今では珍しい、高価な梳毛のカシミアニット
人生には、どうしても手放せなかった服、そう「捨てなかった服」があります。そんな服にこそ、真の価値を見出せるものではないでしょうか。そこで、この連載では、ファッション業界の先人たちが、人生に於いて「捨てなかった服」を紹介。その人なりのこだわりや良いものを詳らかにし、スタイルのある人物のファッション観に迫ることにします。中村達也さんに続いて登場するのは、株式会社スピラーレの代表取締役社長、神藤光太郎さん。
神藤さんが膨大な数を所有してきた中でも捨てられなかった服をご紹介する企画の第1回目は、「クルチアーニ」のクルーネックニットです。
クルチアーニが初めて梳毛のニットを手掛けたときで、13〜14年前のものです。今はタグが白いんですが、当時使っていた黒いタグが付いています。
ディアマンテ ロッソと呼ばれ、世界最長といわれているカシミア繊維を糸にしたものが出始めた頃に製品化されたものなんです。正確な価格は覚えていないんですが、当時で10万円を越えていて、結構高かったことは覚えています。
梳毛なので、目がきれいで薄手でツルっとしていますし、全然毛玉にもならないので、いまだに現役で活躍してくれています。
いま世に流通しているカシミア100%のニットってほとんどが紡毛なんですが、梳毛で薄いものってなかなかないので、これは大切に着ているんです。
洗濯表示的にはドライクリーニングなんですが、カシミアは洗ったほうが脂が抜けてフワッとしてきてイイ感じになるので、ネットに入れて弱水流の洗濯機で洗ってしまう。バスタオルに巻いて脱水してから干して、当て布しながらスチームを当てているので、伸びたり劣化したりすることもなく、いい風合いを保ってくれていますね。
カシミアシルクも良いんですが、シルクが混じる分ツヤがあって目立つ感じがする。カシミア100%はそのツヤがなくて控えめな雰囲気ですし、とにかく着心地も良い。シルエットも古びれることもないですから、いまだに重宝しています。
2〜3万のウールのニットを買って1、2年で手放してしまうよりは、10万越えでも良いカシミアを買って長く着た方が結果散財しないことになるので、ニットは高いものしか買わないようにしてます。
だいぶ着てるので少しほつれてきていますが、あんまり気にならないんで、味として着ちゃいますが、本当に危なくなったらニット屋さんで直して貰いながら崩壊するまで着続けると思います。まぁ捨てたり手放すことはないですね。
Photo:Naoto Otsubo
Edit:Ryutaro Yanaka
株式会社スピラーレ 代表取締役社長
クリエイティブディレクターとしてインポーター会社のメンズ部門を統括した実績をもとに、現在は新たなビジネスの準備に取り掛かる。イタリアのニットブランドを皮切りに、日本に魅力的なブランドを持ち込むべく、日夜奔走中。