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FOOD 日本独自のカレーを探れ

”カレーマフィア”が考案! 麻布十番の実験的カレーとは?

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現地完全再現の本格インドカレーからご当地カレーまで、百花繚乱な日本のカレー事情。そんななかから、いまも進化を続ける日本独自のカレーを「カレーライス」と定義し、個性溢れる「今食べるべきひと皿」とその作り手を、気鋭のカレーライター 橋本修さんが追いかけていきます。

今回は麻布十番「肉とスパイス JINDARI」

現地完全再現の本格インドカレーからご当地カレーまで、百花繚乱な日本のカレー事情。そんななかから、いまも進化を続ける日本独自のカレーを「カレーライス」と定義し、個性溢れる「今食べるべきひと皿」とその作り手を、気鋭のカレーライター 橋本修さんが追いかけていきます。

今回橋本さんが訪れたのは、大人の街、麻布十番に位置する「肉とスパイス JINDARI」。元々は熟成肉の専門店「旬熟成」の分店としてオープンしましたが、熟成肉のさらなる可能性を追い求め、2016年、“スパイス”を大体的にフィーチャーした現在の業態にリニューアル。インド料理をはじめとする、既存のスパイス料理の枠には収まらない、独自のメニューを提供する人気店として君臨しています。

このJINDARI、やはり肉料理がメインではあるのですが、そんななかでも好事家たちをひときわ唸らせているのが、“カレーマフィア”の異名を取るシェフ、二関剛さんによるカレーの数々。20代のころからインド料理に携わり、国内の有名店だけでなく、本場インドでも厨房に立ってきたという二関さんが挑み続ける、現在進行系のスパイス料理とカレーライスについて、ひも解いていきます。

きっかけは家の「カレー当番」

麻布十番駅から徒歩5〜6分ほど。外苑西通り沿いの、程よく年季の入ったビルを階段で4階まで上るとJINDARIはあります。階下には会員制のワインバーがあったりと、隠れ家感のある立地です。

スパイスを使った料理といえば、カレーでおなじみのインドを中心とした周辺国や、タイやベトナムなど東南アジア諸国の料理を思い浮かべる方が多いと思います。しかし近年、フレンチや創作和食を提供するレストランでも、スパイスを多用する店が増えてきているんです。

今回ご紹介する「肉とスパイス JINDARI」は、店名からもわかるとおり肉とスパイスの融合をテーマに、インド料理の枠には収まりきらない、オリジナリティ溢れる料理を提供する人気店。この新しいスパイス料理を仕掛けるのは、国内のインド料理店だけでなく、現地のレストランでも調理を経験してきたというシェフ、二関さんです。元々はインド料理にどっぷりだった二関さんが、なぜ現在店で提供しているような、新しい形のスパイス料理を生み出すに至ったのか。その経緯から伺ってみました。

「いちばん最初は家のカレーですね。16~17歳くらいから、毎週月曜の夕飯は、自分がカレーを作る当番になっていたんです。それぐらいの年齢でも作ることができて、かつ自分も好きな食べ物っていうのが、カレーくらいしかなかったんですよね。

それから20歳くらいになって『この先の人生、なにを仕事にしようか』と考えたとき、まず頭に浮かんだのが、料理の世界に入ろう、ということで。それで、カレー屋さんでアルバイトをはじめました。家でのカレー当番が影響したのか、そのとき一番やりたいことがカレーだったんですよね。料理人ってかっこいいよな、っていうイメージもあったし(笑)。

その最初にバイトで入ったお店は、調理もフロアも全部やるところだったので、いろいろ経験させてもらいました。そのあとはインド料理のお店にも入ったし、調理の専門学校に行ったりもしましたけど、僕の基盤になっているのはMRSグループ(インド料理店「ニルヴァーナニューヨーク」や、もと同グループのタイ料理店「コカレストラン」など)での仕事ですね。ニルヴァーナは立ち上げから入っていて、一度辞めたあとに出戻りもしました。その間にインドへ何度か行っていて、現地で半年くらい調理場に入らせてもらったこともあるんですが、それでも調理の基礎という部分では、MRSにいたときに教わったことが大きいです。とはいえ、スパイスの使い方はインドにいた頃のものがベースになっていたりもするので、経験してきたことすべてが今につながっていると思います。

あと、居酒屋で働いていた時期もあって…将来的に焼き鳥屋をやりたいとも考えているんですが、それはいまやっていることと、最終的には全部つながる予定です。自分自身、焼き物が好きなので、今の店には自前のタンドールもありますし、一時期趣味で陶芸をやっていたこともあるくらい、焼くっていうことが好きなんです」

