【前編あらすじ】
4年ぶりの帰省を待ち望んでいた遠藤和明(50)。親戚との飲み会や離れた母屋での夜など、様々なことを楽しみにしていた。しかし、出発前日にとある事件が起こってしまう。
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「急に長男が部活だと言い始めたんです。僕はサボれと言いましたが、次の大会に響くとかなんとかいって聞かなくて。かなりイライラしましたが、仕方なく長男と妻は1日遅れて電車で来ることになりました」。
序盤からスケジュール通りにいかないことに和明は、イラつきを募らせていた。しかし実家に帰れば、我が物顔できる…そう思えば、なんとか我慢することができた。
「半年前から楽しみにしてきたんだから。そりゃそうでしょう」
しかし帰省した和明を待ち受けていたのは、変容した親の価値観だった。
「家についても全然誰もでてこなかったんですよ。おかしいなとは思いましたが、いつも通り居間に座って、帰ってきたよと言ったんですけど……」
いつもなら玄関に迎えにきて、甲斐甲斐しく荷物を運んだり、早く座れと促してくる母の姿が見当たらない。和明が不審に思って台所に行くと父親がゴソゴソと何かをしている姿が目に入った。
「生まれて初めて親父が台所に立っているのを見ましたよ。男子厨房に入るべからず的に育ったもんで」
和明に気がついた父親は、やぁと手を上げて「今、お茶入れるから」と言った。
「驚いちゃいましたよ、ほんと。親父にお茶淹れさせるなんてありえません。すぐに母さんを呼びつけました」
程なくして2階から降りてきた母に和明は詰め寄った。
「何させてんだよ!って。そうしたら……」
平然とした顔で母はこう述べたという。
「お茶くらい自分で淹れるのが当然でしょう。まさか、まだなんでも奥さんにやってもらってるんじゃないでしょうね。女がなんでもするなんて時代はもう終わったのよ」
ボケたんじゃないかなって思いましたよ。でも、全然そんなそぶりはなくて、いよいよアレ?って……
和明が期待をしていた親戚は1人も訪ねてこない。無論、飲み会も行われない。食事は出前のそばを中心に、父と母が2人で漬物を切ったり、煮物をよそったりしている。さらに酒が欲しいなら自分で買ってこいという。
「実家の天国ライフは、コロナを機になくなっていたんです……」
極め付けは兄の態度だった。