イベントなどではイレギュラーのメニューが出ることもしばしば。進化を続けたことで、マスターピースとも言える存在感を放っているレギュラーメニュー陣に対して、限定メニューはどのようにして誕生しているのでしょうか?

岡井「基本的には、いまあるメインの4つは残して、そこに日替わりやイベントなどで自分たちがやりたいことや、遊べる部分を入れていくスタンスで、その辺はオーナーからも割と自由にやらせてもらっているんです。あくまで美味しければ、ですけどね(笑)。以前、カレー鍋をやろうと思ったことがあって、オーナーに試食してもらったんですけど、食べ終わったあとに無言だったので、察しました(笑)。

逆にオーナーから『こういうものがやりたい』『こういうのを作ってみて』という要望が出されることもありますね。それが今はビリヤニになることが多いです。レギュラーメニューに加えるというよりは、イベントごとなんかで、それに合わせたものを出したいと考えているみたいです」

期待のホープ、ビリヤニ

現在の般°若を支える店長の岡井さん(写真左)と、シェフの鈴木さん(写真右)

そんな般°若は2018年、二度目の参加となった「下北沢カレーフェスティバル」で、はじめてオフィシャルにビリヤニ(米と肉、多種多量のスパイスを用いて作られる、パキスタン発の炊き込みご飯)を提供しました。ベーシックなチキン・ビリヤニに、鯖マサラと焼きトマトが添えられた、般°若らしい遊び心が加えられたプレートは、オーナーである松尾さんたっての希望とのことですが、その後もいくつかのレパートリーのビリヤニを提供しています。

岡井「もともとオーナーがずっとやりたいと言っていたので、たまにお店を手伝ってもらっているもんこさん(カレー・スパイス料理研究家の一条もんこ)に相談したんです。実はビリヤニ自体、渡辺がいた頃から構想というか、ある程度具現化していたことがあるんですが、その頃はリスクがどの程度かもわからなくて、結局メニューにのせなかったんですね。それから年月を経て、この前のイベントでトライアルをやってみて、ビリヤニのポテンシャルをそのときにはじめて実感できました。

だから、カレーフェスのときは割と勝負だったんです。全然人が来なかったらどうしよう、もし来てくれても、ビリヤニだからって帰ってしまったらどうしよう、って。実際蓋を開けてみたら全然追いつかないほどのオーダーをいただいて嬉しかったんですが、とにかく大変でした。カレーフェスの時期はそうじゃなくても大変なのに、そんなタイミングで慣れないビリヤニなんてはじめるもんじゃないですね(笑)。

でも、おかげさまでイベント後もビリヤニについて聞かれることが増え、認知度も広がったので、あくまで『気持ち的には』ですが、今後は準レギュラーみたいな感じで出したいと思っています」

シモキタの朝食もインド化したい

旧店舗時代から店内を見守る、オーナーの松尾貴史さん自らによる折り紙の般若面

新たなスター候補であるビリヤニの今後も大変気になりますが、シェフの鈴木さんにはそれとはまた異なる、面白い構想があるそう。それは、下北沢の街としてのつながりを感じる、斬新かつ、とても楽しそうな企みのようです。

鈴木さん「いま朝ごはんの計画をしていて、朝からカレーが食べられるようになったらいいな、と思っているんです。下北インド化計画ですね(笑)。下北にはあまり朝ご飯を食べられるお店がないんですが、サービス業の人は本当に多いので、お店を開ける前に一呼吸おけるような、定食みたいなものが出したい。最初は毎日とかではなく、ゆっくりはじめる感じになるかもしれないですが、カレーライスというよりは、サンバルやラッサムみたいな汁物に、惣菜、タンドリーチキンみたいな構成の朝定食だったらおもしろいかな…とか、構想を練っています。

うちのお店の向かいに『こはぜ珈琲』というコーヒー屋さんがあって、うちでカレーを食べたあと、こはぜ珈琲さんで食後のコーヒーを飲んでいくという方がとても多いということもあって、うちが朝ごはんをやるんだったら、こはぜ珈琲さんは般°若ブレンドを作ってくれるって言ってくださっているんです(笑)」

商店街の通りから一本入った路地に面する般°若。この大きな看板が目印です

まるで悪だくみをする子供のように、うれしそうに「下北インド化計画」の構想を語る鈴木さんですが、実現すれば下北沢どころか、全国的に見てもあまり例のない、インド式の朝食を食べられるお店ということで、またもや話題を呼びそうです。

オーナーの松尾貴史さん自身が、カレーを食べたいときに食べられる店としてはじまった般°若は、オープンから10年弱を経て、今や下北沢の街になくてはならない存在となりました。個性豊かなレギュラーメニューと、期待のホープであるビリヤニ。未経験の方はもちろん、しばらく足を運んでいないという方も、最新の般°若をぜひ味わってみてください。

Photo:Takuya Murata
Text:Osamu Hashimoto
Edit:Yugo Shiokawa

今回訪れた店

般°若(パンニャ)

東京都世田谷区北沢2-33-6 スズキビル1F

03-3485-4548

営業:11:30〜15:30、17:30〜21:30

定休:水曜日

http://pannya.jp/

筆者プロフィール


橋本修(はしもと おさむ)
スパイスディーラーとしてストリートで名を馳せ、2017年からはカレーに特化した食ライターとしての活動を開始。先日、ライムスター宇多丸氏がパーソナリティを務めるTBSラジオの人気番組「アフター6ジャンクション」のカレー特集にも出演。電波の上でも日本のカレー事情をスムースにオペレートした。DJ、音楽ライターとしても活躍中。(イラスト:@animamundi_)


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