アイウェアデザイナー丸山正宏さんがかけているのは、自身のブランド「MASAHIROMARUYAMA(マサヒロマルヤマ)」の2015年コレクション「straight(ストレート)」のメガネ。「直線だけで構成するところから次第に線が丸みを帯びてくる過程を表現しています」と言うとおり、いびつな線が独特なデザインをアピールする。
私たちが考える“メガネのかたち”である、左右対称でなければならない、整っていないと美しくないという既成概念に抗うようなデザインの生みの親である丸山さんに、デザインがもつ力についてお話を伺った。
2015年コレクション「straight(ストレート)」は、あえて曲線に近づく前の直線で造形。直線のシンプルさに惹かれ削ぎ落としたデザイン。「丸になる前の直線、パースを作るときに使う補助線をイメージしました」と丸山さん
かたちの違和感が脳を刺激する唯一無二のメガネ
MASAHIROMARUYAMAは2011年にデビュー。「unfinished art(未完成のアート作品)」というコンセプトのもと、「dessin(デッサン)」というテーマで世に送り出されたファーストコレクションはメガネ好きをアッと驚かせた。
「鉛筆で描くいびつな線もきれいだということに着目して、プラスチックフレームで表現しました」と丸山さん。「メガネはいつの時代にも定番のかたちがありますが、自分はそういう大きな流れではないところで“自分の小さな島”があったら面白いと思ってデザインに取り組んでいます。新しさというより、メガネの世界にはなかった考え方を提案したいし、ものづくりに関しては品質を損なわないよう、奇をてらったことはしないのを前提にしています」
たとえば洋服の世界では、レイヤード=重ねるというのは普通に使うが、「それをメガネならどう表現するか」を考えるのが楽しいという。
2011年に発表されたファーストコレクション「dessin(デッサン)」は、手で描いたラフデザインの要素をプロダクトにそのまま落とし込むことで生まれる未完成な造形が特徴
2013年コレクション「cut(カット)」は、紙をハサミでカットするイメージをフレームに採用。手で描いたラフデザインの要素をそのままに、あるはずのモノが欠落している違和感を楽しめる
20代に習得したメガネづくりのノウハウ
丸山さんは1974年、千葉県生まれ。子どものころからプラモデルやラジコンづくりが趣味で、学生時代に靴やメガネなどファッション小物に興味をもち、ものづくりとデザインを学びたいと専門学校へ。卒業後、大手眼鏡メーカーのデザイン室に入り、5年ほど修行したという。
「当時、デザインはもちろん、メガネのスタンダードや流行の周期など、メガネづくりのノウハウを含めて本当に一から教わりました。ヨーロッパの一流ビッグメゾンのライセンス商品を手がけていたのですが、欧州での展示会にも参加させてもらい、ファッションブランドのものづくりのアプローチも学びました。20代の5年間に得たものは大きかったですね」と振り返る。
20代後半にはフリーランスのメガネデザイナーになり、2011年にMASAHIROMARUYAMAをスタート。「ブランド名は、姓と名のスペースをなくすと記号的になると思ってMASAHIROMARUYAMAとしました。海外の展示会の来場者には本当に記号のように思えるそうです」
2014年コレクション「2side(ツーサイド)」は、いつもは裏から見えていたものを表に配置。組み立てのプロセスを再構築することで、予期しない表情が生まれる
2016年コレクション「broken(ブロークン)」は、バラバラになった色やテクスチャーを自由に組み上げることで、表現の拡張と感じたことのない印象を伝える
近づいて見ると、モノとして面白みが出てくる
センセーショナルな話題をさらったファーストコレクションは、「新しい考え方のデザインとして捉えてもらってうれしかった」と丸山さん。「僕はメガネをプロダクトデザイン(工業デザイン)と思っていて、実用性や機能性とのバランスも重要です。また、メガネはハンドメイドなので、素材はプラスチックならアセテート、メタルならチタンの完成度の高いマテリアルをどう使うかを考えます。そこに味つけとしての“線”の表現を、福井・鯖江の技術的に任せられる職人に託しています」
こちらから、「丸山さんがデビューしたころから、いわゆるメガネのセレクトショップが続々オープンして、ブランドのメッセージや個性などをきちんと伝えられる店とそのスタッフができた背景も大きいですよね」というと、大きくうなずいた。
独特ないびつな線も、「柄のあるスーツが遠目には無地に見えるように、近づいてみるとその柄や色を選んだ個性がわかるのと同じく、自分のデザインも接近するとモノとしての面白みを感じていただけると思います」
2017年コレクション「erase(イレーズ)」は、消しゴムで鉛筆のラインを消したイメージをメガネのデザインとして表現
2017年コレクション「erase(イレーズ)」
時間の経過を受けて風合いが出てくるものが本物
「一番大切にしているのはクラフト感」というMASAHIROMARUYAMAのメガネは、手描きでデッサンされ、コンピューターで整えられ、職人の元でサンプルが作られるそうで、「デザインを初めて見た職人は嫌がりますね(笑)。自分に合っている工場を探すのに2~3年かかりました」と笑う。
MASAHIROMARUYAMAのメガネは年間テーマがしっかり設けられているが、「デザインからテーマの言葉が生まれたり、逆に言葉から発想したり、パズルを並べるような感じです。デザインのインスピレーションは、美術館やギャラリーを巡って、アート作品を観て、それがどういう風に考えられているのかを考察したりしますが、デザインはアートではないので、自分で考えた意図を大事にしています。また、アンティークの家具や雑貨など、時間の経過を受けて風合いが出てくるものは本物だと思います」と丸山さん。
「コンセプトやテーマは、消費者に伝わってはじめて発揮するもの」という丸山さんのメガネを新年のスタートに取り入れよう。
MASAHIROMARUYAMA
http://masahiromaruyama.com/
Photo:Simpei Suzuki
Text:Makoto Kajii
Editor:Ryutaro Yanaka