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BUSINESS SONY元社員の艶笑ノート

SONY元異端社員の艶笑ノート 子猫とサックスとおまわりさん

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おまわりさんに注意される

ぼくは肩にラッキーを乗せ、サックスを持って大國魂神社に行った。

境内の奥に進み、中門をくぐって進み、ラッキーを肩から下ろすと、最初は脚にじゃれていたが、サックスの音を出すと、たちまち遠くに走っていった。だが、そのまま逃げていってしまうようなことはなく、ぼくから見えるところで遊んでいて、名前を呼ぶと戻ってきたので、また肩に乗せて一緒にアパートに帰った。

サックスの練習もできるし、ラッキーを広いところで遊ばせることもできる。我ながらいい場所を思いついたと思った。

こうして、大國魂神社で練習を始めて3日目くらいのことだった。
音を出していると、突然、おまわりさんがやってきた。

「何をやってるんだ?」

「サックスの練習です」

「うるさいと通報があったんだ。やめなさい」

おまわりさんに言われれば仕方がない。ぼくはサックスをケースにしまった。おまわりさんは、早く立ち去れといわんばかりで見ていたが、ラッキーが戻ってこない。

「早く行きなさい」

「まだ、猫が戻ってこないんです」

「猫だと?」

「あそこにいるやつです」

ぼくはお社の横の石畳を指さした。
ラッキーはしゃがんだまま、こちらを見ていた。

「あんたの猫か?」

「はい。ラッキーと言います」

「名前なんかいい。早く連れて帰れ」

「おまわりさんがいると、怖がってこっちにこないので、あっちに行ってください。捕まえたらぼくも帰りますから」

「夜中なんだから少しは考えてくれ」

ひと言いっておまわりさんは去っていった。しばらくすると、ラッキーが戻ってきたので、肩に乗せてアパートに帰った。

競馬場の歩道橋でサックスを練習

せっかくいい練習場所が見つかったと思ったのに、おまわりさんに注意されたらもうダメだ。どこで練習をすればよいのか、ぼくは困った。大國魂神社がダメなら多摩川の土手もあると思ったが、とても徒歩で行ける距離ではない。どこかいい場所がないかと考えていて、ある場所がひらめいた。

東京競馬場の近くの歩道橋だった。

競馬場の周辺は、競馬開催日は賑やかだが、競馬のない日はここが本当に東京かと思うほど人が少ない。まして競馬場に渡るための歩道橋ともなれば、競馬のない人はほとんど人は通らない。あそこなら練習にぴったりだと思った。

ぼくはまたラッキーを肩に乗せ、サックスを提げて歩道橋に行き、さっそく練習をはじめた。意外にも数人が歩道橋を渡ったが、かまわず練習しているとパトカーが止まり、おまわりさんが降りてきた。

おまわりさんは歩道橋に上がってくるなり、ぼくを見て、

「またお前か!」

何と、大國魂神社の時と同じおまわりさんだった。

「うるさいと通報があったんだ。早くやめなさい」

「わかりました。猫が戻ってきたら帰ります」

「また猫を連れているのか!」

おまわりさんはあきれ顔だった。

Photo:Getty Images
Text:Masanari Matsui

松井政就(マツイ マサナリ)
作家。1966年、長野県に生まれる。中央大学法学部卒業後ソニーに入社。90年代前半から海外各地のカジノを巡る。2002年ソニー退社後、ビジネスアドバイザーなど務めながら、取材・執筆活動を行う。主な著書に「本物のカジノへ行こう!」(文藝春秋)「賭けに勝つ人嵌る人」(集英社)「ギャンブルにはビジネスの知恵が詰まっている」(講談社)。「カジノジャパン」にドキュメンタリー「神と呼ばれた男たち」を連載。「夕刊フジ」にコラム「競馬と国家と恋と嘘」「カジノ式競馬術」「カジノ情報局」を連載のほか、「オールアバウト」にて社会ニュース解説コラムを連載中



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