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FASHION 赤峰幸生の服飾歳時記

服バカが泣いて喜ぶ!「世界服飾遺産」の知られざる内部とは? 

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めだか荘は、図書館であり、博物館

「赤峰教授がまたスゴいことを始めたらしい…」。業界に巻き起こったそんな噂は本当だった。

日本を代表するメンズファッションディレクター、赤峰幸生さんが率いるデザインカンパニー「インコントロ」のオフィスが改装し、名前も新たに『めだか荘』として生まれ変わったのだ。

8月17日に誕生日を迎えた赤峰さんのお祝いを兼ねて、川崎市高津区にあるオフィスを訪ねると、武蔵野の緑豊かな住宅地にいきなり出現した「めだか荘」の暖簾。「そば屋なのか、ここは!」。汗が噴き出して止まらないのは、暑さのせいだけではない。戸惑うFORZA編集部を、趣味に生きる賢人が笑顔で出迎えてくれた。

「いらっしゃいませ、ささ、中へどうぞ」

まず編集部が通されたのは、めだか荘一階の応接室。そこで驚かされたのが、古今東西種類を問わずにズラッと並べられた蔵書の数だ。アパレル、映画、食、文化、そしてマフィアの暗殺術…。貪欲かつ偏った知識欲が、赤峰教授をレジェンドたらしめているのだろう。

赤峰:前の事務所が手狭になって、「近くて遠い田舎」に憧れて見つけたのがこの梶が谷。渋谷から電車で20分ぐらいなので意外と便利なんですよ。引っ越しが大変でダンボールが540箱ぐらいありました。

干場:540箱! この本の数を見るとうなずけますね。

「皆さんにお見せしたい本があるんですよ」と赤峰さんが“アメリカ”の棚から取り出したのが、男性ファッション・ライフスタイル誌『GENTRY』と、1902年に発行された『シアーズ・カタログ』。

干場:『GENTRY』、今見てもカッコイイですね。ページに本物の生地が貼ってありますよ!

赤峰:『シアーズ・カタログ』はまさに通販カタログの元祖で、シアーズ・ローバック社が作ったもの。当時から生活に必要なものを網羅して売っていたのがよくわかります。

干場:ここにある蔵書はどうやって入手したんですか?

赤峰:海外のヴィンテージを扱う本屋を巡ったりね。自分が40~50年前に新刊で買ったものもありますよ。

 

次に赤峰教授が、“フランス”の棚から取り出したのが「これはお宝ですよ」というエルメスのコンセプトブック。Voyage(旅・移動)をテーマに、「ソレイユ(太陽)」や「ラメール(海)」などのタイトルが揃っています。次に“イギリス”の棚からは、英国の1840~1920年代のシャツを紹介した本で、なんとシャツを作製できるパターン付きだ。

赤峰:こういうメンズファッションの基本書のようなものを見ていると、1920~30年代がメンズの黄金期だというのがよくわかります。

干場:いや、このエルメスのカタログは素晴らしい。見ていてすごく楽しいですよ。

赤峰:それからミリタリーとワークウェア関連の本も多くて、ロンドンのカムデンロックプレイスにあったヴィンテージショップ『Laurence Corner』は大好きだった店で、ラルフ・ローレンやジョルジオ・アルマーニと会ったこともあります。これもお宝のカタログですね。

干場:赤峰さん、“イタリア”の棚は一番ボリュームがありますね。

赤峰:やっぱりイタリアは好きだからね、どうしても増えてしまいます。これは20世紀初頭に活躍したイタリアの作家ガブリエレ・ダヌンツィオのワードローブを集めた本で、全部オーダーメイドです。あと好きなのはイタリア・シチリア島の山賊(バンディート)として生きた男、サルヴァトーレ・ジュリアーノで、元シチリア自警団で、マフィアの元祖なんですよ。

最後に本棚から取り出したのは、1928年に女性で初めて大西洋横断飛行の偉業を達成した伝説の女性飛行士アメリア・イアハートの写真集。

赤峰:この女性がね、カッコイイんですよ。英国のベルスタッフ製のブーツやパンツを穿いて、ジャケットにシルクのブラウスというスタイリングが美しい。

干場:たしか映画化もされた女性ですよね。赤峰さんの守備範囲の広さがうかがえます。今度ゆっくり来るので、図書館として使わせてください(笑)。

赤峰:あ、そうだ。せっかく来ていただいたので、いいものをお見せしましょう。これは吉田真一郎さんから預かった古布。昔の女性が宮中に行くとき、顔を隠すために使っていた衣被(きぬかづき)という布なんです。背中に家紋を入れるのですが、その紋を割って真っ直ぐにしたのが「のれん」の始まり。その話を吉田さんから聞いて、『めだか荘』ののれんを思いついたんですよ。

さて、応接室で赤峰さんの蔵書を見たあとは、いよいよ日本屈指の“赤峰アーカイヴス”を!一同、めだか荘の二階へ大移動です。

干場:うわ、見るからにヴィンテージとわかる洋服がたくさん! 服も生地もよく整理されていますね。

赤峰:片付けと分類は大変ですが、分けることは「わかること」なんですよ。分けていけばいくほど「わかる」。だから、わからないと「分けられない」。最近感心しているのは蔦屋書店で、あそこは「わかって分けてるなぁ」と思います。これ、干場さん一度着てみてください。パリの百貨店ボン・マルシェが出来る前の1901年に作られたダスターコートです。

干場:1901年! ダスターコートはその名のごとく、ほこりよけに着るコートですよね。コンディションも抜群ですが、アームホールが小さくて、腕が太いなぁ。素材はリネンなんですね。栗原プロデューサーも着てみてください。

赤峰:他にも大きなマップポケット付きの1940年代のモーターサイクルコートとか、1940年のアクアスキュータムのトレンチコートは、フランス仕様のサイズで珍しいアイテムです。

干場:第一次世界大戦時代にドクターが着ていたホスピタルコートは今着ると丈感がいいし、乗馬用のライディングコートは腰周りからのフレア具合がおしゃれですね~。いや、最高のコレクションですね。

赤峰:アルフレッド・ダンヒルのカーコートや、獲物を入れやすいようにポケットの口がアール状になっているサヴィルロウで作られたハンティングジャケット、グレンフェルのハンティングアウターなど、着る目的がはっきりしているアイテムは、機能性があって今も美しいです。

干場:服好きはもちろん、デザイナーやパタンナー、機屋(はたや)さんなどにもぜひ見てほしい“赤峰アーカイヴス”ですね。

赤峰:服の仕事をしていますが、こういうヴィンテージが直接利益を生むことはないけれど、やっぱり自分の近くに置きたい、手元に持っていたいという思いが強いんですよ。

干場:手放すことはあるんですか?

赤峰:ないですね。22歳のとき初めてロンドンへ行ったときに買ったネクタイや、ハタチのときに渋谷のジャズ喫茶のマスターにもらったネクタイも全部持っています。

干場:それじゃあ溜まっていく一方ですね。

赤峰:手放すような服なら、最初から買わないよ。

干場:あいたたたたた、耳が痛い! もげる! 気絶するぐらい刺さる言葉です。

赤峰:一着一着、すべてに物語がありますからね。買ったときのことは全部覚えていますよ。服は深みに入っていっちゃいますね。では、私特製の塩にぎりを握ってあるので、ゲストルームで食べましょう!

ぜひ次回は読者も連れて、「世界服飾遺産ツアー」をさせてください。赤峰教授、ありがとうございました!


Photo:George Oda
Text:Makoto Kajii

ジャパン・ジェントルマンズ・ラウンジ
 



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