SONY元異端社員の艶笑ノート

大事なことはみんな女が教えてくれた

「ぼくはサングラスをして働いていた」

2017.1.13 2017.1.13
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2017.1.13

 

バカに盛り上がる送別会

異動が決まると、部署で送別会をしてくれることになった。
ぼくは、自分では仲良く働いていたつもりが、まわりからは、わけがわからない人と思われていたことが送別会ではじめてわかった。

©gettyimages

ぼくがいなくなることがよほど嬉しいのか、みんな盛り上がり、お酒を次々と飲んで赤い顔になっていた。悲しいかな、残念がるような人はいなかった。
しかも、中には
「今だから言えるけど、オレ、オマエのこと、ほんとに嫌なヤツだと思っていたんだ」
などと、わざわざ言ってきた人もいた。

堂々と言うなんて、一体どっちのほうが嫌なヤツなんだと言い返したいくらいだったが、発つ鳥後を濁さずというように「そりゃー、すいませんでした」と、笑ってゴマカすしかなかった。

ぼくも異動を何度かしたので、送別会もその数だけやってもらったが、あんなに盛り上がったのはあの時だけだった。
いろいろあったが、これで晴れ晴れした気持ちで異動できると思い、翌日会社に来ると、上司からこう告げられた。

「異動がなくなったよ」

まるで昨日の試合で巨人が負けたと言ってるだけのような、何のことはないという感じで上司は言った。
「どういうことですか?」
「だから、異動がなくなったんだよ。先方から、とりあえず、今は待ってほしいと連絡が来たんだ」
「どうしてですか? 理由を教えてください」
「何でも、時期尚早とのことだ」

©gettyimages

ぼくは困惑した。
会社だから、いろんな事情で予定が変更になることはある。そんなことでぼくはガタガタ言わないが、自分の異動が中止になるとなれば話は別だ。こちらの計画も全部狂ってしまうからだ。
ちなみに、ぼくの同期には海外転勤が一週間前に中止になった猛者もいるので、それに比べたらまだマシだが、正直いって参ったと思った。しかも盛大な送別会もやってもらった手前、その気まずさには頭を抱えた。

火葬寸前に蘇った死人の気分を味わう

お葬式も大詰めを迎え、火葬場でまさに焼こうとした瞬間、死人が突然息を吹き返せば、みんな喜ぶどころか逃げていくように、異動がなくなり元のサヤに収まることを知った同僚はヨソヨソしかった。
送別会の席で、ぼくにわざわざ「嫌なヤツだと思っていた」と言いにきた同僚も、たぶん、気まずかったことだろう。

©gettyimages

そういえば、結婚式当日に新婦に逃げられたという話をたまに聞くが、なぜ逃げられたのかと、新郎はずっと思い悩むらしい。それと同じく、ぼくの異動がなぜ急になくなったのか、本当のわけを知りたいと思った。

上司によれば、先方が時期尚早と判断したとのことだったが、時期尚早といったってプロジェクトはもう始まるのだから、その理由はおかしいと思った。

ぼくは先方の先輩と連絡をとった。
食堂で待っていると、やってきた先輩は眉を寄せ、「ごめんね~。こんなことになっちゃって」
「仕方ないです。先輩が悪いわけじゃないですから」
ぼくとしても、そうとしか言いようがない。
「来てもらうものと思っていたから、オレもびっくりしてるんだ」
「いいんです。決まったことは仕方ないですから。でも、理由を知りたいんです。上司によれば、時期尚早とのことですが」
「そんなふうに言われたの?」
「違うんですか?」

先輩はうつむき、「これ、言っていいのかなぁ?」
「そこまで言われたら聞かずにはいられませんよ」
「そうだよね」
「何ですか? 言ってくださいよ」
「部長がサングラスを気にしていたんだよ」
「サングラス?」
「会社でサングラスって、正直いって怪しいよね」
「そんなに怪しいですか?」
「そりゃー、怪しいと思うよ。キミが会議でサングラスしてるのを見て、あんな怪しいのをとって大丈夫かと、部長が二の足を踏んだんだ」
受け入れる側の自由もあるから、こればっかりは仕方がなかった。

©gettyimages

異動がなくなったこともあり、ぼくは休みを取って香港に旅行した。現地に赴任していた同期と会うのも楽しみだった。
黒い革ジャケットに黒いズボン、そしてサングラスといういつも通りの格好で香港国際空港に降り、イミグレーションに並ぼうとすると、警備員に呼び止められた。何だと思っていると、パスポートや持ち物など、くまなく調べられ、かなりしつこく質問された末に、やっとのことで通してくれた。

迎えに来た同期はぼくを見るなり言った。
「何て格好してるんだ」
ぼくの格好が怪しいというのは本当だったのかもしれない。

Text:Masanari Matsui

松井政就(マツイ マサナリ)
作家。1966年、長野県に生まれる。中央大学法学部卒業後ソニーに入社。90年代前半から海外各地のカジノを巡る。2002年ソニー退社後、ビジネスアドバイザーなど務めながら、取材・執筆活動を行う。主な著書に「本物のカジノへ行こう!」(文藝春秋)「賭けに勝つ人嵌る人」(集英社)「ギャンブルにはビジネスの知恵が詰まっている」(講談社)。「カジノジャパン」にドキュメンタリー「神と呼ばれた男たち」を連載。「夕刊フジ」にコラム「競馬と国家と恋と嘘」「カジノ式競馬術」「カジノ情報局」を連載のほか、「オールアバウト」にて社会ニュース解説コラムを連載中

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