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FASHION 赤峰塾!間違いだらけの洋服選び

ドクトル赤峰と“サルトリアを知り尽くした女”のテーラリング談義

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ジェントルマン道を極めるドクトル赤峰とファッション界のレジェンドたちが、イマドキファッションの風潮やヤワな着こなし、ガッカリスタイルなどをスパッと一刀両断! 男として、あるいは女として、「清く、正しく、美しく」生きるために必要な服装術や、服を着ることの意味・意義をストレートに語り尽くします。

ジェントルマン道を極めるドクトル赤峰とファッション界のレジェンドたちが、イマドキファッションの風潮やヤワな着こなし、ガッカリスタイルなどをスパッと一刀両断! 男として、あるいは女として、「清く、正しく、美しく」生きるために必要な服装術や、服を着ることの意味・意義をストレートに語り尽くします。

今回のゲストは、イギリスを中心にヨーロッパの魅力をメンズファッションや文化の視点から考察するジャーナリストの長谷川喜美さんです。長谷川さんは、『サヴィル・ロウ』(万来舎刊)、『ビスポーク・スタイル』という大判のヴィジュアルブックを出版され、今年3月にその第3弾となる『サルトリア・イタリアーナ』を出されました。ドクトル赤峰の本拠地である梶が谷「めだか荘」で、英・伊のテーラリングの話に、白熱教室!

ハリー王子の結婚式から知る、ロイヤルワラントのシステム

赤峰 ご無沙汰しています。「めだか荘」にようこそ。初めていらっしゃいましたね。

長谷川 お招きありがとうございます。赤峰さんとは知り合って10年ほどになりますよね。赤峰さんのすごいところは、イタリア語が堪能なので、イタリアではもちろん、パーティなどでも皆さんと直接お話しされます。それをずっと継続されていて、ご自身の体験を通して知識を得ていらっしゃるので説得力があり、教養の深度になっていると思います。

赤峰 ありがとうございます。私は22歳のときに、貧乏旅行でしたが初めてヨーロッパへ1ヵ月半行きました。当時日本は“アメリカ=トラッド”の時代で、それからアメリカにもよく行きましたが、「これは良いな」と思うものは ほぼ英国製でした。アメリカで「ルーツはイギリスだ」ということに気づかされて、それから英国詣でが始まったわけです。

長谷川 先月のハリー王子と女優のメーガン・マークルさんの結婚式はご覧になりましたか。

赤峰 もちろん見ましたが、長谷川さんはどのような感想を持たれましたか。

長谷川 意外だったのは、ハリー王子の軍服が「ギーブス&ホークス」が作ったと思っている方が多いと聞いたことですね。あれは同じサヴィル・ロウのテーラー「ディージ&スキナー」製なんです。双方ともロイヤルワラント(英国王室御用達)を持っていますが、このシステムは面白くて、同じ海軍の軍服でもエジンバラ公は「ギーブス&ホークス」、チャールズ皇太子は「ウェルシュ&ジェフリーズ」がコントラクト(契約)を持っています。世界最大の王室なので発注する製品数が膨大ですから、受注先も細分化されているんですね。

赤峰 日本ではウェディングドレスの話ばかりでしたから(笑)、そういうお話を聞けてうれしいです。

長谷川 英国の経済効果を考えるとドレスの話の方がいいと思います(笑)。別の意味で すごいと思ったのが、結婚式は英国政府の行事ではないので、政治家は自国の首相さえも呼ばれないんですよね。日本は皇室と宮内庁と政府が全部繋がっていますが、英国王室との違いを感じました。

「サヴィル・ロウ」という特別な場所からイタリアへ

赤峰 長谷川さんは どうしてジャーナリストになられたんですか。

長谷川 イギリスで長く輸入の仕事をしていたこと、クルマやウィスキー、戦争史など、男性が好むようなものが好きで、周囲の友人たちからサヴィル・ロウとかいろいろな場所を紹介してもらったことからですね。「サヴィル・ロウは敷居が高くて行っている人が少ないので、取材して書いたら面白い」と言われて興味を持ちました。日本人にも縁が遠いサヴィル・ロウですが、トップテーラーは、ビスポークで5500ポンド(約80万円)からとか、まず価格が違います。それに対して、イタリアのサルトリアは様々なスタイルと価格があります。

赤峰 確かにおっしゃるとおりです。3月に出された3冊目のテーマをイタリアのサルトリアにした理由は?

