読者の皆さんは「英国菓子」と聞いて何を連想されますでしょうか? おそらく多くの方が「スコーン」と答えられるのではないかと思います。アフタヌーンティーの主役であり、「フィッシュアンドチップス」や「ローストビーフ」などと共に英国の食全体を代表するような存在でもあります。
16世紀に出現したとみられ、19世紀半ばに現在の形に落ち着いたようです。小麦粉にバターと砂糖などを混ぜ合わせただけのシンプルなレシピですが、ジャムとクロテッドクリームと合わせると感動さえ覚えるほど。
ざくっとした食べ応えのあるもの、ふわっとしたパンに近い食感のもの、シルキーと呼べるような滑らかな舌触りのものなど、配合バランスの妙が食感や味わいの違いとして現れます。実際に私が英国で味わったスコーンには、同じ系統と呼べるものはあっても全く同じものには出会うことはありませんでした。
私にとってもスコーンは頻繁に作るものの一つ。私がスコーンを作り始めたのは、日本からロンドンへ越した頃でした。インターネットに載っていた適当なレシピを見様見真似で作ってみたのですが、オーブンから出てきたのは全然膨らまずカチカチになった「スコーン・モドキ」。淡い期待とは裏腹な結果にさすがに落胆したのですが、これが探究心に火をつけることに。
色々なレシピを試したり、配合や焼成温度・時間を調整したりするうちに生まれた作り方を、今回ご紹介したいと思います。
◆今でも忘れられない、コッツウォルズで出会った感動的なスコーン◆
私が味わった中でベストと呼べるスコーンは、実はロンドンの五つ星ホテルのものでも有名なティールームのものでもありません。滑らかにして適度な弾力の生地から上質なバターとミルクの香りがただようこのスコーンを見つけたのは、イングランド中央部丘陵地帯、コッツウォルズのとある村の小さなベーカリーでした。
コッツウォルズの丘を散策中。英国内でも自然が特に豊かな地域で、良い食材が手に入るのもうなずけます。
スコーンはジャムやクロテッドクリームと共に頂くものですが、こちらのスコーンはそのままでも十分なほど美味しい。店員さんによると、コッツウォルズ近郊でとれる高品質な原材料のおかげだとか。これ以来、私のスコーンのベンチマークとなっており、未だに超える存在は現れていません。そして自分が作るスコーンもこれに近いものをと思うようになりました。
◆スコーン作りは手を加えすぎないことがポイント◆
以下、分量は5.5cmの型で18個分です。
①まずは薄力粉400gとベーキングパウダー18g、塩ひとつまみをふるいにかけ、冷たい無塩バター100gを加えます。
②指でバターと粉類が混ぜ合わせる、Rubbing(ラビング)という作業を行います。
③生地がパン粉のようになったら上白糖50g(または粗糖60g)と牛乳140ccを加え、軽く混ぜ合わせます。ここで混ぜ過ぎるとスコーンが膨らまなくなりますのでご注意を!
④ボウルにラップをかけ、生地を冷蔵庫で30分〜1時間休ませます。この間にオーブンの予熱(220℃)も始めます。
⑤打粉をしたまな板等の作業台で生地を少しだけ捏ねて成形し、めん棒で2cmほどの厚みに伸ばして型でまっすぐ下にスパッと型抜きします。型の大きさは好みによりますが、5.5〜6cmが一般的です。カジュアルなティールームやカフェで見かける大きめのスコーンを作る場合は、7cmくらいのものを選んでください。
⑥ベーキングシートを敷いたトレーにスコーンを並べて、刷毛で溶き卵を上部に塗ります。オーブンで10分〜13分、よく膨らんで、上部がキツネ色になるまで焼きます。
狼の口も綺麗に出ています!
