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BUSINESS SONY元社員の艶笑ノート

【本当にあったドラマのような話】コインランドリーに倒れ込んだ血まみれの美女

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アパートに女をかくまう

アパートはすぐそこにある。テンパっていたぼくは、ほかに何も思いつかなかった。急げなければと思った。ぼくは女をおぶって、できる限り全速力で歩いた。
女が軽くて助かったと思った。女の胸が背中にぎゅうぎゅう当たるのを感じた。彼氏がいつ追ってくるかもわからず、大変危険なことをしているのに、そんな時でも男はこんなことが気になるのかと思った。

アパートまでくると、1階のおばさんが驚いたような顔で、

「どうしたの?」

と声をかけてきた。だが、説明している暇などなかった。

「人助け!」

といって外階段を上り、彼女を部屋に降ろしたところで我に返った。女は事件の被害者だ。凶暴な彼氏に追われているようだ。ぼくが女をおんぶしてきたのは近所の人も目撃しているから、ここにかくまっているのもバレバレだ。女を助けたいのは山々だが、ぼくの身だって危ない。

「警察に電話しよう」

「言わないでください」

「そんなわけにはいかないじゃないか」

「言わないでください。彼が捕まってしまいます」

その一言で、冷や水を浴びせられたような気持ちになった。
こんな怪我をしているというのに、この期に及んで彼氏の心配をしているようじゃダメだと思った。それに、ぼくがどんな思いをしてここまで運んで来たと思っているのか。こんなことでは、助けたはずのぼくが誘拐犯だなどと言われかねない。そんなの、まっぴらだと思った。

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人生初の110番にかける

ぼくは110番に電話した。生まれて初めてかけた110番だった。
電話の向こうから女性の声がした。ぼくは、暴力を受けた女性を匿っていると伝え、怪我をしているので救急車も頼むと言った。住所を告げ、急いでくれと言って電話を切る際、

「サイレンを鳴らさずにきてほしい」
と頼んだ。

ヤクザも住んでいるアパートだし、ぼくの部屋に警察がきたのが目立つと、今後生活しづらいと思ったからだ。ぼくは電話を切る前にもう一度、サイレンを鳴らさずにきてくれと、くどいほど念を押した。

「承知しました」

電話の向こうで女性オペレーターは言った。

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間もなく、ものすごいサイレンを鳴らしながら、パトカーと救急車がやってきた。

おまわりさんは部屋に入るなり、女性を確保し、ぼくに次々と質問を浴びせた。ぼくはありのままを話したが、まるで犯人にされたかのような気分だった。

彼女は担架で運ばれた。

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撤収するおまわりさんと一緒に部屋を出ると、アパートの周りはヤジ馬だらけになっていた。
人々の視線がぼくに刺さるのがわかった。まるで犯人のような気分だった。

「我々は撤収しますので」

そう言っておまわりさんはパトカーに乗り込んだが、ピカピカ光る赤色灯を見ているうちに、ぼくもパトカーに乗りたくなった。

「警察でもっと証言するので、ぼくもパトカーに乗せてくれませんか?」

するとおまわりさんは、

「俺たち、遊びじゃねえからさあ」

とヤクザのような言い方で断り、パトカーを発進させた。

残されたのは真っ赤な血で染まったTシャツ姿のぼくだけだ。野次馬の視線が痛かった。そのなかに同じアパート1階のおばさんがいたが、目を合わせるとサッと逸らされた。

そういえば、コインランドリーに洗濯物を置きっぱなしにしていた。取りに行こうと歩き出すと野次馬がさっと道を開けた。キリストだか誰だかが、歩くと湖の水が左右に割れた話を思い出した。
コインランドリーに戻ると、ぼくの服は誰かが乾燥機から取り出し、籠に放り込まれ、湿ったまんましわくちゃになっていた。なかにいた客が、ぼくの血で染まったTシャツを見て目を丸くしていた。

Photo:Getty Images
Text:Masanari Matsui

松井政就(マツイ マサナリ)
作家。1966年、長野県に生まれる。中央大学法学部卒業後ソニーに入社。90年代前半から海外各地のカジノを巡る。2002年ソニー退社後、ビジネスアドバイザーなど務めながら、取材・執筆活動を行う。主な著書に「本物のカジノへ行こう!」(文藝春秋)「賭けに勝つ人嵌る人」(集英社)「ギャンブルにはビジネスの知恵が詰まっている」(講談社)。



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