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FASHION

伝統を革新せよ
日本の着物がムスリムファッションと出会ったら

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「亜熱帯のインドネシアですが、富裕層は、炎天下を歩いたりせず、移動は車だそうなんです。おまけに室内は冷房が効いているので長袖じゃないと寒いくらいでした」(伊東氏)。つまり暑さは関係なく、着物生地でも受け入れられるというわけだ。

日本の和装・伝統織物産業は、後継者不足や市場縮小の問題が深刻という現状がある。染屋、織屋などの生産者からは、後継者がいないという声が多く聞かれる。たとえ息子がいても、先が見えないので継がないという話も少なくない。和装関連職への就業が減少しているのだ。技術ある職人の高齢化が進む中で、後継者育成は大きな課題だ。経済産業省・和装振興研究会の報告では、呉服の小売金額は昭和50年代に1.8兆円規模とピークを迎えたが、約30年あまりの間に1/6にまで落ち込んだという。その原因は着物価格の高騰、そして洋服が浸透したことなのは言うまでもない。浴衣が売れているといっても、生産は日本ではなく、コストの安い中国だ。だから日本のメーカーは、いい技術を持っていても活かせていない。少子高齢化が進む日本で、今後、着物市場が拡大していくとは考えにくいのが実情なのだ。一方、ムスリム人口はいま世界16億人、それが2020年には20億人になると予測され、加速度的に増加する見込みだ。ムスリムの家庭は、子供が生まれれば、ほぼ無条件でムスリムになるからだ。

「巨大マーケットのムスリム市場は非常に魅力的だと感じました。本当に素晴らしい技術を持っている日本の職人さんを生かすためにも、私はムスリム市場に一石を投じたい。ファッションウィークのブースでは、いろんなマスコミに取材してもらえた。お客様に写真は撮られるし、『これは日本の着物生地か?』と積極的に質問も受けました。みんな素晴らしいと言ってくれた。『あなたはムスリムか?』ともよく聞かれました。どうしてムスリムじゃない人が、こういう衣服を開発しているのか疑問だったのでしょう。もちろん日本の和装産業を少しでも元気づけたいという思いがあります。しかし、それだけではなく、ムスリムと日本の友好の一助になりたいのです。日本の伝統も同時に伝えていきたい」

ふく紗の商圏はインドネシアにとどまらない。東南アジアではマレーシアやシンガポール、また北米では数百万のムスリムが暮らすとされるカナダとの商談も進んでいるという。2020年には東京五輪も予定されている。これから日本へ来る海外旅行客も増え、日本文化がますます注目されるはずだ。イスラム圏で、着物生地を身に着けた女性を見かけることが珍しくなくなる日も近いかもしれない。

Text : Hayato Takagi



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