時計でスタイルを示すビリオネア
スマートフォンで時間が分かる時代なのに、ますます高級腕時計が売れている。今や高級腕時計は“嗜好品”。贅沢を楽しむアイテムだからこそ、そこには所有者の主義・主張が表れる。旬なビジネスマンが愛用する腕時計には、彼らの頭の中が反映されているということ。つまり、“明日の経済を占う指標”となる。
いつの世も、贅沢な暮しをしている富裕層は文化の牽引者だった。富裕層のライフスタイルは一般市民の憧れであり、その真似をすることで文化が醸成していく。メンズファッションの世界に、ウィンザー公(元英国王エドワード8世)の名がつくアイテムやテクニックがたくさんあるのは、その証明でもあろう。さらにはパトロンとして絵画や時計に大枚をはたき、技術を向上させてきた歴史がある。
現在、世界で最も貴重な時計であるパテック・フィリップの「グレーブス・ウォッチ」は、アメリカの銀行家ヘンリー・グレーブスjrが、「金に糸目をつけないから最高の時計を作って欲しい」とオーダーし、1925年に完成した懐中時計。これが今年の11月にオークションにて約28億円で落札され、世界で最も高価な時計となった。かように、富裕層の遊び心は時代を超えて人々の好奇心を刺激してくれるのだ。
現代の経済はいわゆるモノ作りメーカーの時代は終わり、ネットワークとサービスを牛耳る会社が時代を謳歌している。グーグルもアマゾンも、モノを作って売る訳ではなく、サービスを提供することで巨万の富を稼ぎだしている。
それはアメリカの経済誌フォーブスのランキングを見るとよくわかる。同誌では、毎年様々ジャンルのビリオネアを紹介しているが、40歳以下のランキングを見ると、そこには一定の法則が見えてくる。ほとんどがコンピューターやネットワークを使ってサービスを提供する会社の経営者たちで、フェイスブックの創業者マーク・ザッカーバーグがその筆頭だ。
彼らはお金持ちだが、いわゆるガリ勉あるいはオタク気質なので、残念ながらスタイルアイコンとはなりにくいし、ファッションやカルチャーを牽引するような発信力もセンスも持ち合わせていない。というよりも、見てくれを飾ることに頓着していないのだ。
彼らは当然ながら、高級時計のひとつも着けていない。コレを“生き様”と証するのは簡単だが、スマートフォンで時刻を確認する行為は、所作として美しくないのは事実である。

そんな中、唯一自らビジネスを興して成功し、しかもナード&ギークでもない人物がいる。彼の名はニック・ウッドマン。エクストリーム系ウェアラブルカメラとして人気を集めるGoPro(ゴープロ)の開発者であり、ウッドマン・ラボCEOだ。
エクストリームスポーツの愛好者だった彼は、自分たちの華麗で危険で刺激的なライディングを見せるために、専用のタフなカメラを開発した。プロモーションはYouTube。ゴープロで撮影された映像が、世界中で話題となり、爆発的なヒットを記録する。それがもたらしたのは、映像を撮りながら遊び、それをアップロードして世界中の人々と共有すること。プロダクトとサービスの両面で、ライフスタイルに影響を与えている。
GoProが成功した大きな理由として、ニック・ウッドマン自体のパーソナリティも挙げられるだろう。さほど写真栄えのしない他社の経営者とは異なり、ニック・ウッドマンはヘルシーなアメリカ人男性そのままである。均整の取れたボディと柔和な笑顔、シンプルなファッションでも身体が出来上がっているの、むしろスマートに見える。
ウォールストリート上がりのインテリでもなければ、シリコンバレーのオタクでもない、西海岸のやんちゃなオトコがビジネスを成功させた。そんな雰囲気なのだ。
そんな彼が愛用している時計が、ブライトリングである。
航空時計のトップブランドであり、”プロフェッショナルの計器”を標榜する本格派。時を刻む計器としての価値にこだわる骨太な世界観を持っている。
断定することは難しいが、ウッドマンが愛用するモデルは「モンブリラン・ダトラ」か「ナビタイマー・ワールド」だと思われる。どちらのモデルも、ブライ トリングが考案した航空回転計算尺という機能美と薄いベゼルが作るエレガンスを両立しており、オンにもオフにも似合う時計に仕上がっている。

ブライトリングとゴープロの世界観は、非常に相性がいい。エクストリームスポーツのダイナミックな映像は、その瞬間を逃したら二度と撮ることはできない。つまり信頼性が何よりも尊ばれる。ブライトリングも信頼性を高めるために、品質の向上だけでなく、アフターサービスも充実させている。
ニック・ウッドマン×ブライトリングという組み合わせからは、彼のセンスが見えてくる。ディテールにこだわり世界観にこだわり、タフネスにこだわる。しかしそこに野暮ったさはなく、デザインも操作性も秀逸。こういった共通点を持っている時計を選べるというのは、高い審美眼の証明にもなるだろう。
ニック・ウッドマンはカジュアルなスタイルにも、スーツ姿にもこの時計を合わせている。それはブライトリングが、明確に“自分のスタイルを語ってくれる”アイテムだからに他ならない。
ライフスタイルを提案し、文化を創造する企業は、CEOこそが率先してアイコンとなるべき。ニック・ウッドマンの様なビリオネアがもっと増えればいいのにと、思う次第である。
Photo:Getty Images
Text:Tetsuo Shinoda