身体を美しく魅せてくれる鎧で、闘い抜く!
さて、第21回めはチェーザレ アットリーニ(Cesare Attolini)のスーツです。職業柄、最近まではビジネスを意識してスーツを買うことはありませんでした。ただ、テーラリングには興味があったので、お洒落スーツは何着も買ってたんです。
成人式にはコム・デ・ギャルソン・オム(COMME des GARÇONS HOMME)のスーツを着たし、マイケル・タピア(MICHAEL TAPIA)に出逢ってからは、さらにスーツに興味が湧き、彼のOEMを手掛けていたチェスターバリー(CHESTER BARRIE)やカスタンジア(CASTANGIA)もチェックしてみたり。
30歳を迎える直前の2005年頃からは、いい歳だからと気合を入れて、チェスターバリーのディレクターも務めたニック・ハートが立ち上げたスペンサー・ハート(SPENCER HART)や、トム ブラウン(THOM BROWNE)も購入していました。高かったなぁ…(笑)。
でも、結局はお洒落スーツ。ビジネスシーンで着るにはデザインコンシャス過ぎて、冠婚葬祭でもおめでたいとき限定。浮かれたものばかりでした。40歳を目前にして、これじゃいかんなってことで、そろそろビジネスでも勝負できる"鎧"を纏うことを決意。闘い抜くためには中途半端じゃダメだろってことで、勝負に出たんですね。
最初はオーダーしようと思ったんですが、お洒落スーツばかりに袖を通してきたもんだから、恐らく遊んじゃうだろうなと思い、サラリと方向転換。クラシックで最高に仕立ての良い既製品にチャレンジしようと、ブリオーニやらキートンやら、ゼニアまで色々試してみました。
でも、どうもしっくりこない…。そりゃそうだ。こんなヒヨッコには身分不相応だし、何せ経験値が足りないんですから。ちょっとランクを落とそうか、妥協しようかなんて悩み始めてたときに出逢えたのが、今回のチェーザレ アットリーニなんです。
袖を通したときに感じたのは、なんとも言えない軽さと、柔らかい着心地。イギリスのスーツのように構築的な感じではなく、丸みを帯びた曲線のようなシルエットが身体に沿って吸い付くようで、こんな自分をも美しく、エレガントな雰囲気にしてくれました。ナポリ仕立てって、スゲぇわ。
このさり気ないストライプも素晴らしいんです。最初ネイビーの無地を買おうと思っていたんですが、どうも似合わない。なんだか、おっさんが高校の制服着たコントみたいに見えるんですよね。かと言って、コントラストがキツい白のペンシルストライプやチョークストライプとか着ようもんなら、本気のアウトレイジ…。誰が、ファッキンジャップくらい分かるよ、バカ野郎だっ! あっ、これ『BROTHER』でした。
話をクルリンパと戻しますが、このスーツを着たときの自分の佇まいにも満足できたし、最高の着心地で軽くて動きやすい、さらに手縫いで仕上げられた縫製や生地のクオリティも素晴らしく、どれを取ってみても完璧で、完全に気絶しちゃったわけです。
価格ですか? 高かったですよ。でも、20年着ると思えば、1年あたり2万円弱。メンテナンス代を足したとしても、長〜〜い目で見て(©小松政夫)みれば、結果お得ですからね。潔く、清水ダイブです(笑)。
なんてったって、アイドル…、もとい合戦に向かうときに纏う"鎧"ですからね。まずは自分が完璧に満足できて、向かう相手に描かせるイメージが大切よ、清く・正しく・美しく! あれ? アタマの中で小泉今日子が、こだまする……
Photo:Ko Maizawa
Text:Ryutaro Yanaka
『FORZA STYLE』シニアエディター
谷中龍太郎
さまざまな雑誌での編集、webマガジン『HOUYHNHNM』編集長を経て、『FORZA STYLE』にシニアエディターとして参画。現在までにファッションを中心に雑誌、広告、カタログなどを数多く手掛け、2012年にはニューバランス初となるブランドブックも編纂。1976年生まれ。