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FASHION 赤峰塾!間違いだらけの洋服選び

ドクトル赤峰と“サルトリアを知り尽くした女”が語る「男の装いの意味」

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ジェントルマン道を極めるドクトル赤峰とファッション界のレジェンドたちが、イマドキファッションの風潮やヤワな着こなし、ガッカリスタイルなどをスパッと一刀両断! 男として、あるいは女として、「清く、正しく、美しく」生きるために必要な服装術や、服を着ることの意味・意義をストレートに語り尽くします。

ジェントルマン道を極めるドクトル赤峰とファッション界のレジェンドたちが、イマドキファッションの風潮やヤワな着こなし、ガッカリスタイルなどをスパッと一刀両断! 男として、あるいは女として、「清く、正しく、美しく」生きるために必要な服装術や、服を着ることの意味・意義をストレートに語り尽くします。

前回に続いてゲストは、今年3月に大判のヴィジュアルブック『サルトリア・イタリアーナ』を出されたジャーナリストの長谷川喜美さんです。英国サヴィル・ロウのトップテーラーから、イタリア各地にある様々なサルトリアを取材する長谷川さんと、我らがドクトル赤峰が、「英・伊・日」の男の装いを斬る!

ドクトル赤峰がピッティ・ウオモに持っていく服に驚愕!

長谷川 今回、初めて赤峰さんの「めだか荘」にお邪魔しましたが、ワードローブを整然と整理されていて感動しました。赤峰さんはピッティ・ウオモに行くとき、どれぐらい服をお持ちになりますか。

赤峰 たとえば4日滞在として、スーツ6着、靴5足に、ネクタイは50本ほど持っていきますね。

長谷川 50本!

赤峰 その時の気分で選びたいから、前もって決めていきたくないんですよ。

長谷川 さすがです。今回のピッティ期間中に『サルトリア・イタリアーナ』の出版記念パーティーがあるので宜しくお願いします。

赤峰 『サルトリア・イタリアーナ』で長谷川さんが取材されたイタリアの27店のサルトのオーナーたちも出席されるそうなのでとても楽しみです。長谷川さんは「男の服の魅力」をどう感じていますか。

長谷川 男性の服は、“マストハブ”といわれるベーシックなモノでワードローブを構築していく楽しさがあります。また、長く着ることができるのも魅力だと思います。ビスポークのスーツは出来たてのときはしっくりこないもので、グッドイヤー製法の靴もそうですが、馴染むのに時間がかかります。でも時間がかかる分、それだけのクオリティがないと保(も)ちません。

赤峰 私のスーツも20年から28年選手というのがたくさんあります。

長谷川 赤峰さんは体型が変わらないのも素晴らしいですね。赤峰さんのように何年もかけてビスポークを自分のモノにしている人の中に新品の服を着て入ると、なぜか新品の服が安っぽく感じてしまうんです(苦笑)。それが時間をかけて馴染んだものの魅力なんですね。

赤峰 ビスポークは時代と時間を超えられます。20年物のスーツを着ていくと、「新しい!」と言われるんですよ(笑)。

英国のハイソサエティがヨーロッパの頂点である

赤峰 長谷川さんはテーラーやサルトリアの取材をしていますが、女性目線では「男服」はどう映りますか。

長谷川 原稿を書くときは女性を意識していませんが、1冊目に『サヴィル・ロウ』(万来舎刊)を出したときは「意外だ」と言われました。ヨーロッパの感覚ではサヴィル・ロウはメンズの頂点ですが、日本では「クラシコイタリア」ブームなどがあって、イタリアモノがメインだったので、「英国も頑張っているね」という受け取られ方でしたね。

赤峰 なるほど。やはりブームは怖いですな(笑)。

長谷川 スーツのオリジンを辿っていくと、スーツが今の形になったのは大英帝国の最盛期で、英国が世界の四分の一を支配していたとき。洋服産業は軍服とともに産業として大きくなっていきましたが、例えば英国陸軍のひとつの階級だけでも11種類の軍服があって、士官は全員ビスポークだったこともあって、腕の良い職人に対する需要がありました。男性の美意識は英国が一番の頂点で、そこからローカライゼーションして自分の国にフィットしていったのです。

赤峰 お見事な解釈です。今年、明治元年から満150年ですが、日本でのスーツの認知は中曽根元首相の年齢と同じく100年ぐらいのものなんですね。明治・大正期は英国を手本にして、その「楷書体」を上流クラスの人たちが愚直に実践した。しかし、戦争が終わってアメリカに負けたところから、アメリカに跪(ひざまづ)くことを前提に経済復興があり、今に至っていると言っても過言ではない。スーツという軍服を着て、お父さんが一生懸命働いて、経済だけは強くなった。欧米と肩を並べるようにはなったが、「一般教養としての服の教育=服育」はまったく受けていないんですよね。

長谷川 ヨーロッパの男性を見ていると、メンズウェアに関わっている人は、子どもの頃に父親のワードローブで遊んでいて、父親とビスポークテーラーに行ったりしています。ただ、それは限られた上流階級の裕福な人たちで、逆にヨーロッパでも、普通の人たちはそこまでの服育は受けていないのではないでしょうか。

