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BUSINESS SONY元社員の艶笑ノート

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会社生活は毎日が学園祭だった

ソニーは本気で超能力を研究していた

©gettyimages

そんな時、ソニーには超能力を研究する職場があることを知った。エスパー研究室という職場で、佐古さんという超能力者だという噂を持つ人がやっていると聞き、いきなり訪ねていき、異動したいと言ったらその場で断られた。だが、超能力に興味あるなら実験イベントなどで呼んでくれるということになった。

先輩に話すと、実は佐古さんはCDの規格を考案した世界的に有名なエンジニアで、彼なくしてCDは生まれなかったと言っても過言ではないという大変な人だと教えられた。そんな人が研究しているのだから、超能力はきっと存在するんだろうと思った。しかもエスパー研究室そのものが、会長の盛田さん肝いりで作られたことも知った。

©gettyimages 超能力者ユリ・ゲラー

これは競馬より面白いかもしれないとぼくは思った。何かの弾みで辞めてしまいそうになっていたぼくにとって、超能力を社内で研究できるというのは他にない魅力だった。すると間もなく、エスパー研究室で実演のイベントをするから見においでと佐古さんから誘われた。会場に行くと「気」の達人が招かれていた。まだ超能力と気の区別もつかなかったようなぼくは、作務衣を着て仁王立ちしている気の達人をユリゲラーか何かを見るような気持ちで見ていた。

実演が始まり、達人がエイヤッと気合いをかけると、前に立つ被験者が背中の方向に吹っ飛んだ。「おー!」と歓声が上がった。次の被験者も、達人がエイヤッと気合いを入れると吹っ飛んだ。そこで、ぼくもやりたいというと、達人はぼくに向かってエイヤッ! 気づいたらうしろに吹っ飛んでいた。ウソだろと思った。立ち上がり、もう一回やってほしいというと、達人は再びエイヤッ! ぼくはまたもや吹っ飛んだ。吹っ飛びながらぼくの人生観は一変した。すごいこと経験させてくれる会社だと思った。その感動のせいでぼくはさらに5~6年ソニーにいることになった。

ソニーを辞めなかったワケばかりで申し訳ないが、それからはまるで自分とは思えないほど一生懸命働いたような気がする。ぼくは新しいアイデアを出すのが好きで、特許も幾つか発案した。その中にはこんなものもあった。ニコニコ動画ではパソコンの画面を文字が走るが、ぼくは90年代半ばにそれをパソコンではなくテレビで出来るシステムを考案した。ぼくが考えたのは、キーボードを使わず、マイクでしゃべった音声がテキストに自動変換されてテレビに表示される装置だった。数千円で購入でき、これを使い、テレビを見ながら自分の意見を言うと、それが文字になって日本中のテレビに表示できることから「デモクラシーマイクロホン」と名づけた。

©gettyimages 

しかし社内では大不評で、面白いと言ってくれた人は一人しかおらず、特許は出したが、残念ながら商品化できなかった。同じ頃、今はドローンと呼ばれている例のあのラジコンも発案したが、これも反対ばかりで実現しなかった。出せば売れるのにと思い、悔しかったので、当時の企画資料は捨てずに取ってある。

出来の悪い不良社員が必要という考え方

©gettyimages 一世風靡した小型犬ロボットアイボ

そうこうするうち、ソニーではロボットの開発が活発になった。4足歩行の犬型ロボットAIBOは一世風靡したが、他にも開発中のロボットがあり、それに関連するプランナーをしている時、面白い人を知った。土井利忠さんという技術系役員だった。彼は人工知能やロボットなどを開発する責任者でその道のプロだったが、実は彼のことは知っていた。エスパー研究室の例の実演で、彼も気の達人に吹っ飛ばされていたからだ。そんなことに参加するのだから、他の役員とは一風違って幅のある人だとは想像がついた。

©gettyimages

そんな土井さんがある時面白い話をしてくれた。不良社員を残しておかないと会社はダメになるというのだ。彼はAI(人工知能)を作る上で、完璧なプログラムだけを残そうとすればするほど失敗すると言っていた。ぼくは専門外なので詳しいことは分からないが、出来のよいプログラムばかりを組み合わせていくと、不思議なことにシステム全体がうまく機能しなくなるというのだ。

ではどうすればいいかと聞くと、優秀なプログラムだけを残すのではなく、出来の悪いプログラムをわざと残しておくことで、かえって学習能力が高まり、AI全体として優れたものになるとのことだった。それと同じで、優秀な社員ばかり残していると組織もいずれダメになるから、不良社員や遊軍はわざと残しておかなきゃいけないと言った。「だったらソニーはぼくを絶対にクビにしちゃいけないですよね!」と言うと、彼は苦笑いしてごまかした。

©gettyimages

実は彼の話を証明するような出来事が2013年に起きた。ディープマインドというイギリスの会社が開発したアルファ碁というAIソフトがプロの棋士と戦った際のことだ。世界トップレベルの棋士がまったく歯が立たず3連敗を喫した後、第4局でイ・セドル棋士がついにアルファ碁を撃破し、人間がAIに雪辱したのだが、その際、イ・セドル棋士がどんな手を打ったのかを聞いてぼくは「あっ」と声をあげた。

わざと間違った手を打ったというのだ。すると敵のAIはパニックを起こし、自ら間違いを連発して自滅してしまったというのだ。つまりAIは相手が常に最善の手を打ってくることだけを想定してプログラムされていたため、勝とうとしない手を打ってくることに対処できなかったのではないかということだった。土井さんが、出来の悪いプログラムを残しておかなきゃいけないというのはこういうことだったのではないかと、十数年たったいま、ぼくは思った。

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