これは加工ではなく、着込んだ結果なんです(笑)
人生には、どうしても手放せなかった服、そう「捨てなかった服」があります。そんな服にこそ、真の価値を見出せるものではないでしょうか。そこで、この連載では、ファッション業界の先人たちが、人生に於いて「捨てなかった服」を紹介。その人なりのこだわりや良いものを詳らかにし、スタイルのある人物のファッション観に迫ることにします。中村達也さんに続いて登場するのは、株式会社スピラーレの代表取締役社長、神藤光太郎さん。
神藤さんが膨大な数を所有してきた中でも捨てられなかった服をご紹介する企画の第10回目は、「クリスチャーノ フィッソーレ(Cristiano Fissore)」のコットンニットです。
クリスチャーノ フィッソーレは恐らく現在はドラテックス社という会社に買われたと思うんですが、その前はクリスチャーノ フィッソーレさん自身がオーナー。デザイナーは初代が女性、2代目が男性だったんですが、2代目の彼が手掛けたデザインですね。
非常に甘い依りで、上質な素材を使ってイイ色を出すという、素敵なニットブランドだったんですが、日本では そこまで出回らなかったんです。
かつてストラスブルゴではお取り扱いがあり、それを買って着ていたんですが、じつは欠陥がありまして、首周囲がブチっと切れて、そのままどんどん崩壊していきました。
ただ、あまりに気に入りすぎていて、こんな状態なのに いまだに着続けています。
着ているとイタリア人に「それどこのニット?」なんて聞かれたりもして、こういうブロークン加工に見られがちですが、着ては洗濯を繰り返しているうちに、こんな状態になったんですね(笑)。
だいぶ色も褪せてしまっている箇所が目立ちますし、酔っ払って赤ワインをこぼしたりしてるんでシミも付いちゃってますが、あまりに気に入りすぎて、15年くらいずっと現役。夏場にはホントよく着ています。
着る度に崩壊が進んでいる気はしますが、とにかく気に入っているので手放す気にはなれず。服としての機能を失うまでは袖を通し続けますし、着られなくなっても捨てることはないような気がします。
Photo:Naoto Otsubo
Edit:Ryutaro Yanaka
株式会社スピラーレ 代表取締役社長
クリエイティブディレクターとしてインポーター会社のメンズ部門を統括した実績をもとに、現在は新たなビジネスの準備に取り掛かる。イタリアのニットブランドを皮切りに、日本に魅力的なブランドを持ち込むべく、日夜奔走中。