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FASHION

NEXT40 注目のオトコたち VOL.01
ベイクルーズ 野田晋作氏に訊く、今とこれから。[前編]

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飲食部門に従事して感じた 難しさ

90年代後半から隆盛を極めてきたセレクトショップ、そのプレスというポジションにつき、シーンを盛り上げてきた方々が40代を迎えようとしています。ファッションの最前線に立ち続けてきた、気になる注目のオトコたちが40代を迎えるにあたって考えていること、会社内での取り組みやプライベート事情までを、彼らと同世代でありファッションの編集者という立場で見続けてきたFORZA STYLEのシニアエディター谷中がヅケヅケと訊いていく連載企画。

まずは、「ÉDIFICE」や「JOURNAL STANDARD」など数多くの人気セレクトショップを展開する「ベイクルーズ」の上席取締役として、飲食部門を切り開いている辣腕、野田晋作氏にインタビューを敢行しました。

正直、40歳の実感は湧きません…

谷中:つい先日(2月29日)誕生日を迎えて、40歳になったわけですが、実感は?

野田晋作(以下野田/敬称略):正直、全然…。何も実感はないんですよね。

谷中:現在、野田さんのベイクルーズ内でのポジションを教えていただけますか?

野田:役職としては上席取締役というポジションで、 グループ全体の経営に携わっているのと、現在は飲食部門とフィットネス部門の事業責任者です。

谷中:ベイクルーズの飲食部門は、どんどん増えていっていますよね。

野田:多いですね。ハンバーガーにパンケーキ、カレー、「クチューム(COUTUME)」や「GORILLA COFFEE」などのコーヒーショップ、「ゴントラン シェリエ(GONTRAN CHERRIER)」「リチュエル(RITUEL )」というブーランジェリー、それから2015年12月に吉井雄一氏をクリエイティブ・ディレクターに迎えてオープンさせた「CITYSHOP」、二子玉川にオープンしたカリフォルニアスタイルのハイカジュアルレストラン「FARMSHOP」、ロンドンから招いたデリ「フランツ&エヴァンス(FRANZE & EVANS)」、あと3月中旬には渋谷の「ゴントラン シェリエ」の地下にあったバーを閉じて、そこにハンバーグ屋さんもオープンさせます。

谷中:もうファッションというより、完全に飲食の人ですね。ベイクルーズとしても、今後は飲食分野を強化させていく方針なんですか?

野田:そうですね。

谷中:何がきっかけでそういう方向性が強まってきたんですか? アパレルだけではビジネスとして成り立ちづらくなってきているから?

野田:平たくいうとそうなのかもしれませんが、なんでしょう…、ファッションだけで表現できることが限られてきている気はしますよね。もちろんファッションを深くしていけば深くしていくほど表現の幅は広がるのかもしれませんが、お客様には理解しづらくなってきますし。

谷中:コアになっていく分、ターゲットは減りますよね。

野田:僕らはアーティストなわけではないので、お客様に理解していただけなければ、ただのエゴでしかない。ファッション以外にも興味を持っていただけるジャンルを開拓してきた結果が、飲食だったんです。そのきっかけとなったのは、ジャーナルスタンダード新宿店の上にオープンさせたハンバーガー屋さんなんですが…。テナントを決めた際に3フロアあって、1F2Fはメンズとレディースを入れるとして3Fでは何をしようという話になっていたんです。当時スタッフたちがアメリカに出張に行っていたときに「アメリカのダイナーみたいなところで食べられるハンバーガーを日本で食べられたら良いよね」なんて話が持ち上がりまして。今でこそアメリカの空気感を味わえて、味もサービスも充実したハンバーガー屋は多く見られますが、あの店がオープンした10数年前には、個人のお店は別としてあまり見られませんでしたよね。

谷中:あのハンバーガー屋が最初だったんですね。

野田:一番最初です。意外と評判が良かったので、他の店舗にもハンバーガー屋さんを併設していったんですが、自由が丘に一棟でお店を出すときにそこはレディースのみお店だったので、男臭いハンバーガーってのはちょっと違う気がして、当時表参道の店舗で好評だったパンケーキにスポットを当てて、パンケーキだけの専門店をオープンさせたんです。そこも好評で現時点で15店舗にまで拡大しています。世のパンケーキブームに先駆けて出店できたのと、そのブームにも後押しされたおかげで良い成長を遂げていると思います。

谷中:そこで飲食の小さな成功があって、じゃんじゃん増やしていこうってなったわけですか?

