ラルフローレンのアメリカ製シャツを手掛けていたアイクベーハー
人生には、どうしても手放せなかった服、そう「捨てなかった服」があります。そんな服にこそ、真の価値を見出せるものではないでしょうか。そこで、この連載では、ファッション業界の先人たちが、人生に於いて「捨てなかった服」を紹介。その人なりのこだわりや良いものを詳らかにし、スタイルのある人物のファッション観に迫ることにします。成毛賢次さんに続いて登場するのは、ビームスのクリエイティブディレクター、中村達也さん。
中村さんが膨大な数を所有してきた中でも捨てられなかった服をご紹介する企画の第3回目は、「アイクベーハー(IKE BEHAR)」のシャツです。
このシャツは、僕がビームスFのバイイングを始めた頃に買いました。今でこそビームスFはイタリアモノが主流ですが、当時はアメリカモノ、フランスモノ、イギリスモノを展開していて、イタリアモノはほとんどない時代でした。
80年代、アメリカのトラディショナルが進化して、アイビー以外にもラルフローレンのようなアメリカン・ブリティッシュなスタイルが確立され、"英国"っていうキーワードが出始めていたんです。まだまだアメリカのトラディショナルっていうのが残っていた時代で、当時トロイだったりギットマンブラザーズだったりアメリカのブランドを買い付けていたんですが、その中でもアイクベーハーっていうのはビームスにとって特別なブランドでした。
当時、ラルフローレンは洋服屋にとってもステイタスのあるブランドだったんですが、80年代中頃から90年代にアメリカ生産から生産国を変えていく時期でした。それで、MADE IN USAのアイテムが少なくなっていった中で、ラルフローレンのアメリカ製アイテムを作っていたことを謳うブランドっていうのが たくさん現れたんです。その代表がアイクベーハー。
すでにラルフローレンのシャツはアメリカ製以外の生産になっていた時代に、アメリカ製のシャツを作っていたのはアイクベーハーだと知って、ビームスもお客さんも「それならシャツはアイクベーハーでしょ」という空気が流れて、アイクベーハーもステイタスのあるブランドになったという背景があるんですね。
ブレザーの下にタブカラーのシャツを着るのはイギリスのブランドなんかが提案していたんですが、アメリカのシャンブレーでタブカラーのシャツっていうのをラルフローレンも展開していましたし、アメリカン ブリティッシュな印象が強かったんですね。
当時イギリスのシャツだとシャンブレーはない時代だったので、アメリカ的なブリティッシュのイメージで、このタブカラーシャツをバイイングしたっていうのが記憶に残っています。
そして、一番人気があったのがボタンダウンシャツ。夏になるとさまざまなカラーを組み合わせたマドラスチェックがブルックスブラザーズやラルフローレンなどからもリリースされて、いろいろなシャツをバイイングし、自らも購入しましたが、このイエローとネイビーとピンクのマドラスは今でも着られるかなっていうくらい気に入ってる色使いで、いまだに捨てられません。
他にもたくさん買っているんですが、アイクベーハーで残っているのは、この2枚。中でもシャンブレーのタブカラーっていうのはイメージが色濃く残っているので、いまイタリアのブランドに作って貰ったりしてます。
襟も色褪せてしまって今後着ることはないとは思いますが、これは僕の洋服屋としてのアーカイブ。ずっとトラディショナルなモノを扱ってきた、僕の仕事の中でのアーカイブなので、ずっと手放すことはないですね。
Photo:Naoto Otsubo
Edit:Ryutaro Yanaka
ビームスクリエイティブディレクター
大学在学中よりBEAMSでアルバイトをし、卒業後ショップ勤務、店長、バイヤーを経て現在はクリエイティブディレクターとしてドレス部門を統括。メンズのドレスクロージングに関するセレクトや論理的な解説が持ち味で、媒体での連載や自身のブログ”ELEMENTS of STYLE”は絶大な人気を博している。