⑦焼き上がったらワイヤーラックの上にのせ、完全に冷めるまで待つか、あら熱が取れるのを待って。温かいままでも美味しく頂けます。ちなみに私は前者が好みで、冷めてスコーンの生地がしっかり落ち着いた状態がベストだと思います。
〈材料〉5.5cmの型で18個分
・薄力粉 400g
・ベーキングパウダー 18g
・塩 ひとつまみ
・無塩バター 冷たいもの 100g
・上白糖 50g(白い砂糖が気になられる方は、粗糖60g)
・牛乳 140ml
・卵 1個 (仕上げ用)
◆ジャムが先かクリームが先か!? スコーンはどう食べるのが正解?◆
ティールームやカフェでスコーンを注文するとジャムとクロテッドクリームが付いてくることが殆どです。そして、ジャムスプーンとティーナイフが1本ずつ。多くの方がやってしまいがちなのが、ナイフでスコーンをカットすること。スコーンはパンの仲間、マナーの上ではパンは手で割ったりちぎったりするのが正解です。
スコーンの場合、“狼の口”と呼ばれる中央に入った割れ目に沿って上下に割ります。そしてジャムとクリームを塗るのですが、前回ご紹介した紅茶のミルクファーストのように、ここにも英国の伝統があります。
ジャムを先に塗るか、クリームを先に塗るのか。パンの仲間ならバターのようにクリームを先に塗るのでは? と思われる方も多いのではないでしょうか。実際私も渡英するまではクリームを先に塗っていました。
ロンドンで友人とお茶をしていた際に、クリームを先に塗るのはイングランド南西部のデボンやコーンウォール地方の人たちの習慣で、それ以外の地域ではジャムを先(ジャム・ファースト)に塗るのだと指摘され、慌てて直した経験があります。英国人は結構気にするところなので覚えておくとよいかもしれません。
◆スコーンに合うおすすめジャム◆
スコーンに合わせるジャムはストロベリーやラズベリーが王道でしょう。私も専らラズベリージャムで頂くことが多いのですが、甘酸っぱさが魅力のレモンカードも非常によく合います。レモンカード自体にバターがかなりたくさん含まれていますので、クロテッドクリームを省いてもOKだと思います。またジャムではないですが、白砂糖を精製する際に副産物として出るゴールデンシロップもおすすめです。
◆クロテッドクリームという危険な食べ物◆
生乳を長時間加熱して作られるこのクリーム、こんなに美味しい油分はそうないと思われます。生乳から脂肪分を分離させて作られるバターとは味やテクスチュアも異なり、クロテッドクリームには自然な甘味があり、クリームチーズに似た滑らかさが食べる人を魅了します。英国ではスーパーで普通に売られているもので、主にはスコーンのお供として消費されます。日本国内では国産のものと英国産のものが手に入りますが、入手先は限られます。
◆プレーンだけじゃない、豊富なヴァリエーション◆
個人的にはプレーン・スコーンを偏愛している私ですが、レーズンやクランベリーなどのドライフルーツを練り込んだものも滋味深く美味です。チョコチップ入りのものも食べやすくおすすめ。自分好みのトッピングを見つけるのも楽しみの一つです。
こちらはヨークシャーにある著名な老舗ティールーム「Bettys(ベティーズ)」の名物で「Fat Rascal(ファット・ラスカル)」というスコーンの1種。ドライフルーツをふんだんに使い、大ぶりでとても食べ応えがありますが、さくっとした食感とどこか懐かしい味わいが手伝ってどんどん食べられてしまう危険な食べ物です。
スコーンといえば、甘いものというイメージが大変強いですが、Savoury Scone(セイヴォリー・スコーン)という、チーズやハーブなどを練り込んだ惣菜パンに近いものも存在します。
◆好みの紅茶と共に、最高のティータイムを◆
スコーンと紅茶という組み合わせは、ご飯と味噌汁、ワインとチーズと同列に並べてよいほどの組み合わせだと思っています。ジャムやクリームの余韻の残った口内にミルクティーが流れ込む瞬間は、至高とも言える瞬間です。スコーンはコツさえ摑んでしまえば簡単に作ることができますし、最近ではスコーンを売っているお店も増えました。ぜひ皆さんもこの感動を味わってみてください。
photos&text: Kohki Watanabe
◆渡邉耕希(わたなべ・こうき)◆
愛媛県出身の1992年生まれ。ロンドンの大学でクラシック音楽を学ぶ。現地でヴィンテージ・アイテムの魅力に取りつかれ、服や靴を中心にアイテムの歴史的背景まで探求するようになる。無類のスイーツ好きが高じて開設したYouTubeチャンネル「The Vintage Salon」にて料理や英国菓子作りを通して日本で実践できる英国的生活を発信している。