妖しい扉の向こうは別世界
日本一の歓楽街・新宿歌舞伎町。夜ともなれば多くのサラリーマンや学生で賑わいます。実際、飲み会やデートで歌舞伎町界隈へ行く方も多いでしょう。
例えば、デートで食事をしたとします。さて、2軒目はどこへ行きましょうか。今どきのカジュアルなワインバル? 暗めのシックなオーセンティックバー? ありきたりで面白味には欠けます。ここは歌舞伎町。少々刺激的な夜を、妖しいバーで過ごしてみるのはいかがでしょうか?
「TOHOシネマズ 新宿」(旧新宿コマ劇場)から一本路地裏へ。表通りの華やかさとは打って変わり、昔の新宿の雰囲気がここにはまだ残っています。そんな路地に光る妖しい目玉の看板。
ここは「バー レンピッカ(BAR LEMPICKA)」。歌舞伎町界隈に来なれている人でも足を踏み入れるのを躊躇するような佇まいです。思いきって扉を開けてみることに……。すると目の前に表れるのは急な階段。このご時世、こんな造りの建物は珍しくなりました。
階段を踏み込むたびに、ギッギッときしむ音。そして、BGMが徐々に大きく聞こえてきます。バンドネオンのアルゼンチンタンゴです。
階段を上り切ると、赤と黒の世界が広がります。昭和モダンというべきか、オリエンタルというべきか……。そして、壁に掛けられた大きな絵画が目に飛び込んできます。この絵の作者はポーランドの女性画家、タマラ・ド・レンピッカ。店名の由来にもなっている画家であります。
歌舞伎町のど真ん中に、まさかこんなバーが!? そう思わせるほどの妖しい雰囲気に、初めて来た人は圧倒されます。さらに妖しさを助長するがオーナー店長の青さん(仮名)。男前ですが、独特の雰囲気を漂わせています。
余談ですが、「バー レンピッカ」は基本的に取材を受けません。オープン当初(15年以上前)から筆者が懇意にさせてもらっているので、今回は特別に取材を受けてもらえました。顔と名前を出さないことを条件に。
「なんで取材拒否なの?」
「メニューはないですし、常連さんばかりですし、あまり……ねぇ」
飄々とした、つかみどころのない感じは15年前から変わっていません。
閑話休題。
妖艶な指先が作り出すフレッシュフルーツのカクテル
フカッとした椅子に腰を沈めます。数百種類の酒が並ぶバックバーを眺めつつ、青さんと相談。一杯目はどうしましょうか。
「蒸し暑いですしね。ベリーニでどうでしょう」
フレッシュの桃をカットし、グレナデン・シロップを入れ、ミキシングしてスプマンテを注ぎます。一連の動作は淀みなく、艶やかな指先にも妖しさが漂います。
冷えたベリーニができました。お酒にそれほど強くない女性でも、これならスッと飲めるはず。そして、濃厚な桃の甘みは次の一杯へと誘います。
「いま、スペインで流行っているというカクテルはどうですか?」
オレンジをカットして、グラスの中で潰します。そしてシェリーを注ぎ、炭酸で割ります。
シンプルですが、暑い季節にピッタリなカクテルです。オレンジの爽やかさとシェリーのほのかな甘み、酸味が絶妙にマッチします。
「カクテル名は?」
「なんだったかな。調べておきますよ(笑)」
フレッシュオレンジとシェリーを混ぜ、ソーダを加え、青さんのセンスをワンダッシュ垂らしたカクテル。それでいいか。こんなにおいしいカクテルを飲まされたら、正式なカクテル名なんて、どうでもよくなります。
Text:Hiroshi Goto(Kanzo_Koshi)
Photo:Asami Kikuchi
Arrange:media closet
バー レンピッカ(BAR LEMPICKA)
東京都新宿区歌舞伎町1-11-3 加藤ビル 2F
03-3205-1158
19:00~5:00
定休日/日曜日