「それは違う。君は劣等感(インフェリオリティ)という言葉を使ったが、アメリカにおいて“シャイ”と“インフェリオリティ”は全く別の概念だ。ケイはシャイだったが、劣等感があったとは思わないね。素質が違うことはだれの目にも明らかだったし、あとは練習を重ねればよかっただけだ。こうして力がついてきたときに、ケイはマイケル・チャンをコーチに迎え入れた。もっとも、マイケルには家族があるのでいつもケイと一緒にいるわけではない。ただ、マイケルは5フィート9インチ、ケイも5フィート10インチくらいで決して大柄なほうではない。すでに基礎が出来上がっているケイにマイケルが教え込んだのは敢闘精神だったんだよ。ジョコビッチについているボリス・ベッカーも同じだ。世界一位の男にどんな技術を教えるというのかね?ボリスがノバクに伝えているのは心構え、ものの見方、そして王者の思考回路なんだよ」
インタビューが終わり、撮影に入った。隣に座った私は、わざとくだけた調子で聞いた。
「ニック、あんた今まで何回結婚してきたんだ?」
両手を広げ、八本の指を立てた。「今回は13年続いているから、オレにしては上出来だな」
「九回目の予定は?」
氏はわざと衰えた老人のように腰を丸め、つぶやいた。「もう無理だ…」
「ちなみに、最短の結婚はどれくらいで終わったんだい?」
「あれは確かボビーだった。13か月で3回結婚したこともあったよ。」
「平均四か月ということかね」
「いや、もっと短いのもあったよ…」
確かにこの男はモテるだろうな。10人の王者を生み出したその男には、同性すらもとろけさせる色気があった。
Photo:Tatsuya Hamamura
Text:Taka Daimaru
ニック・ボロテリーの自叙伝
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