ジェントルマン道を極めるドクトル赤峰とファッション界のレジェンドたちが、イマドキファッションの風潮やヤワな着こなし、ガッカリスタイルなどをスパッと一刀両断! 男として、あるいは女として、「清く、正しく、美しく」生きるために必要な服装術や、服を着ることの意味・意義をストレートに語り尽くします。
前回から引き続き、信濃屋 顧問の白井俊夫さんにご登場いただきます。白井さんが着ているスリーピースは2001年にミラノのサルト、カラチェニで仕立てたもので、赤峰さんはコットンスーツで春の装い。「我々が着ているものは、今年作ろうが、20年前だろうが同じですよ。10年ほど着て、やっと味が出てきたかなという感じ」(赤峰)。“普段着”の2人の洋服談義をどうぞ。
洋服も、味が馴染まないと美味しくならない
――赤峰さん、3月から朝日新聞の夕刊で新連載が始まりましたね。
赤峰 読んでくれましたか。ありがとう。
白井 赤峰さんが服飾にまつわるタイムリーなトピックを取り上げるのは、今の時代に必要ですよ。
――白井さんが今日着ていらっしゃるのはどこのスーツですか。
白井 これですか。普段着ですよ。ミラノのカラチェニで、「ダブルブレストのスリーピース」と言っただけでできたスーツです。他には何一つ言わなかった。親父さんに「茶色のグレンチェックで良い生地ない?」と聞いて決めた生地だけど、テーラーはしっかりした生地を持っていていいね。
赤峰 我々が着ているものは、今年作ろうが、20年前だろうが同じですよ。10年ほど着て、やっと味が出てきたかなという感じ。白井さんの着こなしは、靴、靴下、ネクタイと、スーツから上手に色を拾って、スタイリングのお手本そのもの。でも、我々にとっては普通のことですよ。だから普段着。
白井 普段着だよね。
赤峰 特段「決めよう」というのもないし、我々は自分の暮らしに役に立つ服しか持っていないからね。だから、着ない服を売るとか、人にあげるとかもない。人にあげるモノなら最初から着ないからね。
白井 僕は服を人にあげたいんだけど、足が短いからスーツはダメだ(笑)。
赤峰 なんで長く着るかというと、料理と同じで「味が馴染まないと美味しくならない」から。おでんの大根や、一晩寝かしたカレーと同じ。
白井 昔は、「よそ行き」とか「一張羅」とか言ったけど、今は誰も言わなくなったね。今日、赤峰さんが着ているコットンスーツも実は着る時期が難しい。真夏はダメだし、それも着て経験しないとわからない。
信濃屋を通ってきた人と、通ったことがない人は全然違います
――信濃屋はどんなお客さんが多いのですか。
赤峰 僕が知っているのは、普通の方ですが、暮らし向きが上品な人が多い。会社員はもちろん、医者や弁護士など自営業の人や、「何代も信濃屋」という人も多い。先々代の社長が女性物のオートクチュールをやっていたから、女優さんも愛用されていた。信濃屋は、服が好きな人の“通り道”なんですよ。
白井 家族で信濃屋というのも多いですよ。大船に撮影所があったから、昭和時代の有名な女優さんはオートクチュールをよく着ていた。
――赤峰さん、信濃屋の今の品揃えはどうですか。
赤峰 欲しい物だらけですよ。タッターソールのシャツや開襟シャツ、ジョンスメドレーのニットなどが普通に置いてあるのがいい。信濃屋はね、明治から続いている「楷書の洋服屋」なんですよ。「草書体」のような“ファッション”はないの。
――草書体のような“崩し”はないということですか。
赤峰 そう。小学校で楷書体を習うように、信濃屋の服を身につけて覚えるわけ。これも作法の一つなんですよ。信濃屋の物はどれをとっても基準がぶれているものはない。
白井 楷書であって、「甲斐性がない」んじゃないんだよ(笑)。
赤峰 お客さんはしっかり見ているからね。時代と共にあるけど、変えないことのすごさと、時代に合わせる柔軟さもすべて楷書体。ダンディに着るなら信濃屋を通っていかないとわからない。「信濃屋を通ってきた人と、信濃屋を通ったことがない人」は全然違います。
――品揃えはどういうところがすごいんですか。
赤峰 百貨店やセレクトショップにも同じブランドはありますよ。でも信濃屋はジャケットとシャツ、シャツとニット、小物まで、すべてのアイテムがスタイルとしてぴったり合致する。無駄、無理になるものがない。
白井 「セレクトショップ」って誰が言い出したんだろうね。本当はスペシャリティストアなのにね。セレクトって言葉も安っぽくなったね。
赤峰 洋服屋で“老舗”といって許されるのは信濃屋だけですよ。
間違いだらけの服選びと着こなしに、喝!
――白井さん、最近のサラリーマンの格好はどうですか。
白井 ノーグッド。みんな画一的な格好だし、没個性的だよね。もうちょっと工夫したほうがいい。今の日本人は小さいころから着ることを教育されていないから、よくわからないんだよ。
赤峰 「服育」を受けていないから、大学を出て企業に入って、まわりを見渡して、「同じものでいいだろう」となってしまう。
白井 赤峰さんは、お父さんとお母さんとどちらから影響をうけましたか。
赤峰 自分は母ですね。
白井 僕もそう。母は洋服が好きで、ドレメを出ていて、自分のズボンなどを縫ってくれていた。オフクロにはうるさく言われましたよ。
赤峰 うちの母も、自分が小学校に入るとき、父親のコートをサイズ直しして入学式に着ていきました。あとは、着なくなったセーターをほどいて、毛糸の海パンを作ってくれた。
白井 毛糸の海パンはいいね。
赤峰 シェットランドみたいな糸だから、水を含むと重いんですよ(笑)。
白井 水泳のとき、僕は赤ふんだったもの。父親は食べるものには贅沢だったけど、着るものは人並みだった。
赤峰 親や叔父などから影響は受けますね。人は10歳で人格がほぼ決まると言われていて、それから勉強すれば知識は豊富になるけど、人格はほぼほぼ変わらない。
白井 今テレビに出ているタレントはスタイリストが付いていますか。
赤峰 ほぼ付いていると思いますよ。でも変な格好した天気予報士が出てくると、着ている服を見て憤慨してしまって、肝心の天気が耳に入ってこない(笑)。
白井 テレビに出ている人の服装は昔に比べると随分マシにはなっているけど、スタイリストっていうのはだいたい田舎から出てきた人でしょ、そんな匂いがするけど。タレントもできるだけ自分で着るのも大事なことですよ。
赤峰 白井さん、お身体に気をつけて、いつまでもお元気で。
信濃屋 馬車道店
横浜市中区太田町4-50
045-212-4708
営業:11:00~19:00
月曜定休
http://www.y-shinanoya.co.jp/
ジャパン・ジャントルマンズ・ラウンジ
http://j-gentlemanslounge.com
Photo:Shimpei Suzuki
Writer:Makoto Kajii