“インド料理”をやるつもりはない

シェフの二関剛さん。名刺に記された役職は「カレーマフィア」。既存の調理法を独自に再構築し、絶品のスパイス料理を日々生み出しています。

もともとJINDARIは、となりの建物にある熟成肉をメインとしたビストロ「旬熟成」の“ハナレ”として誕生しました。旬熟成と同様に、国産の熟成肉を中心にしつつも、“肉とスパイス”という、実にインパクトのあるコンセプトを考案したのは二関さんではなく、運営会社の社長。というのも、二関さんが求人情報を見かけてJINDARIのドアを叩くのは、オープンからしばらく経ってからのことで、開店当初は別の方が監修したレシピで料理を出していたそう。数々の厨房を渡り歩いてきた二関さんがJINDARIの厨房に立つことを決めたのは、意外にも“肉とスパイス”というコンセプトよりも、社長の人柄に惹かれたからだとか。

「僕は今後、いわゆる“インド料理”というものをやるつもりはないんです。インド料理はインド人のもので、僕は僕の料理をやりたい。例えば、インド料理では宗教上、多くの地域で牛肉を使わないので、それにあった調理方法が少ない。それなら、もともとある料理にそのまま牛肉を加えるのではなくて、素材に合うように調理法を調整してあげればいい。そうすることで、使える食材の幅も広がるし、いろんな角度から見ることができるじゃないですか。僕はそれをインド料理だとはうたいません。それでも、ちゃんと説明ができればいいと思っています。そういう考え方になったのも、社長の自由な考え方の影響が大きいと思いますね」

不自由な環境での経験が産んだ、自由な料理

タイル張りのカウンターが目を引く店内。基本的には4人席が3つというコンパクトさなので、昼夜ともに予約しておくほうがベター。奥のガラス戸の向こうにはVIPルームも。

焼き物が好きで、JINDARIのメニューにも多く採用している二関さんですが、そもそもインド料理の焼き物といえばタンドールを使った料理くらいで、“焼く”という調理方法自体が、インド料理では少数派。しかし、“非インド料理”を自認する二関さんの手にかかれば、ただ焼くだけではなく、インド料理ではまず使わることのない低温調理を駆使したものまであったりと、二関流スパイス料理はとにかく自由な発想にあふれています。そんなアイデアの数々は、一体どんなところから生まれてくるのでしょうか。

「たとえばお店で出している砂肝のコンフィは、低温調理じゃないといまのような、柔らかな仕上がりにはならない。保存も考えた上で、ハムを作るときみたいに塩漬けしているんですが、そういう自由な発想はニルヴァーナにいたから生まれた部分も多いです。いまのニルヴァーナの料理長はもともとフレンチの経験がある人で、自分の知らない調理法も用いて作る彼のインド料理には刺激を受けました。あわせて、いろいろな厨房に立ってきたからこその、決まった条件でやらざるを得ない環境、自分で考えざるを得ない環境のなかで培ってきた経験値の集合体が、いまの僕なんだと思います。実際、JINDARIでも出来る/使える範囲の器具や方法で、いろいろ工夫をしています。あと、タイ料理屋の厨房にいたときには、いろんな国の料理人が集まっていたので、彼らと情報やレシピを交換をする機会はとても貴重でしたね。それもあって、僕も基本的にレシピはオープンにしています」

日々の「実験」は、すべてお客さんを楽しませるため

定番のほうれん草チキンカレー(1,230円)は、一般的なサーグチキンとは一線を画す、野性的なビジュアルが食欲を刺激。二関さんこだわりのバスマティライスとともに供されます。

“肉とスパイス”をうたうJINDARIは、熟成肉やブランド鶏とスパイスのマッチングを中心に、鍋ものなども楽しめるディナーメニューこそ真骨頂ですが、ランチではカレーが大充実。つねに4~6種類ほど用意されるカレーライスは、洗練されたシンプルなカレーから、ほかではまずお目にかかれない梅を用いたバターチキンカレー、はたまた伊勢うどんにカレーを合わせたアレンジ麺なども並びます。

そんな充実メニューのなかから今回いただいたのは、ランチメニューとして提供されている「ほうれん草チキンカレー」と、ディナーの半裏メニュー的な「ビフテキカツライス」。二関さんの思い入れが詰まった前者は、一般的なインド料理のサーグチキンに改良を加え、手切りでなければ実現しないというざっくりとしたカットの食感を残したほうれん草と、大ぶりな鶏肉のワイルドなマッチングを堪能できる逸品。対照的な後者は、低温調理した熟成肉(この日はサガリ)をカツにし、そこに山椒を効かせたビンダルーソースを合わせるという、まさしく「ここでしか食べることのできないものを出す」という、JINDARIのコンセプトを具現化したような豪華な一皿になっています。好きなものをとことん突き詰めたカレーと、インド料理の枠を取り払ったカレー。インド料理とともに成長してきた先にあるその二面性も、二関さんならではおもしろさです。

「そもそも僕は料理人気質ではなくて、実験をしたいというようなタイプなんです。大前提として『いかに食材を美味く食べさせるか』というのはもちろんあるんですが、同時に、『なにをどうしたらどんな料理になるのかな?』とか、そういうことを考えているのが好きなんですよね。社長も同じタイプなので、だからこそうちの店は自由なんです。料理の発想も自由だし、接客にマニュアルもありません。社長も僕も、来てくれたお客さんが喜んでくれればいい、という考えなので、そこにいたるアプローチなんかはどんな形でもいいと思っています」

