欠点挙げたらキリがないですが、肩肘張ってない感じが好きなんです
人生には、どうしても手放せなかった服、そう「捨てなかった服」があります。そんな服にこそ、真の価値を見出せるものではないでしょうか。そこで、この連載では、ファッション業界の先人たちが、人生に於いて「捨てなかった服」を紹介。その人なりのこだわりや良いものを詳らかにし、スタイルのある人物のファッション観に迫ることにします。中村達也さんに続いて登場するのは、株式会社スピラーレの代表取締役社長、神藤光太郎さん。
神藤さんが膨大な数を所有してきた中でも捨てられなかった服をご紹介する企画の第7回目は、「ロリス・ヴェストルッチ(Loris Vestrucci)」のスーツです。
フィレンツェでは、リヴェラーノ&リヴェラーノが有名なんですが、ロリス・ヴェストルッチは靴職人ステファノ・ベーメルが制作を依頼していたテーラーなんです。他に有名人でいうと、ダニエル・デル=ルイスも作っていて、彼は2002年公開の『ギャング・オブ・ニューヨーク』の出演前、ステファノ・ベーメルの元で靴づくりの修行をしていた過去があるんですね。
70’sのフィレンツェな雰囲気で作るから、リヴェラーノ&リヴェラーノのアントニオさんとはまた違うラインを描きますし、なんとも言えない独特の味がありました。なので、スピーゴラの鈴木くんとか、イルミーチョの深谷くんとか、当時仲良かった面々を誘って、作りに行っていました。
ロリス・ヴェストルッチは、今はご高齢なので、ブランドを売却してしまって、別の方が経営しています。
出会いは友人だったステファノ・ベーメルに紹介していただいたんですが、当時ロリス・ヴェストルッチはヴィンテージの生地をたくさん所有していました。
最終的に2着しか作っていないんですが、今回のものと、リード&テイラー社のブロンズイーグルというベージュベースにブラウンとオレンジ、ブラック、グレーのストライプがミックスされていているものも持っています。
これは2000年に作ったものなのでリラで支払ったんですが、当時のレートがすごく安かったので、20万円くらいで作ることができました。
確かドーメルの「アマデウス」という生地を使って作ったんですが、今のものは手触りや打ち込み具合も変わってしまったので、ヴィンテージ扱いになると思います。
パンツに関しては、下職の人があまり上手ではなかったので、実は日本で五十嵐トラウザーズの五十嵐くんに頼んで、仕立て直して貰っています。
スーツも変わった形なんですよね。バランスが独特で、着丈も袖も短いし、ゴージも低い。一見、古臭い感じもするんですが、着てみるとモダンな雰囲気があるから不思議です。
リヴェラーノ&リヴェラーノのスーツの方が色気はあるような気がするんですが、ここのは他とは全然違って、独特の味があるといいますか。欠点を言いだすと止まらなくなりますが、なんとも言えない雰囲気と、肩肘張ってない感じが好きなんです。
今も現役で頻繁に着ていますし、これからも着続けると思います。
Photo:Naoto Otsubo
Edit:Ryutaro Yanaka
株式会社スピラーレ 代表取締役社長
クリエイティブディレクターとしてインポーター会社のメンズ部門を統括した実績をもとに、現在は新たなビジネスの準備に取り掛かる。イタリアのニットブランドを皮切りに、日本に魅力的なブランドを持ち込むべく、日夜奔走中。