長谷川 メンズウェアではイギリスとイタリアが2大潮流なので、前から「イタリア版を作りたい」とは思っていました。この本は「ヴィターレ・バルベリス・カノニコ」というイタリアの服地メーカーのスポンサードを受けているのですが、この会社に「サヴィル・ロウのイタリア版を作りたい」とプレゼンしたところ、「前2冊と同じクオリティで作れるなら」と承諾をもらって、イタリアの北から南まで全部で27テーラーを取材しました。

赤峰 イタリアは日本と同じで南北に長くて、寄せ集めの共和国なので、地域によってかなり特徴が違いますよね。

長谷川 サヴィル・ロウのテーラーはひとつのハウスからの派生形ですが、イタリアはエリアによって人種まで違う感じですね。

赤峰 『サルトリア・イタリアーナ』の中で、シチリアのサルトリア「サルトリア・クリーミ」が紹介されていますが、私が持っているスーツをお見せしましょう。

6ボタン下1つ掛けで、ちょっと崩して着るのがカッコイイ

長谷川 このクリーミのスーツはいつ仕立てられたのですか。

赤峰 8年ぐらい前にピッティ・ウオモの会場で、親父のカルメロが「あなたの服を作らせてくれ」と声をかけてきました。カルメロは南イタリアならではのひょうきんで心豊かな人で、それで仲良くなりました。

長谷川 父親のカリメロと息子のマウロは、よくある南イタリアのイメージとは違い(笑)、クリーミは本当に真面目ですね。イタリアではファミリー企業が多く、2代目、3代目を甘やかしがちと聞きますが、マウロは父親のカリメロの後をしっかり継いでいるんですよ。

赤峰 よく見ると、縫い代の取り方などがリヴェラーノとはまったく違いますね。

長谷川 仕立ても違いますし、手縫いを強調したステッチとか、つくりこんだ肩周りとか、すごく攻めていますよね。すごいですね。

赤峰 こういうスーツはヴィットリオ・デシーカ(映画監督)のように、6ボタン下1つ掛けという60年代ぐらいの南イタリアの着方が似合います。ちょっと崩す方がカッコイイ。昔のピッティにはこういう感じの「すごいな」という人がいたけど、今はね……。

クリーミの次は、リヴェラーノ。しかも兄貴のルイジ作!

赤峰 長谷川さんはサヴィル・ロウではどこのテーラーがお好きですか。

長谷川 メンズは自分では着られないのでお気に入りを言うのは難しいのですが、ハウスの成り立ちという意味では、「アンダーソン&シェパード」と「ヘンリープール」は素晴らしいと思うし、「ギーブス&ホークス」も面白い存在だと思います。「エドワード・セクストン」ではメイドトゥメジャーでスーツを作りましたが、彼の作品を着ている感じでしたね。

赤峰 あぁ、その表現はよくわかります。

長谷川 ビスポークは、そのテーラーの個性を表した「いかにも特徴的なものを着るのが好き」なのか、それとも「自分に馴染んでいるものが好き」なのかは完全にその人の好みですね。

赤峰 アントニオ・リヴェラーノは30数年の付き合いがある大親友ですが、兄貴のルイジ・リヴェラーノが作ったスーツを見てください。

長谷川 ぱっと見ですが、リヴェラーノじゃないみたいですね。

赤峰 弟のアントニオはもう80歳を過ぎていますが、頭が柔らかくて、たとえばアメリカのトラッドの要素なども巧みに取り入れながら仕立てます。アントニオとは昔一緒に英国を回ったことがあって、英国から学びながらもサヴィル・ロウとは大きく違う。

長谷川 それはよくわかります。兄弟でも作る服は本当に違うんですね。

赤峰 「リヴェラーノ」というとサルトリアとしてのスタイルを語りがちですが、僕にとっては「この馬をどう乗りこなすか」というような感じなんですよ。

長谷川 その表現は赤峰さんならでは。ビスポークとはどういうものかを語ってらっしゃいますね。


長谷川喜美(ジャーナリスト)
日本ではメンズプレシャス(小学館)、The Rake Japan(ザ・レイク・ジャパン)、Men’s Ex (世界文化社)、GQ JAPAN(コンデナスト・ジャパン)などに執筆。『サヴィル・ロウ』、『ビスポーク・スタイル』に続くヴィジュアルブック3作目となる『サルトリア・イタリアーナ』を今年3月に上梓。今作はイタリアのスーツが生まれる現場を徹底取材し、A. カラチェニ、リヴェラーノ&リヴェラーノ、ルビナッチをはじめとする名門から、メンズスタイルに旋風を巻き起こす若きサルト、家族経営の小さなサルトリアまで、イタリアン・テーラリングを支える新旧の名店27店を紹介。イタリアン・スタイルの現在と未来が見えてくる。
『Gentlemen's Style』
http://yoshimihasegawa.tumblr.com/


―「ドクトル質問箱」では、赤峰さんへの質問をお待ちしています。こちら「forzastyle@kodansha.co.jp」まで質問をお送りください。


ジャパン・ジャントルマンズ・ラウンジ
http://j-gentlemanslounge.com

Photo:Shimpei Suzuki
Writer:Makoto Kajii



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