アントニオ・パニコによる芸術作品としての価値
人生には、どうしても手放せなかった服、そう「捨てなかった服」があります。そんな服にこそ、真の価値を見出せるものではないでしょうか。そこで、この連載では、ファッション業界の先人たちが、人生に於いて「捨てなかった服」を紹介。その人なりのこだわりや良いものを詳らかにし、スタイルのある人物のファッション観に迫ることにします。成毛賢次さんに続いて登場するのは、ビームスのクリエイティブディレクター、中村達也さん。
中村さんが膨大な数を所有してきた中でも捨てられなかった服をご紹介する企画の第12回目は、「アントニオ パニコ」のジャケットです。
イタリア・ナポリのサルトリアと呼ばれているテーラーで、僕が初めて作ったのが今回の「アントニオ パニコ」。「ダルクォーレ」や「コスタンティーノ」でも作っていましたが、初めてはココで、2000年代の始めくらいでしたので、15年くらい経ってるとは思います。

棚にある生地の中から選ぶのですが、僕はイギリスっぽい生地が好きなのでガンクラブチェックでイイかなと選んだら、いきなり採寸されて、「任せろ。お前にピッタリなヤツを作ってやる」って言われまして。その後 仕上がったらノーベントで、肩パッドも入れないでって伝えたのにモリモリに入った状態で上がってきまして…。
最初、袖ボタンも1つだって言われたのですが、それは勘弁して欲しいと、なんとか3つにして貰いました。スポーツジャケットに袖ボタンを4つ付けるのは、アメリカ人だからダメだと。後々聞いたら、ナポリはスポーツジャケットの袖は1つ、もしくは3つ。スーツなら4つでも良いそうです。

着ると、もの凄く身体のラインは出ますが、これは着ないなぁ…と。実はほとんど袖を通していないのですが、コレはもう作品の領域。決して自分の好きなカタチではないのですが、作品としての素晴らしさは漂っていて、着たときのフォルムは決して既成服では出せない。サルトとは こういうものだなって納得します。
アントニオ・パニコの手掛けた服は数着持っていたんですが、やはり着ないものが多くて処分しました。でもコレとサックスブルーに茶色のウィンドウペーンが入ったツィードジャケットだけは捨てられませんでした。柄も気に入っていましたから。
実はこの一着を仕立てる前に、勝手に作られたモノがありました。それはフィレンツェにあるアストリアというホテルで、彼がプレタポルテの受注をしていた際に勝手に測られて、次のピッティで会ったときに「お前のジャケットができたよ」って渡されたモノなのですが、それはオレンジのツィードでした(笑)。
仮縫いもしていないから脇もキツいし肩も合っていないし、色も色ですから。「勘弁してくれよ。こんなの着ないよ」と思って断ったら、勝手に直して1年後のピッティで「完成した」って再度渡されました…。仕方がないから買い取りましたけど、まったく着ずに手放しましたね(笑)。
カタチは全然今のトレンドとはかけ離れているのですが、着ると味があるし、違いを感じさせられる。全く袖を通すことはないのですが、捨てられません。
今後サルトのような文化は途絶えていくものですから、そういう意味では遺産というか、彼の芸術作品として遺していくべきモノだと思います。ただ、僕が死んだら家族は勝手に捨ててしまうだろうから、死ぬ前に「捨てるな! ビームスに寄付しろ」と書いた手紙をポケットに入れておこうと思います(笑)。
Photo:Naoto Otsubo
Edit:Ryutaro Yanaka

ビームスクリエイティブディレクター
大学在学中よりBEAMSでアルバイトをし、卒業後ショップ勤務、店長、バイヤーを経て現在はクリエイティブディレクターとしてドレス部門を統括。メンズのドレスクロージングに関するセレクトや論理的な解説が持ち味で、媒体での連載や自身のブログ”ELEMENTS of STYLE”は絶大な人気を博している。
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