日本のメディアにはめったに
登場しない実業界の洒落者!
「カルロ黒部のGENTLEMEN’S STYLE」第3回目は、40年近くメンズファッションを見続けてきたカルロが近年知り合った中で「世界一洗練された紳士」だと思うアレキサンダー・クラフト(Alexander V.G. Kraft)さんをご紹介します。
クラフトさんは、260年以上の歴史を誇る著名なオークションハウス、サザビーズの不動産仲介会社、サザビーズ インターナショナル リアルティ フランス‐モナコ社の会長兼CEOをされています。ファッション業界ではなく最高級不動産仲介という実業界のトップのため、日本ではなかなか知られていませんが、衣食住ライフスタイル全般が貴族的で洗練されているのに驚かされます。
ビジネスシーンのクラフトさんのスーツは、連載第1回で紹介したパリのビスポークテイラーCiffonelli(チフォネリ)で仕立てています。ショールカラーのラペルド、ダブルブレスト6ボタンヴェストの3ピーススーツとウオッチチェーンは、クラフトさんのアイコンスタイルとして、実は海外の洒落者の中では有名です。
ややナローなラペルやプレーンフロントパンツに時代感を取り入れていますが、チフォネリショルダーと呼ばれる独特のロープドショルダーが、顧客の富裕層に無言のうちにチフォネリのビスポークであることを伝えているのです。
また裾口のダブルカフス巾は4cmです。チフォネリでは特別な指定がない限りこの巾で仕立てるのが伝統なのです。ブルーグレーの3ピーススーツにサックスブルーのワイドスプレッド ダブルカフスシャツ、ネイビータイの控え目なカラーリングも実に好感が持てます。足元はステファノ・ベーメルのストレートチップです。ビジネスの場では奇抜な色は不要という好例ですね。
こちらは、モナコ、パリ、ロンドン、パームビーチと世界を飛び回るジェットセッターであるクラフトさんの旅行の際のジャケットスタイルです。ボリュームのあるラペルのダブルブレスト6ボタンのネイビージャケットはサイドポケットがパッチポケットになっていてカジュアル感を演出しています。クリーム色のコットンパンツ、白のワイドスプレッド ダブルカフスシャツ、ブラウンのタイでシックなカラーリングですがしっかりコントラストを付けています。最大のポイントはクラフトさんが好んで素足で履く刺繍入りヴェルヴェット製のスリッパです。クラス感のあるカジュアルなら世界の超一流ホテルのフロントでも丁重なもてなしを受けることができるのです。
洒落者は足元にも当然こだわります。こちらはフィレンツェのステファノ・ベーメルでビスポークオーダーしたローファーです。表面感のあるグレインドレザーを使用しています。オレンジ色のコントラストライニングと届けられた木箱に入ったA.K.のイニシャルがビスポークの証なのです。
シューズと同様、ヴィンテージのシガーケースやエルメスのレザーグッズなどクラフトさんのアクセサリーはブラウン系で統一されています。時計は写真のパテック フィリップを始め多数保有していますが、どれもヴィンテージの名品揃いです。時計だけが主張するのではなくクラシックなスーツやエレガントなカジュアルスタイルに合う物だけを厳選しているのです。
ファッションは自分のバックボーンや知性、教養を自ずと相手に伝える大事なコミュニケーションツールであることをクラフトさんの着こなしは教えくれます。
Text:Carlo Kurobe

カルロ黒部(黒部和夫)
カルロ インターナショナル代表 ファッションコンサルタント ファッション評論家。1958年外交官子弟として駐 インドネシア日本大使館で誕生。1983年オンワード樫山入社後、メンズ企画部門を歩む。2014年同社退職後、カルロ インターナショナル設立。国内外のファッション企業のコンサルティングおよびPR業をはじめ、ファッション評論や公演で活躍中。