昼間に花開く「昼顔」と、子どもの頃のはしゃいだ記憶と
なつかれくさかれる 乃東枯る 初候
あやめはなさく 菖蒲華さく 次候
はんげじょうず 半夏生ず 末候
夏至(げし)は1年で一番昼が長く夜が短い日。ここからどんどん暑さが増していく頃といわれていますが、太陽の姿さえ見えない梅雨の真っ最中、雨降花のひとつ、昼顔が雨に濡れて美しい季節です。
「いずれ菖蒲(あやめ)か杜若(かきつばた)」と昔の人は言いますが、この歳になっても正直見分けがつかないのが菖蒲。別名「しょうぶ」と呼ばれたり、葉っぱの半分だけを真っ白にお化粧する“半化粧(ハンゲショウ)”の葉は、まるで1年の半分を表しているようで、やりかけた仕事や目標を目の当たりにする感じで何ともいえない不思議な気持ちにさせます。

また、小学3年生の頃、下校の帰り道、友人5人と雨傘の先を電線につけて流れる電流を5人が手を繋いでビリビリとさせては はしゃいでいたのも夏至の頃だと記憶しています。
ピッティ・イマジネ・ウォモと自分の服作りの関係
6月13日から16日まで、フィレンツェで92回目のピッティ・イマジネ・ウォモ(PITTI IMAGINE UOMO)が開催されました。私は来春夏のメンズファッションのトレンドを見に行くほか、今回は「ラルディーニ」の工場訪問や、アントニオ・リベラーノが立ち上げたプレタポルテ(既製服)の工場を見学してきました。ピッティの感想はまた後日。
「小満」の項で私のブランド「Y.AKAMINE(ワイ.アカミネ)」の話をしましたが、ワイ.アカミネのアイテムはすべてイタリア生産でした。イタリアで生地展を見て、アイテム毎に得意な工場で作っていましたが、生地をさかのぼると生地を織る「機(はた)屋」に入り込みたくなります。

機屋で使っている生地の紡績が気になると、紡績の元になる綿花や羊毛を知りたくなり、綿花産地や羊を飼う牧場に足を運びます。そうして産地や現地を見て、最後の最後の答えは「土」になります。
私は、土から生地までを理解して、服を作り、実際に着用して、洗いこんで、10年、20年着たときに「良い味出てきたな」とか「この調子、いいよね」というのを身体で覚えさせてきました。そういう意味では、メンズの世界最大の祭典であるピッティは、行くたびに「自分のルーツを辿(たど)る」感覚になります。

私が「この色が今の気分」という根拠とは
私は、1900年ぐらいからの世界各国の人々がどう生きてきたかを、映画を教科書として観て学びました。映画の中の欧米・日本の“人々の暮らし=その人たちのカタチ”をインプットして整理して、そこに自分の経験を加えて、勘や感性も働かせながら時代の潮目を見て着ています。
そういう経験と五感、さらに勘から、「この色が今の気分だ」というのを感じます。そして勘が鈍らないように、発想の大元である四季の自然の色を見ることを怠らないようにしています。
よく、「赤峰さんは2年早いよね」とか「やっと時代が来ましたね」と言われますが、いずれも理論的なことじゃない。感じることが大切です。

肩の部分が細いランニングと、レインコートが主役の季節と
私の夏に向かう身支度といえば、下着とシャツのどちらも強撚(きょうねん)という糸の撚りの強いものばかり。いわゆるドライなタッチで肌につかない下着が好きで、ランニングはイタリア・フィレンツェの友人に教えてもらいました。
フィレンツェのトルナヴォーニ通りに『カフェ ジャコーサ』があり、その角を曲がった3軒目の下着専門店で今でも買い求めていますが、日本のランニングのデザインとは異なり、肩の部分が細くて気に入っています。
40年ほど昔、列車が着くと「Gelate! Gelate!」と売りに来るアイスクリーム屋のおやじも確か同じランニングだったと思い出します。
夏至の頃、雨の日に着るトーンオントーンの着こなし
「五月雨や 大河を前に 家二軒」(蕪村)
この季節はなんといってもレインコートが最も楽しめる時期で、ジーン・ケリーの『雨に唄えば』やアラン・ドロンの『サムライ』のようにしっかりベルトを締めて着るトレンチやベルテッドコートが主役になる楽しい季節でもあります。

夏至に着るコーディネートで用意したのは、25年ぐらい前の「マルセル・ラサンス」のレインコート。そして、素肌に着るのは大好きな「ラコステ」の鹿の子ポロです。
テニスプレイヤーのノバク・ジョコビッチが全仏オープンから「ラコステ」を着てコートに立ちましたが、ハイテク追求のスポーツブランドとは違って、ラコステには“ドレスな気分”やクラス感がある。<ワニ>というニックネームで一世を風靡したルネ・ラコステの精神がジョコビッチに受け継がれてほしいと思います。
次回、連載11回目は、7月7日頃の“小暑(しょうしょ)”。集中豪雨やゲリラ豪雨などがある頃ですが、レインコートで粋な着こなしを。
Photo:Shimpei Suzuki
Writer:Makoto Kajii
ジャパン・ジェントルマンズ・ラウンジ
https://www.facebook.com/JapanGentlemansLounge