英国の本当のソラーロでリベラーノさんが仕立ててくれたスーツ
人生には、どうしても手放せなかった服、そう「捨てなかった服」があります。そんな服にこそ、真の価値を見出せるものではないでしょうか。そこで、この連載では、ファッション業界の先人たちが、人生に於いて「捨てなかった服」を紹介。その人なりのこだわりや良いものを詳らかにし、スタイルのある人物のファッション観に迫ることにします。スタイリストの小沢 宏氏に続いて登場するのは、数多くのイタリアブランドを日本に紹介した成毛賢次さん。成毛さんが膨大な数を所有してきた中でも捨てられなかった服をご紹介する企画、第3回は「リベラーノ&リベラーノ」のソラーロスーツです。
これはマッシモ・ピオンボが持ってた生地なんです。ソラーロオリジナルで、英国の本当のソラーロなんです。今みんなが着てるオレンジとグリーンのは完全にイタリア人が開発した生地なんですね。
ピオンボが大規模に買い込んだものの売れなくて、「ケンジ、これ使え」と貰ったものをアントニオ・リベラーノさんのところに持ち込んだら、彼が「いい生地見つけてきたな」って仕立ててくれたんですね。1999年の話です。
今は生地が織り上がると、すぐに使って仕立てちゃうんだけど、昔は織った後少し置いて寝かせて、生地が馴染んでくる時間というのを取ったんですよね。そうすることで生地が落ち着いて、織りも緩んでくるから少しだけ大きくなる。そんな生地を濡らして乾かしてを繰り返すと風合いも増すんです。
今ではそんな過程も失われて、生地の雰囲気も変わってきちゃいましたよね。この重さと肉感のある生地は、もう見つけられなくなってるから、仕立てるときにリベラーノさんに「俺の分はないのか?」って、ねだられたほどです。
ピオンボからは、「このスーツはプレスがピシッと入った状態ではなく、一回着たくらいの雰囲気で”普段からこういうのを着てんだぜ”って着ろ」って、よく言われたんですが、ただ日本だと5月くらいしか着られないんじゃないかな…(笑)。
そうそう。リベラーノさんのスーツって不思議なバランスで、3ボタンの第3ボタンはヘソの位置なんです。実際に留めて着たことないかったからボタンホールも硬いんですが、その辺は、ちゃんとバランスを考えて仕立てられてるなって。ササッと採寸してるように見えて、スゴいなって思います。
こんな生地はもう良い状態では見つけられないと思うので、どうしても捨てるわけにはいきませんね。
Photo:Riki kashiwabara
Edit:Ryutaro yanaka