自分の価値観を
信じるということ
紀里谷:「日本のサムライではなく、あなたが知っているあなたの国の正義を見せてほしい」と答えました。つまり17カ国、それぞれの国のそれぞれの正義を『ラスト・ナイツ』で演じてほしかった。そこで興味深いのが、結局は皆、形は違えど根本的には同じものを演じていたんです。そこにある17カ国それぞれの「正義」に大きな違いはなかった。
西内:正義とは、ある特定の文化に存在するものではなく人類全体に共通しているものだということですね。
紀里谷:そう、つまり正義や人の心を「日本の心」「サムライ」というような言葉で分けるのは違うと思うんですよね。どこの国にも、きっと同じだけの割合で良い人も悪い人もいる。であれば、国境を飛び終えて想いを共有してほしい。そんな想いでこの映画を撮りました。国家単位で物事を見る時代は終わったと僕は思っているんです。
「まだ出世争いで消耗してるの? 本当の幸せって、他人にどう映るかじゃなくて、自分がどう感じるかだよね」
今回紀里谷監督が最も熱く語ってくれたのが「幸せとはなんぞや!?」という問題。これは誰もが疑問を抱き、そして難しすぎて分からないままにしている永遠のテーマじゃないでしょうか? 西内も常に考えてます。えぇ、中二病ですから……。
忙しいことを理由に本当の幸せを考えることをないがしろにしているソコのアナタ! 「幸せってなんだろう」なんて考えるのは中二病のやることだと余裕ぶっこいてるソコのアナタ! 出世してエラくなることが幸せだと信じているソコのアナタ! 人に自慢できるかどうかが価値基準となっているソコのアナタ! 本当にそれでいいんですか? それ、本当にアナタの思う幸せですか? それ、自分の価値観ですか? 他人の価値観じゃありませんか? ホントニ、アナタ自身ガ、シアワセ、カンジテマスカ?
そんな問題に真正面から向き合う紀里谷監督の強さと純粋さこそが「正義」なのかもしれない。「自分自身に対しての正義」なのかもしれない。そんな、本作『ラスト・ナイツ』の根源ともなっている「紀里谷哲学」をとくとご覧あれ!
西内:本作を通して伝えたいことはなんですか?
紀里谷:自分にとって何が本当に大切であるのかを今一度立ち止まって考えてほしいという想いがあります。本作の主人公は、自分の財産、地位、名誉、命よりも大切なものがあると思い行動をおこしました。形のない、目に見えないものに人生を捧げることを、人は美しいと思うものです。
西内:はい、実際に『ラスト・ナイツ』を見て、目先の物質的な利益を求めずに正義や忠誠心を貫く登場人物の姿は本当に美しく感動しました。
紀里谷:しかし、人は自分の人生において、往々にして形あるものにこだわってしまうものです。人はステップアップしたいと願いますよね。今より良い立ち位置にいたいと願いますよね。出世したい、良い学校に入りたい、もっと年収を上げたい…。そう思いますよね?
西内:はい、思います。本当に大切なものは目に見えないもの、愛こそ全てだと思っていても、やはりステップアップしたいという気持ちはあります。
紀里谷:人は往々にして形としてのステップアップに注力する。女性が男性と付き合うときですら、その概念が付きまとったりしますよね。
西内:ぇ、ぁ……はい……。元彼より上の男を!! な〜んて、ね(笑)。あ、嘘です!! 嘘です!!!(汗)。
紀里谷:仕方ないですよ。社会も親も学校もそれを望むわけですからね。でもね、本当にそれで良いのかと思うんですよ。表面的なものをステップアップさせたからといって、自分に対する満足感があがるかというと極めて疑わしいと僕は思う。
西内:たしかに。ステップアップって、要は人と比べた相対的な価値観の中で生きているということですもんね。
紀里谷:そう。そんなものが本当の幸福と直結するのかは疑わしいですよ。
西内:では紀里谷さんは何が重要だと思いますか?
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<紀里谷和明監督 最新作『ラスト・ナイツ』公開情報>
2015年11月14日より全国にて絶賛上映中。
詳しい劇場情報はコチラをチェック!
http://lastknights.jp/theaters.html
<紀里谷和明 プロフィール>
1968年4月20日、熊本県生まれ。15歳にして単身アメリカに渡りデザインを学ぶ。26歳よりニューヨークを拠点に写真家として活動開始。その後、 数々のミュージックビデオやCM制作を手がける。代表作に映画『CASSHERN』『GOEMON』。最新作『ラスト・ナイツ』は全国映画館にて絶賛上映中。
Text:Yuko Nishiuchi
Photo:Naoto Otsubo
1988年、兵庫県西宮市出身。同志社大学文学部哲学科卒。avexへの就職を期に上京し、3年半のOL経験を経てフリーライターとなる。在学時に自身のアメーバブログが大学生ランキング1位を獲得。会社員時代、dマガジン「Hot-Dog PRESS(講談社)」にて「おじさんハンター」として連載をしていた。