赤峰 長谷川さんには日本のサラリーマンはどう映っていますか。

長谷川 日本人のサラリーマンは装うことに真面目ですし、細部にまで気を遣っているのでとてもおしゃれだと思いますが、現状を見ていると、これから先、どこに向かって行くのが大事なのかなとは思います。

赤峰 日本人の「洒落る」と「おしゃれ」は解釈が違っていて、洒落るは「アンダーステートメント=控えめな美しさ」ですが、おしゃれは「女性にモテたい、目立ちたい」と、まったく根っこが違う。そういうところから齟齬が生まれます。

長谷川 それは本当にそうですね。欧州の男性は、ベーシックでクラシックから育ってきているので、「真っ当なクラシックな装い」がビジネスの場でどう扱われるかまで意識的に着こなしています。

赤峰 日本人は往々にして、「声が大きい人」のほうが洒落てる系になっちゃうんですよね。本当はグローバルに出て行くことを装いで表現しなければならない。

長谷川 辛口になってしまうかもしれませんが、イギリス人のクラシックな感覚では男性がビジネスで脛(すね)を見せる装いはありえないこと。そう思っている社会の中で、「知らないことによって、自分がマイナスに見えてしまう」のはよくない気がします。

赤峰 そういう常識も服育の一つです。

「メジャーをフィッティングしていく」という本当の意味

長谷川 欧米人は会話の最初に「YesかNoか」の結論を言いますが、日本ははっきり言うと角が立つと思っています。そういう日本人の美意識が海外では邪魔になって、通用しづらい。

赤峰 ビスポークやス・ミズーラのとらえ方も違いますね。日本人は身体にフィットすることに意識が強いですが、「メジャーをフィッティングしていく」というのは、着ることじゃなくて人生なんです。身の丈の生活の中でどういうメジャーで測るかということ。

長谷川 日本人はオーダーメイドを語るときに、「この手仕事が……」とか言いがちですが、イタリア人はス・ミズーラだけでなく、とにかく1センチ単位でマメに直していきます。その補正がまさに「メイドトゥメジャー」の意味で、細かく補正しながら着心地の良さを求めていく。

赤峰 オーダーも日本ではブームですからね。ただ、日本人には挨拶をきちんとするような礼儀正しさがしっかり根づいているので、「良いモノを長く着よう」というのが根づいていったら暮らし方が変わると思います。

長谷川 同感です。「日本文化が好きだ」という外国人に、谷崎潤一郎の随筆『陰翳礼讃』をプレゼントすると感動するんですよ、日本人の美学では「影にも意味があるのか」と。

赤峰 私たちは日本人のアイデンティティーや美意識を保ちつつ、男性が「良い服を着たい」という流れに導いていく仕事をしたいですね。今日はどうもありがとうございました。


長谷川喜美(ジャーナリスト)
日本ではメンズプレシャス(小学館)、The Rake Japan(ザ・レイク・ジャパン)、Men’s Ex (世界文化社) 、GQ JAPAN(コンデナスト・ジャパン)などに執筆。『サヴィル・ロウ』、『ビスポーク・スタイル』に続くヴィジュアルブック3作目となる『サルトリア・イタリアーナ』を今年3月に上梓。今作はイタリアのスーツが生まれる現場を徹底取材し、A. カラチェニ、リヴェラーノ&リヴェラーノ、ルビナッチをはじめとする名門から、メンズスタイルに旋風を巻き起こす若きサルト、家族経営の小さなサルトリアまで、イタリアン・テーラリングを支える新旧の名店27店を紹介。イタリアン・スタイルの現在と未来が見えてくる。
『Gentlemen's Style』
http://yoshimihasegawa.tumblr.com/


「ドクトル質問箱」では、赤峰さんへの質問をお待ちしています。こちら「forzastyle@kodansha.co.jp」まで質問をお送りください。


ジャパン・ジャントルマンズ・ラウンジ
http://j-gentlemanslounge.com

赤峰幸生(あかみね・ゆきお)
ファッションディレクター、服飾文化研究家。主宰を務めるデザインカンパニー「Incontro(インコントロ)」は、イタリア語で「出会い」の意。大手百貨店やセレクトショップ、海外テキスタイルメーカーなどの企業戦略やコンセプトワーク、店舗運営などのコンサルティングを行う。2007年秋冬からは『真のドレスを求めたい男たちへ』をテーマに自作ブランド「Akamine Royal Line」を立ち上げ、パーソナルなスタイリング・アドバイスと注文服を仕立てるサービスを開始。その服作りを通じて、質実のある真の男のダンディズムを追求する。国内外の伝統文化を研究し、日本のトラディショナルが分かるファッション界の生き字引として、和魂洋装を体現しながら世界を舞台に活躍。2014年に社屋を神奈川県川崎市の自然に囲まれた立地に移転。「めだか荘」と命名して、企画の創造と発信、体感の場として活用している。1944年、東京都目黒区碑文谷出身。

Photo:Shimpei Suzuki
Writer:Makoto Kajii



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