FOOD ― いま食べるべき“カレーライス”

【ルーツは大阪の"間借りカレー"】一旦閉店する前に、この“カレーライス”を味わって!

2018.3.12 2018.3.12
2018.3.12

第2回は恵比寿「あしたの箱」

現地完全再現の本格インドカレーからご当地カレーまで、百花繚乱な日本のカレー事情。そんな中から、いまも進化を続ける日本独自のカレーを「カレーライス」と定義し、個性溢れる「今食べるべきひと皿」とその作り手を、気鋭のカレーライター 橋本修さんが追いかけていきます。

今回橋本さんが訪れたのは、恵比寿「あしたの箱」。雑居ビルの最深部にあるバーで、平日のランチタイムだけカレーを提供するという、いわゆる“間借りカレー”店です。2016年春のオープン以来、リピーター続出の人気店となった「あしたの箱」ですが、2018年3月15日(木)をもって一旦閉店し、転機を迎えるそう。

あと数日しか食べられない絶品カレーライス。その全貌と、“あしたの箱のあした”に迫ります。

店主もカレーも、ルーツは大阪
JR恵比寿駅東口からすぐの雑居ビル1階最深部に、平日昼のみオープンする

今やテレビなどでも耳にするようになった"間借りカレー"。大阪からはじまったその文化が東京でも見聞きされるようになった2016年春に、恵比寿に開店したのが「あしたの箱」です。偶然にも店主の松平さんは大阪出身で、そのカレーのルーツは大阪のとある名店にあります。

「学生時代にアルバイト先を探していたときに、通っていた大学の通学途中でカレーのいいにおいがしてきて、ふと見るとそのお店のドアにたまたまバイト募集の紙が貼ってあったんですよ。インド好きやし、お店に入ってマスターに『バイトしたいんです』って言ったら、『カレー好き?』って聞かれて。そのときはそれほどでも好きだったわけでもなかったんですけど(笑)、『好きです!』って答えたら、その場で採用されて」

10年もの長旅を経て完成したオリジナルレシピ
廊下を進んだ突き当りにある、この扉が目印

偶然出会ったアルバイト先のカレーに惚れ込み、人生をカレーの道へとシフトさせた松平さんですが、そこから“自分のカレー”に辿り着くまでには、 じつに10年という長い道のりがあったそう。

「バイトしていたころから、カレー屋をやりたいと思うようになったんですけど、店では仕込みを手伝うくらいだったし、調理はマスターがすべて自分でやっていたということもあって、何が入っているのかとか、レシピについては全然知らなかったんです。教えてもらおうとしたんですけど、『ごめんなぁ。それは教えられへんから、自分のカレーを探してみぃ』って言われて。

そこから試行錯誤をはじめて…自分のカレーにたどり着いたのは10年後くらいですね。と言っても、10年ずっと作っていたわけではないんです。真似をしようと思ってやっていけばやっていくほど、全然美味しいと思えないカレーになってしまって、一回作るのをやめたんです。どんだけやってもダメで、挫折したんですね。もう嫌になっちゃって。

でも、それから1年くらい経ったとき、家でチキンの煮込みを作っていたら、それがすごく美味しかったんです。このチキンは美味しいよな、これ絶対美味しいから、これをメインで考えてカレーを作ったら絶対美味しくなるな、って。そこからですね。タンダーパニーのカレーは忘れて、自分のオリジナルでいこうと、また作り出して。それから2年くらいでわりと満足いくカレーができました」

“縁”を生み出す信念と行動力
店主の松平さん(左)と、スタッフの正美さん(右)。ふたりの美女が絶品カレーに華を添える

長い長い“自分のカレー探し”の旅を経た松平さんですが、そこからあしたの箱のオープンまでは、松平さん流のプロモーション活動の甲斐もあって、さまざまな縁に恵まれトントン拍子で進んでいったそう。店を一層華やかにしてくれるスタッフ、正美さんともそんなご縁で知り合ったんだとか。

「大阪から東京にきて、仕事もして、でも、ずっとカレーは作っていたんです。家に人にを呼んで食べさせたり、"満月カレー"って公園なんかで満月の日に人を集めてカレーを出したり。そこで正美さんをナンパしたり(笑)。そういう場でみんなに『カレー屋やるねん』って言いふらしてたんです。

そうこうしているうちに、夜営業だけのバーから、昼にお店をやってくれる人を探している、と人づてに声がかかったので『じゃあ、やりましょうか』って。その話がなくても、どこかでお店はやっていたと思うんですけど、急に決まったのは、そんなご縁があったからですね。だから、言いふらしておいてよかったなって思ってます(笑)」

オープン以来、カレーは1種類のみ

あしたの箱で提供されるカレーは、チキンカレー1種類のみ。"満月カレー"の名残を感じさせる、まんまるなビジュアルの、究極にシンプルなチキンカレーだけです。サイドメニューもなく、付け合せにはたまねぎのスライスと酢漬けが用意されるのですが、これも松平さんがバイト先で出会ったスタイルを発展させたもの。鶏の手羽元を使ったシャバシャバなカレーは、ビジュアルこそ独創的ですが、どこかホッとさせられる、日本米によく合うカレーです。

