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FOOD 日本独自のカレーを探れ

ただでさえレアな“あの国”のカレーがさらに進化! 独創的なカレーライスを今すぐ味わって!

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現地完全再現の本格インドカレーからご当地カレーまで、百花繚乱な日本のカレー事情。そんななかから、いまも進化を続ける日本独自のカレーを「カレーライス」と定義し、個性溢れる「今食べるべきひと皿」とその作り手を、気鋭のカレーライター 橋本修さんが追いかけていきます。

今回は恵比寿「BOISHAKI(ボイシャキ)」

現地完全再現の本格インドカレーからご当地カレーまで、百花繚乱な日本のカレー事情。そんななかから、いまも進化を続ける日本独自のカレーを「カレーライス」と定義し、個性溢れる「今食べるべきひと皿」とその作り手を、気鋭のカレーライター 橋本修さんが追いかけていきます。

今回橋本さんが訪れたのは、恵比寿の「ボイシャキ」。通常はバーとして営業している店で、ランチタイムだけカレーを提供する“間借りカレー”店です。

都内でもまだ珍しい、バングラデシュのカレーが食べられるということでカレーマニアから熱視線を集めるボイシャキですが、ただ現地の味を再現するだけでもなければ、ただ日本向けにローカライズするだけでもない、独創的な“カレーライス”を提供する実力店。おしゃれな外観からはうかがい知ることのできない、個性溢れる本格カレーとその店作りの秘密に迫ります。

まだまだレアなバングラデシュカレーを味わう

 
恵比寿駅から駒沢通りを青山方面へ。渋谷橋交差点のほど近くに現れる、バングラデシュ国旗が目印です
 

古くは町屋の名店Puja、最近では錦糸町のアジアカレーハウスなど、ジャンルとしては決してメジャーではないものの、好事家を虜にしてきたベンガル料理。今回訪れたボイシャキも、バングラデシュのカレーが食べられる数少ない店のひとつです。

恵比寿という立地ゆえか、細長い店内にはマッキントッシュのアンプにDJブースまであり、しかも、カレーの後には自家焙煎のコーヒーが飲めるという、これまでのベンガル料理のお店とは全く異なったアプローチが特徴。店名からして、どんな店なのか想像し難いボイシャキですが、こちらは店長にしてコーヒー担当の阿部さんと、料理を担当するベンガル人シェフ、イスラムさんのおふたりで切り盛りされています。どのようにして、この不思議なお店がスタートしたのでしょう?

「もともと我々の会社はカフェやバー、イタリアンなどを中心とした飲食店を手がけているのですが、そのなかのTAMEALSという店で店長をしていたときに今のシェフが入ってきて、一緒に仕事をするようになったんです。それで、シェフの作るカレーがとにかく美味しかったのと、彼の人柄がとてもよかったので、この会社のなかでカレーをやってみたいな、と思うようになったんですね。TAMEALSのときから自分はコーヒーをやっていたので、カレーとコーヒー。このふたつが合うというのは昔から言われていますし、自分でもそう思っていたので、それを一緒に出せるお店がやりたいと思うようになったのがきっかけです。そのころ、シェフはカレーだけじゃなくてパスタもサンドイッチも作ってましたから、そうではなく、シェフの国の料理にフォーカスしたお店がやりたいと思ったんです」

まるで二毛作!? ちょっと変わった“間借りカレー”

 
元々バーである店内にはDJブースが。マッキントッシュ社のアンプなど、こだわりの音響でアナログレコードがかけられている
 

店名である“ボイシャキ”は、バングラデシュのお正月を意味する言葉。おめでたい言葉であり、その響きが気に入ってふたりで決めたんだそう。ボイシャキは夕方5時までの営業なのですが、もともとこの場所には同社の手がける夜木というバーがあって、その空き時間であるランチタイムがボイシャキのオープン時間、ということ。つまり社内間借り、もしくは二毛作のような状態なのです。シェフの作るバングラデシュのカレーに魅せられた阿部さんは、いったん自分のコーヒーを脇役にし、社内の人間を口説き落として試験的にお店をスタートさせました。

「コーヒーはカレーに寄り添う形でいいと思っています。なので、私から会社にカレーを出す店がやりたい、と掛け合ったんですね。ちょうどそのタイミングで夜木が改装をしていたので、じゃあ、試しにやってみたら? というチャレンジ・ショップみたいな感じではじまりました。日本で長く飲食業に就いているバングラデシュ人シェフだからこそ、日本人には出せない現地のカレーの味と、彼が学んできた日本特有のうまみ文化とが両立するようなカレーを出せたらおもしろいんじゃないかな、というのが大きかったですね」

シェフの経験とセンスが生み出す、バングラデシュ・ミーツ・ジャパンな独創カレー

 
マトンカレー(左)と しらすとトマトのカレー(右)のハーフ&ハーフ(1,200円)
 

たしかにボイシャキのカレーは、シェフの故郷の料理をベースにしているものの、カレーライスのような盛り付けにパラタとレモンが添えられ、とてもスタイリッシュ。素材も、レギュラーメニューのしらすをはじめ、月替わりメニューのワラサや真鱈など、日本独自のものが使われています。現地のレシピそのままではなく、工夫やアレンジが加えられていて、しかし、これらのアレンジも基本的にはイスラムシェフが独自に考案しているんだそう。

