ジェントルマン道を極めるドクトル赤峰とファッション界のレジェンドたちが、イマドキファッションの風潮やヤワな着こなし、ガッカリスタイルなどをスパッと一刀両断! 男として、あるいは女として、「清く、正しく、美しく」生きるために必要な服装術や、服を着ることの意味・意義をストレートに語り尽くします。
今回のゲスト『ユニオンワークス』創業者で代表の中川一康さんと靴の話をして思い出したのは、18歳頃に観た映画『第三の男』。オーソン・ウェルズが履いているメダリオン付きのレースアップの靴が夜の灯りを受けて光るシーンがあって、今でもすごく印象に残っています。オープンして15年になるという青山店で、中川さんと靴談義の続きを……(前編はこちらから)。
共に20代後半に起業。若いときの苦労は買ってでもしろ
赤峰 中川さんはどうしてシューリペアの仕事を始めたんですか。
中川 大学を卒業してファッションデザイナーに憧れてアパレル会社に就職したのですが、働いてみて「自分は無理だな」と。
赤峰 限界を感じたのはどうして?
中川 端的に言ってしまうと、「6畳一間の風呂なしアパートで10万円のドレスのデザインは描けない」と思ったからです。それで、しばらくいろんなアルバイトをして、26歳のときに靴の修理屋に勤めました。自暴自棄的に(笑)。靴の修理を始めたら面白かったんです。商店街によくあるタイプの靴の修理屋なんですが、100足に1足ぐらい「チャーチ」とかグッドイヤーウエルト製法の靴の修理があったんです。今ほど靴の情報もなかったので、靴底を剥がすと本当にコルクが入っていたり、構造がすごく面白かった。それで靴の修理と本気で向き合いたいと思い、29歳で独立しました。
赤峰 自分もブランド『WAY OUT(ウェイアウト)』を始めたのは28歳でした。自由が丘の2DKのアパートからのスタートで、経理も営業も雑用も全部一人でやった。若いときにあれを経験してきたのは強いと思う。中川さんも若い頃に苦労してよかったですよ。6畳一間からの起業はきっと中川さんの武器になっている。
齢74歳にして、「いまだ道半ば」というジェントルマン道
赤峰 中川さんが今日着ているスーツは「batak(バタク)」ですか。
中川 はい、そうです。モデリストの中寺(広吉)さんとは赤峰さんも含めて懇意にさせていただいています。もう知り合って10年以上になりますね。
赤峰 中川さんは自分の中に芯が通っているサムライ的なところがあって、柔道というより1本を取る剣道タイプの男性だと思っています。
中川 ありがとうございます。赤峰さんは今日もアイリッシュリネンのスーツをしっくり着こなしていて、とにかくカッコイイ、後輩から見て素敵な先輩です。ご本人を前にして言うのもおこがましいですが、自分とは“年季”が違いますね。
赤峰 いやいや、今74歳ですが、「まだ年季が入ってないな」と思いますよ。自分が若かった頃、伊丹十三や古波蔵保好(こはぐらほこう)なんかを見て、「格好良いとはこういうことか、早くジジイになりたい」と思っていたけど、まだ道半ばですよ。
中川 若い子がこのアイリッシュリネンを着ていたら生意気ですが、やっぱり年齢に応じたスタイルはあると思います。
赤峰 中川さんは今日もタブカラーシャツを着ているように、スタイルに性格が出ていますよね。英国のジェントルマンスタイルが軸にあって、その解釈が靴にもあらわれている。
心に思っていることが着こなしにも必ず出るから要注意
中川 自分は接客業で、お客様より派手な格好や だらしない着こなしはできないので、基本にアンダーステイト(控えめであること)があります。30代はチャコールグレーや紺のスーツに、黒の内羽根オックスフォードの靴しか履きませんでした。45歳を過ぎて、スリッポンや茶色の靴を履き始めましたが、30代では考えられなかったですね。
赤峰 自分も起業した頃は、「フォックスブラザーズ」のフランネルのスーツに、「フローシャイム」のインペリアルの靴というクラシックでしたよ。
中川 ネクタイも黒のニットタイが一番好きですが、今日は「赤峰さんは色物のネクタイで来るだろうな」と予測して、自分も赤のネクタイにしました(笑)。若い頃はとにかく「目立っちゃいけない」と一歩引いているスタイルが好きでしたね。
赤峰 アンダーステイトメントは男にとってとても大事な心持ちで、たとえば「女にモテたい」とか邪気が入ると、心に思っていることが着こなしに必ず出てくる。スタイルとは着ているものというより、心の持ち方なんだよね。