「お店で出せる、と思えるカレーが1種類しかなかったっていうのもあるんですが、店のキャパシティ的にもあれこれできる余裕がなくて、必然的にこうなりました。最初はサラダも出そうかという話をしていたんですけど、やってみたらなんだかイマイチで。カレーと写真を撮ってみても、なんか邪魔な感じがしちゃったんですよね。それでサラダはやめて、カレーとチャイとたまねぎだけになったんです

ビジュアルも偶然なんですよ。最初は(お米を)ぺったんこにしていたんですけど、うちのカレーはサラサラなんで、ごはんが水没して見た目も汚くなっちゃうんです。それで、ごはんの救済措置として盛り付け用の型を探しにいったんですけど、ケーキ用のものがちょうどしっくりきて」

チャイに込められた思い
こじんまりとした店内は、バーの間借り営業ということもあり、カウンター席がメイン

理想とするカレーの再現は道半ばで潰えながら、ふとしたきっかけでたどり着いた自分だけのカレー。インスピレーション元の要素を感じさせつつも、きちんとオリジナルな味に仕上がっているという、ひとつの理想形とも言えるものです。そしてそのカレーには、大阪で生まれ、大阪の老舗でカレーに開眼した、松平さんらしい思いも込められています。

「コンセプト…っていうほどのものじゃないですけど、みんなに癒やされていって欲しいっていうのはありました。身体にいいもの、食べたあとに罪悪感を感じないものを出したかった。真面目に作りたかったんですね。美味しいけどめっちゃ高いとか、高いのに美味しくないっていうのは絶対に嫌なので、あまり高くならないようにしつつ、素材はちゃんとしたものを使いたいと思って。…と言いつつ、いざやってみたらすごく難しくて、本当は800円くらいにしたかったんですけど、今の値段(レギュラーサイズで950円)になってしまいました。

だから、チャイは本当にサービスのつもりで、小さいサイズですけど、50円。ちょっとカレーの値段が高くなってしまってごめんね、っていうつもりのチャイなんです。カレーを食べて、ちょっと一息ついてから帰ってほしくて。お客さんが並んでいたりするので、あんまりゆっくりはしづらい店だと思うんですけど、チャイがあったらちょっとくらい座っていけるでしょ?っていう、"優しさチャイ"です。カレーだけだと味気ないですし。店として効率だけ考えたら、ない方がいいとは思うんですけど」

そして、新天地へ
現在の店にひと区切りつけ、松平さんは新たな道を進む

カレーを食べ終え会計を済ませると、必ずおふたりから「いってらっしゃい」と送り出されます。最高なカレーはもちろん、そんな心地よいもてなしが忘れられず、メニューがひとつしかないにも関わらずリピーターが続出するあしたの箱ですが、残念なことに、まもなくお店を一旦閉めてしまうそう。

「東京で、2年間ですけど、とてもいい形でやらせてもらって。すごくよかったな、って思っているんですけど、本当に忙しかったんですね。ずっとお客さんが途切れず来てくれて、ありがたい話なんですけどね(笑)。オープン前も仕込みでバタバタして、オープン中もずっとバタバタして、終わってからも片づけや翌日の仕込みでバタバタ、家に帰ってからもバタバタして、2年間ずっとバタバタしていました。並んで待ってくれるお客さんが増えれば増えるほど、ゆっくり食べていってもらえなくなったりもして、自分がやりたかったことと、だんだんズレてきちゃったなと感じていていて。カレーを作ることがちょっと嫌になりかけたこともあるし、自分がマシーンみたいになってるな、って思ったこともありました。

そんな中で、どうしたらいいのかを考えた結果が、お金を稼がなくてもいいようにしたらいいんじゃないかな、ということ(笑)。家賃を払ったりするためには、やっぱりお金を稼がないといけないから、回転数を上げなきゃとか、忙しくなってしまう。でも、お金を使わないようにすれば、一生懸命稼がなくてもよくなるじゃないですか。でも、それを東京でやるのは難しいので、どこかに移るしかないなと。他にもいろんな原因はあるんですけど、ここで2年間やって、そういうふうに考えられるようになったところで、ちょうどご縁のある土地に行くことになりました。

そこでは、その土地だからこそ出来ることがやれたらいいなと思っています。干物が美味しいところなので、そういうものを使ったりとか。この2年間、お店をやりながら『自分がどういうふうにやりたいか』っていうことをすごく考えさせてもらったので、今度はやりたいようにやってみようかな、って」

さまざまな縁や偶然がレイヤーとなりオープンとなったあしたの箱は、その2年間の歩みのなかで松平さん自身が次に進むべき先の道標となったようです。もうすぐ東京を離れてしまうあしたの箱のカレーを、是非体験してみてください。


Photo:Takuya Murata
Text:Osamu Hashimoto
Edit:Yugo Shiokawa

今回訪れた店

あしたの箱(あしたのはこ)
住所:東京都渋谷区恵比寿1-8-7 三恵エイトビル 1F
TEL:03-6721-9730
営業時間:11:30~14:30(L.O) ※売り切れ次第終了
定休日:土曜、日曜、月曜、祝日

https://www.facebook.com/curryashitanohako/


筆者プロフィール

橋本修(はしもと おさむ)スパイスディーラーとしてストリートで名を馳せ、2017年からはカレーに特化した食ライターとしての活動を開始。音楽ライターとしての顔も持ち、グルーヴィーに日々カレー屋をハシゴしている。(イラスト:@animamundi_)

KEYWORDS
カレー

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