野田:というより、お声掛けいただく機会が増えてきた感じです。新たなジャンルでお客様に来て頂いて喜んでいただけるということは会社としてもやりがいを感じるじゃないですか。それでパリから「ゴントラン シェリエ(GONTRAN CHERRIER)」を招くことになっていくんです。

谷中:どういう経緯でスタートしたんですか? ベイクルーズ側からのアプローチですか?

野田ベイクルーズの現会長が「パン屋さんをやりたい」ってところからスタートするわけですが、フランスに出張で行ってクロワッサン食べると美味しいじゃないですか? バゲットなど食べても美味しいし、あれを日本でも食べられたら多くの方々に喜んでいただけるかなと。そこで、パリの駐在の方に良いブランジェリーを探して欲しいと打診して、結構大御所な方とゴントラン シェリエと接点が取れ、会長は展開するなら既に完成されている方よりも若い才能に投資したいと決断して、始めることになったんです。

谷中:面白いお店を発見してピックアップしてきたわけではなく、先に「パン屋をオープンさせたい」があったんですね。

野田:そうです。

谷中:結果、大成功って感じですか?

野田いえいえ、まだ大成功ではありませんよ。まだ6店舗ですしね。

谷中:地方にも進出していますが、そのディベロップも野田さんが行っているんですか?

野田:それは経営企画のチームが請け負っています。ただ、どうしてもファッションのテナント寄りのディベロップになるので。

谷中:そこを強化させていくにはどういう手段が必要になるんですか? 飲食のディベロップに強い人を巻き込んでいく?

野田:ファッションと一緒ですよね。業界内で存在感が強くなれば、「あそこを入れたらお客様が寄ってくる」という印象も強くなりますし。コネクションどうこうで入れても売れないものは売れないですし。彼らにメリットがあると思って貰れば、必然的に良いテナントから多くの声が届くわけです。まだまだ実力不足だと思います。

谷中:飲食業界で見ると、あのくらいの盛り上がりでも実力不足だと感じられるんですね。

野田:ファッション屋が展開している飲食としては なんとなく目立っていますけど、飲食のプロ達から見たらヒヨッコですよね。たがだが40~50億円のビジネスですから。

谷中:盛り上がっているような気がしていますが、まだまだなんですね。ちなみに、ファッション屋が展開する飲食でライバルというか、意識する存在ってあるんですか?

野田:サザビーさんは上手だと思いますね。飲食でブランドを作り上げていくのは上手いなと思いますね。

谷中:スターバックスを筆頭に、アフタヌーンティーやKIHACHI、最近だとシェイクシャックなど、マスなターゲットへのアプローチがしっかりしていますね。

野田:僕らも学ぶことは多いです。ターゲットはマスで良い位置をキープできないとビジネスになりませんからね。あんまりニッチなことをしていても…。飲食携わって思ったことがあるんですが、いま原宿のロブスターロール専門店「ルークス(LUKE’S)」はよく売れるわけです。たった4~5坪にスタッフ2~3人で、1000円、1500円のものが1日500個以上売れる。洋服ってカッコよくなりたいとか、オシャレになりたいが先だからお店とかブランドイメージもカッコ良くなくちゃいけないんですが、飲食って店がオシャレとかカッコ良いとかって重要度で言ったら3番目か4番目で、美味いとか腹一杯になるとか、食いたいとかに一番最初に応えることが重要なんですよ。

谷中:欲への訴え方が、ファッションとは結構異なると。

野田ただオシャレな写真見たって、お腹は減らないですよね。

谷中:となると、ビジネスのアプローチの仕方は若干変わってきていますか?

野田:変わりました。というか変えています。なんかカッコつけすぎたなって。それはしなくちゃいけないし、僕らにとってはカッコつけることはとにかく重要なんで、あくまでセンスとか感度っていうのは大切にしつつも、美味いものを食べたいとか、腹一杯になりたいっていう欲求にきちんと答えられることを重要視していかないといけないなって。オシャレでちょこちょこっと盛り付けられた写真見ても大部分の方はお金を出そうとは思わないですよね。