自分とスパイスの関係を見つめ直すための不定期開催イベント

前日までに要予約の半裏メニュー、ビフテキカツライス。肉の種類によって値段は変わります。低温調理した熟成肉のビフカツと、和歌山県産の葡萄山椒が香るカレーの相性は未知の世界。高級ですが、ぜひ一度は味わってみてほしい逸品です。

最終的に、お店に来てくれるお客さんに喜んでいただくことがゴール。自由で実験的な料理も、当然そこに結びついていきます。そんなJINDARIのもうひとつの特徴が、“スパイス会”や“猪会”といった不定期開催されるイベント。これらは、お客さんに対して感謝の気持ちを表すだけでなく、二関さんの料理の原点、そしてJINDARIの実験室的要素までをもひとつに紡ぐものとして作用しています。

「まず“スパイス会”は、いつも来てくれるお客さんに向けた感謝祭をやろう、ってことではじめたものですね。僕の料理の原点でもある『家族や好きな人に食べてもらいたい、ぬくもりのある料理』というのを、今の自分が作ったらどんな感じになるんだろう? というところからスタートして、インド料理と世界各国の料理の融合を着地点にしたんです。例えば、南インド料理のラッサムと牛すじの煮込みを合わせてみたり、マレーシア料理のバクテーとインド料理のビンダルーを合わせてみたりしました。当然仕込みも2倍なんで、めちゃくちゃ時間はかかりましたけどね(笑)。“猪会”はまた違って、猪の肉を軸に、それをスパイスでさまざまな料理していく、というもの。本当は今年のはじめに菜食料理だけの“ベジ会”をやりたかったんですが、野菜の価格が高騰してしまって実現できなくて。最近ようやくちょっと落ち着いたので、来月のスパイス会では、うちの会社の大もとである“和歌山”をテーマに、和歌山の食材や郷土料理と、スパイスを組み合わせたいと思っています。イベントに関してはお客様への感謝祭であることと同時に、その時々の自分がスパイスを見つめ直して、どんなことができるのかを考え直す機会というか、この会自体が自分の実験室的な感じかもしれないです」

これからも、まったく新しいものを作り出したい

猪肉を使ったキーマカレーや、梅バターチキンなど、二関さんらしさ溢れるランチメニュー。全メニュー制覇したい!

これまでの経験を十分に活かしつつ、それらにとらわれることなく新しいことにチャレンジを続ける二関さんですが、これからのJINDARIはどのように続いていくのでしょうか?

「うちの店にしかないものを出す、ということが課題であり、目標ですね。新しいものを発見したい。例えば、世の中にはあるけど日本には入ってきていない、というもの探して持ち込むことも大事だと思うんですけど、そうではない、まったく新しいものを作り出していくことを、今は一番の目標にしています。そういう意味では、うちの社長はスパイスやインド料理に対する固定観念がまったくない状態でこの店をはじめているので、そういうところからの意見はおもしろいし、ありがたいです。

僕個人としては、人生の終盤でペンションをやりたいですね(笑)。仕事は仕事で好きだからいいんですけど、ダラダラした空間も好きなので、そのゆるいところにもっていくために自分がすべきことが、最近ようやく見えてきた感じです。いままではやりたいことと仕事が一緒だったんですよ。でも、今のJINDARIでそれをやってしまうと原価も無視した趣味の範囲になってしまうので、そのバランスをとりつつ、趣味と仕事を全力でやっている感覚ですね。常に遊び心は持っていたいので」

壁にはMos Def(現Yasiin Bey)とQ-Tipの絵が飾られています。

大枠となる店のコンセプトを作った社長と、そのコンセプトを元に、おそらく社長が当初思い描いていたイメージから大幅に発展させた二関さん。ふたりの化学反応はまったく新しいタイプの店を生み出し、うるさ型のカレーマニアたちまでをも虜にしています。遊び心を大事に、日々研究を欠かさない二関さんの頭の中には、すでに新しい展開の青写真がいくつか描かれているようなので、今後もしばらくJINDARIから目が離せそうにありません。

 

Photo:Takuya Murata
Text:Osamu Hashimoto
Edit:Yugo Shiokawa

今回訪れた店

肉とスパイス JINDARI(ジンダリ)
住所:東京都港区六本木5-11-32 第三岩崎ビル 4F
電話:03-5413-4018
営業時間:
[ランチ]11:30~14:30(L.O.14:00)
[ディナー]17:00~25:00(L.O.24:00)
定休日:なし
https://www.instagram.com/jindari29sp/
https://www.facebook.com/jindari29sp/

筆者プロフィール

橋本修(はしもと おさむ)

スパイスディーラーとしてストリートで名を馳せ、2017年からはカレーに特化した食ライターとしての活動を開始。ライムスター宇多丸氏がパーソナリティを務めるTBSラジオの人気番組「アフター6ジャンクション」のカレー特集にも出演し、電波の上でも日本のカレー事情をスムースにオペレートした。DJ、音楽ライターとしても活躍中。(イラスト:@animamundi_)

 



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