ジェイさんは、誰もが知る有名デザイナー・R氏のアシスタントデザイナーだった。
R氏は業界でもゲイと有名で、秘書やアシスタントをはじめとした側近には自分の「お気に入り」を置くのだと。
「ジェイさんはR氏に気に入られ『俺のブランドのデザインを担当してくれ』と大きな仕事を任されたそうです。でも、彼がデザインしても売り出されるのはR氏名義のブランド名。ジェイさんの名が世に出ることはありません。でも『俺が引退したら、全てを任せるから』と言うR氏の言葉を信じ、男娼同然の行為を強いられている。それが10年以上にわたって続いているそうです」
豊さんは伏し目がちになった。
「ジェイさんは、R氏との関係を切れない反動で、時々ウリ専で欲望を発散していると言っていました。そして、女性を抱くこともできなくなったと……でも『いつか、自分の名前のブランドを立ち上げられるよう頑張るから、豊くんもアイドル目指して頑張って』と言われたんです。
アイドルを目指して上京し、ニセのバーテン募集からウリ専ボーイになって、初めてのお客様もゲイの罠にハマってしまって……最初からあまりにも衝撃が強すぎて、動揺しています。でも、アイドルへの夢同様、お金の魅力にすっかりハマってしまいました」
ウリ専「C」では豊さん目当ての常連客もつき、稼ぎも増えてきた。一方で、アイドルを目指す仲間とともに、オーディションに向けてレッスンを受ける日々が続いている。
「時々思うんです。もしアイドルデビューできても、ウリ専で働いていた過去が発覚して、ある日突然、何もかもが壊れてしまうんじゃないかって……性加害の記者会見を見ていると、自分やジェイさんと重なっている部分があまりにも多く、心がざわめきます」
自ら飛び込んだ「男娼」の世界とはいえ、アイドルを夢見る豊さんの心が落ち着く日は当分なさそうだ。
TEXT:蒼井凜花