谷中:オシャレなイメージだけの飲食店には1回行ったら、もう行かないですよね。よっぽど満足できれば別ですけど、話題を体感できたら十分ですからね。

野田:そんなことよりデカい肉食った満足感の方がリピートしたくなるし、誰かを連れて行きたくなりますよね? そこに重要度を置きながら、どうカッコ良く見せるかを考えていく。なんとなく今までの飲食業界のオシャレって、一昔前に流行ったモダンで洒落た居酒屋みたいなノリが残ってる気がして。

谷中:恵比寿にあって、OLたちが群がりそうなやつですよね。

野田:あれはもう今じゃないし、カッコ良くは感じないじゃないですか? でも飲食業界だけで育ってきた人たちって、まだまだアレをカッコ良いと思ってる感じがするじゃないですか。あぁいうグラマラスな感じって、バブルっぽいし、あっち側じゃないアプローチをしていきたいんです。

谷中:わかります。でも根強く残ってますし、50代くらいのちょっとお金持ってる人たちの間ではずっと流行ってますよね。

野田:そういうのは、もうお腹いっぱいだと思ってる僕らくらいの世代はたくさんいるので、彼らに上手に提供していくのがやるべきことかなって。

谷中:40歳前後の世代で、お金使ってもいいと思うお店で、しかも洒落てるお店って、意外に少ないですよね。

野田:ないですね。

谷中:どうしてないんですかね? ここをターゲットにしても儲からないからですかね? やっぱりお金持ってて、おネェちゃん連れ回してるオジさんたちを相手にした方がチョロいし、儲かるからなんですかね? 

野田:それはあるかもしれませんね。ホント、飲食は難しい。メニューの写真ひとつとっても難しくて、『エル・ア・ターブル』誌みたいな料理の写真がカッコいいって思ってしまうじゃないですか? でも普通の消費者から見たら、伝わらないですよ。

谷中:いまいちシズル感が弱いですね。

野田:食べたいっていう強い欲求には繋がりにくい。

谷中:たくさんメニューがあったとしても、チャレンジしにくいし、店の味のイメージを自分の中に刷り込んでいきにくい。

野田:昨日お昼に「クアアイナ」に行きまして、メニューをマジマジと見たんですが、決してカッコ良くはなんですが、美味しそうなんですよ。

谷中:食べたことないメニューでも食べてみたくなる。「美味そうかも」と思うし、迷わされますね。

野田そこにオシャレさとかを求めるのはエゴかなって思ってしまうんです。

谷中:でも、難しいですよね。ずっとオシャレに見せることに尽力するイメージビジネスに従事してきたのに、もっと生々しい欲求に応えていくジャンルに方向転換するのは、ハードルが高いですよね?

野田:どうしても邪魔しちゃうんですよ。

谷中:「うわぁ、ダセぇな…」って思っちゃうし、ダセぇと思われてるんじゃないかっていう恐怖感も湧きますよね?

野田:そうなんです。「ベイクルーズがこんな表現をしていいのかな?」っていう恐怖感があるんですけど、それが邪魔して、せめぎ合ってます。あと、儲かりませんね…。

谷中:あれ? 儲かってないんですか?

野田:でも、ビジネスってそういうものですよね。物を仕入れて何か加工してお客様に届けて、箱(店舗)まで持っているビジネスって、やっぱり儲かりませんよ、飲食でもファッションでも。プログラマーとかSE雇って、携帯ゲーム開発して売って何百億って売り上げ叩いてるのに比べたら、古いし地味ですからね。

谷中:結局作ったその物しか売れませんからね。廃棄リスクもあるわけですし。

野田:在庫抱えなきゃいけないし、毎日生々しい現場があるわけじゃないですか? 日々お客様の欲求と戦っているわけですよね。でも、データのビジネスに行きたいとはまったく思わないし、だから面白いなって思いますよね。

谷中:会社的にそちら側のビジネスにチャレンジしようという機運はないんですか?

野田:お客様の利便性向上や、次代に即したタッチポイントとしてなど、 今の商いを補完するためのツールとしては使います。ただ今の所僕自身、実体のないモノを売るというビジネスに興味はありませんね。

次回は、野田氏の今後の展望とプライベートを訊いていきます! こちらから。

 

Text:Ryutaro Yanaka
Photo:Yozo Yoshino

野田晋作
ベイクルーズ上席取締役

プレスやクリエイティブ部門の統括責任者を経て現職。現在は主に経営企画、飲食、フィットネス部門の事業責任者を兼務し、3月からはプレスのオブザーバー的ポジションも。趣味はサーフィン・料理・トライアスロン。

 



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