繊維刺激に弱いワガママこじらせボディに優しい最高級のカシミアニット
「どうせ、お金を使うなら本物を」。小さな頃から、一流品が好きでした。自分の身の回りに、欲しくないものがあるのがイヤ。そのためなら普段できない努力もサラッとできたんです。とはいえ、家、家具、車、食べ物、服、すべてを一流品で揃えるのは到底無理。「ならば、可能なものから達成させていこう」。そう思ったとき、一番好きで、金額的にもそこまで無理のなかったものが服でした。
頑張って稼いだお金を素晴らしい一流の服に変える、そんな行為に没頭していたら、無類の服好きが集まっているはずの編集部内でも「買い方がおかしい」「こじらせてる」との評判が……。確かにマンションが買えるくらい服を買っています。後先考えずに無理したことなんて数え切れず。でも、この経験こそが今の自分を形成していて、多少価値がある、価値のわかる人間になれていると思いこんでるんです(笑)。
「料理人が包丁を買わなくなったら終わり」。いつか先輩に言われた言葉がココロに残ってます。ファッションの編集に携わる人間が服を買わなくなったらダメだと思うので、今日も僕は一流の服を探し、買い続ける。そして、そんな愛しい服達を紹介していく企画「こじラグ(※こじらせラグジュアリー)」をスタートさせることになりました。これが参考になるかは分かりませんが…、自分が本当にイイと思うものにお金を使うことは、きっと人生を豊かにしてくれるはずです。
というわけで、第1回めは、バランタイン カシミアのカシミアニットです。1921年にスコットランドで創業したバランタイン カシミア社は、特級から4級までの5段階に分けられているカシミア原毛の中で特級のカシミアのみを使用しており、トップ・レベルのクオリティーを誇っていました。投資会社に買収されてからは、イタリア製のアイテムも増え、デザイン的にも洒落ていて着やすくなったのですが、やっぱりスコットランド製のたっぷりとカシミアを使った贅沢さや、あのなんとも憎めない少しもっさりした雰囲気を感じられなくなってしまいました。
自分はとにかく繊維刺激に弱く、ニットが好きなくせに、ウールの類いが着られないというワガママこじらせボディ…。お金がないときはコットンニットをダルンダルンに伸ばしながら、その後はジョン・スメドレーのシーアイランドコットンのものを着ていましたが、多少余裕が出来てきたので、「やっぱりカシミアを! それも出来れば最上のものを」と一念発起。もちろん、ロロ・ピアーナとも悩みましたが、当時は若干英国にカブれていたのもあり、まずはバランタイン カシミアにチャレンジしました。
当時の自分にとって10万円オーバーという定価は恐ろしいものでしたが…、先述した通り、少し野暮く、他にも手頃で洒落たカシミア(クオリティは別として)が世に多く出回るようになっていたため、意外にも安価(半額くらいだったかな?)で手に入れることができました。こちらのカーディガン、イメージは『Stranger Than Paradise(ストレンジャー・ザン・パラダイス)』のリチャード・エドソン。
映画は白黒なので、ブラウンベースなのかは???ですが、あんな雰囲気で着ていました。当時はアーガイルではなくインターシャを選ぶことで、ストリート・ラグジュアリーを気取っていましたが、いまではブラウンのインターシャが似合う年齢に近づいてきてしまいました(笑)。ジャケットのインナーで使うには少しもたつきますが、コートならまったく問題ありませんし、カシミアを贅沢に使っており相当暖かいので極寒のとき以外ならアウターとして重宝してくれます。
一方、グレーのクルーネックは、偶然にも編集長・干場と色違いのお揃い。ユナイテッドアローズが別注しているため、スッキリとしたシルエットで、とにかく使い勝手が良く、インナーとしてもアウターとしても使える優秀なコ。こちらも定価9万円くらいのところ4万円くらいで買えた気がします。
どちらも購入してから10年以上経っており、それなりの頻度で着用していますが、毛玉ができたり、へたったりすることなく常に一軍。購入したときよりも柔らかさは増し、どんどん着心地も良くなってきているほどです。安価なものを購入するより、よほど経済的! そうエコラグなのです。現在は日本に正規代理店はなく、スコットランド製のカシミアもほとんど作られていないようですが…、やはりスコットランド製のバランタイン カシミアは素晴らしく、一生付き合っていきたいほどの一流品なのです。
Photo:Ko Maizawa
Text:Ryutaro Yanaka
『FORZA STYLE』シニアエディター
谷中龍太郎
さまざまな雑誌での編集、webマガジン『HOUYHNHNM』編集長を経て、『FORZA STYLE』にシニアエディターとして参画。現在までにファッションを中心に雑誌、広告、カタログなどを数多く手掛け、2012年にはニューバランス初となるブランドブックも編纂。1976年生まれ。