「バングラデシュにしらすはないですが、同じような稚魚を使うことはあるみたいで。目玉焼きなんかもシェフ自身が考えて加えていますし、メニューは100%シェフのオリジナルです。少しだけ、僕らが出し方なんかで意見というか、アドバイスをすることはありますけど、ボイシャキのカレーはレギュラーメニューもそうじゃないものも、シェフがやりたいようにやってもらっていますし、そこが良さだと思っています。しらすのカレーなんかは、もともと月替りのメニューとして出していたんですけど、お客さんの反応が異常に良くて。それが社内でも話題になり、いまではレギュラーメニューになりました。

オープン前に、試食会はしっかりやったんです。最初は、やっぱり我々の考えるうまみだったり、コクみたいなものが少なかったせいで、『すこし物足りないよね』という感想も少なからずあったんですが、それから2~3回試食会を繰り返す中で、修正していきました。お店のオープン後も、シェフ自身がお客さんの反応を見て、好まれる味や辛さを勉強してくれています」

料理とともに進化する「カレーに合うコーヒー」

 
自慢の自家焙煎コーヒーは、店長の阿部さんみずから丁寧にハンドドリップ
 

貴重なバングラデシュのカレーが食べられる、という特殊性よりも、イスラムシェフの料理をひとつの美味しいカレーと捉え、それを中心に据えた阿部さんの店作り。バーの社内間借りという事情はありつつも、現地の雰囲気に寄せることはせず、インテリアや盛り付けにいたるまで、今の時代に即したバランスにまとめあげたことが、ボイシャキのオリジナリティを一層際立たせています。
そしてもちろん、あくまでカレーの脇役としつつも、阿部さん自ら自家焙煎しているコーヒーの存在も重要な要素。そのコーヒーもカレー同様、方向性をしっかりと定め、カレーと合うコーヒーとして日々進化しているそうです。

「ちょうどボイシャキのアイデアが出始めたころ、週に一度豆を焙煎できる機会があって、店でもっと美味しいコーヒーを出したいと思うようになっていたんですね。でも、TAMEALSの業態だとエスプレッソがメインで、ハンドドリップのコーヒーを出すのは難しくて。だから、新店立ち上げという機会を活かして、自分はコーヒーをもっと突き詰めてみたいと思っていました。

自分の好みとしては、しっかりと苦味の効いた重めのコーヒーが好きで、ボイシャキを始めたころはそういったものを出していたんですが、よくよく考えてみると、カレーを食べ終わった後に飲むコーヒーとなると、ちょっと酸味の効いた、軽めのものの方が合うのかな、と思うようになって。実際、その方がお客さんの反応も良かったんですが、深煎りの方が好きな常連さんもいますし、好みもそれぞれだと思うので、今後はできるだけ軽めと重め、両方が出せるようにしていきたいですね。今でもそうしている日はあるんですが、忙しいと焙煎に行けなかったりもして、その辺は今後の課題ですね」

コーヒー豆らしい酸味と甘味を楽しめる、カレーの食後にベストマッチな一杯
 

新たな挑戦が社内に代謝をもたらす

 
店長の阿部さん(写真左)と、シェフのイスラムさん(写真右)
 

現在は夕方5時までの営業となっているボイシャキですが、周年記念や、本連載の第一回目で取り上げたGood Luck Curryとのコラボイベントとして、夜の営業をすることも。阿部さんの考えるボイシャキの今後の展開とは、どのような形なのでしょうか?

「最終的には、今のような間借りという形ではなく、自分たちでひとつの店舗を持つことが目標です。店で焙煎ができて、自分たちのお店でカレーとコーヒーの両方が完結できるようにしたい。そうなればもちろん夜の営業もあるでしょうし、夜はビールと合わせられるようなスパイス系のタパスなんかを出せたらな、なんて考えていますが、そこはシェフと相談しつつ、自分ももっと勉強していかないといけないですね。

あとは社内の他店舗で出すコーヒーに関しては、まだ自分たちで焙煎までできていないので、自家焙煎したものを出せるようにしていくとか、自分たちの仕事を発展させていかないといけないなと思っています。そうじゃないと会社に新陳代謝がなくなってしまうし、我々もやはり歳をとっていきますから、ずっと現場に立ち続けられるとも限らないですし。僕らがそういうモデルケースになれたら、また新しい方向性が見えてくるんじゃないかと信じています」

ふたつの国をまたいで偶然出会ったふたりが作り上げる、現在進行系の「カレーとコーヒーの美味い店」。バングラデシュカレーの新鮮味と、食後を締めくくる丁寧に淹れられたコーヒーは、今までにない、新たな体験をもたらしてくれるはずです。

Photo:Takuya Murata
Text:Osamu Hashimoto
Edit:Yugo Shiokawa

今回訪れた店

BOISHAKI(ボイシャキ)
住所:東京都渋谷区東3-16-10 三浦ビル 101
TEL:03-5422-6230
営業時間:11:00~17:00
定休日:日曜日
https://www.facebook.com/
Boishaki-ABE-DRIP-214526208970650/

https://www.instagram.com/
boishaki_abe_drip_coffee/

筆者プロフィール

橋本修(はしもと おさむ)
スパイスディーラーとしてストリートで名を馳せ、2017年からはカレーに特化した食ライターとしての活動を開始。音楽ライターとしての顔も持ち、グルーヴィーに日々カレー屋をハシゴしている。(イラスト:@animamundi_)


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