中川 この仕事を始めたとき、『オールドイングランド』で「エドワード・グリーン」の靴を背伸びして履いていました。とにかく最高峰を履いて仕事をするという気持ちでしたね。
赤峰 そういう話を聞くと、男にとって靴は良い趣味ですよね。
中川 はい、本当にそう思います。赤峰さんはよく「スーツは10年、15年着込んでいかないと自分の身体に馴染んでいかない」と言われますが、靴も一緒です。履かないときはシューキーパーを入れる、連続で履かない、雨の日に履いたらケアするなどのいくつかのルールを守れば、20~30年は履けるものです。良い素材で良い作りの靴は、無理して買っても絶対に後悔しないはず。
赤峰 自分の足に靴が馴染んでくると「乗りこなした」満足感がある。もちろん長く持つものは「素材と作り」が良いんだけど、洋服も靴も「手間とヒマをかけて作られたものは良い」。値段はするけど、着ること、履くこと、そして食べることみんな同じです。
クルマ5台、女性5人よりも、靴5足を育てるのが楽しい
赤峰 中川さんが思う「靴の魅力」を教えてください。
中川 一番の魅力は「経年変化」ですね。いわゆるデザイナーブランドやラグジュアリーブランドの靴は「買ったときが一番カッコイイ」ですが、クラシックな靴はそうじゃないと僕は信じています。良い靴は買ったときより、自分の手元で5年、10年して格好良くなる。自分と共に人生を歩んでいけます。
赤峰 なるほど。わかりやすい例えですね。何足持っていれば十分ですか。
中川 靴はローテーションして履くものなので、最低5足ですね。基本の5足は、全部黒で、キャップトゥ、パンチドキャップ、セミブローグ、フルブローグ、プレーントゥと、それぞれのシューキーパーがあれば「一生仕事ができる」と思っています。でも、それでは人生が面白くないので、茶色やブーツ、スリッポンも履いてください。
赤峰 黒の短靴が基本で、あとは余力・余裕・余生みたいなものだ。
中川 クルマは5台も持てないし、女性5人とは付き合えませんが、靴5足とは付き合っていけます。結局、育っていくのが一番楽しいんですよ。
赤峰 いや、今日はいい話を聞けました。どうもありがとう。
中川 ところで、スーツは何着あればいいですか。
赤峰 スーツは10着かな。シャツは30枚は必要だね。では最後に、中川さんのお薦めの靴を一足。
中川 『ユニオンワークス』で靴の販売を始めたのは2009年からですが、「我々が見て最高峰を扱いたい」と白羽の矢を立てたのは、「ガジアーノ&ガーリング」です。このモデルは僕とスタッフが英国・ノーザンプトンへ行って、既存のデザインを組み合わせて別注したオリジナルで、イミテーションのシューレースや、サイドガゼット(ゴム)で履けるなど、試行錯誤して作った自信作です。
『UNION WORKS AOYAMA』
東京都渋谷区神宮前3-38-11 パズル青山1階
03-5414-1014
営業:12:00~20:00
定休:水曜日
http://www.union-works.co.jp/
【information】「シチリア映画を食べる 」イベント開催!
赤峰幸生プロデュースのイタリア文化発信企画第3回「シチリア映画を食べる」が、広尾のリストランテ「ラ・ビスボッチャ」にて8月5日(日)に開催決定。スペシャルコースによる夏のディナーイベントは、数々の映画に登場するイタリアのマリンリゾート、シチリアをイメージして海鮮料理をコースに。ディナーを通じてバカンス気分をお楽しみください。
日時:2018年8月5日(日)18時スタート
場所:リストランテ「ラ・ビスボッチャ」
コース:お料理全10品
料金:お一人 1万2,000円(税込)
小学生 7,000円(税込)
ドレスコード:白を基調にした服装でお越しください。
予約・お問い合わせ
TEL:03-3449-1470
E-mail:info@labisboccia.tokyo
(担当:下田、中島)
「ドクトル質問箱」では、赤峰さんへの質問をお待ちしています。こちら「forzastyle@kodansha.co.jp」まで質問をお送りください。
ジャパン・ジャントルマンズ・ラウンジ
http://j-gentlemanslounge.com
Photo:Riki Kashiwabara
Writer:Makoto Kajii