BUSINESS ― 誰がアパレルを殺すのか

【“巻き込む力”が業界を制す】10年周期に当たる2018年、新しい勝ち組が生まれ始めている!

2018.3.1 2018.3.1
2018.3.1

サバイバルする挑戦者からの本音の回答

連載3回目に登場いただくのは、「ファッション流通企業の在庫最適化と人財育成支援」を専門とするディマンドワークス代表の齊藤孝浩さんです。「私の仕事は、ファッション流通の在庫の最適化を専門とするコンサルタントで、顧客の購買心理を前提に、店頭在庫の最適化のビジネスコーチングをしています」と説明します。

様々なメディアで「アパレル不況」と報じられていますが、専門家である齊藤さんの目にはどう映っているのか、アパレル業界以外の方にも参考になるレクチャーをお届けします。

流通のプロが語る、アパレル不況の本当の中身とは

――この連載は、ファッションを製造・販売するTOKYO BASE代表の谷 正人さん、メディアに長く携わり、外からアパレルやラグジュアリーブランドを見続けてきた戸賀敬城さんにこれまで登場いただき、今回はファッション企業を流通の視点から見るプロの齊藤さんにお話を伺います。いわゆる「アパレル不況」は現場からはどのように感じますか。

齊藤孝浩(以下齊藤/敬称略):衣料品の小売市場は1991年をピークに総売上の金額は下がっていますが、内容を見ていくと、「商品単価が下がり、数量は増えている」といわれています。つまり、単価を高く売っている企業の業績が良くない。そこが今、指摘されている部分ですね。

そんな状況の中で、様々な企業が革新を行っていますが、価値ある商品をこなれた値段で売るように努力してきた企業が今でも伸びているのが現実で、その代表がユニクロ(ファーストリテイリング)です。

――齊藤さんは著書『人気店はバーゲンセールに頼らない』(中公新書ラクレ刊)の中で、2013年段階の“勝ち組ファッション企業”を論じていますが、2018年の勝ち組はどこですか。

齊藤:アパレルの小売市場は、百貨店、スーパーの衣料売場、セレクトショップを含める専門店、通販(EC)に大別されます。前述のように企業が革新を起こしているなかで、購入のポートフォリオが移り変わっている間に商品単価が下がっている。つまり、お客さまは「安くて手頃な商品に飛びつく」わけで、そういう購買行動に素直に応えていた企業が勝ち組になっています。

企業側からすると大変な時代ですが、ある意味お客さまは新しい選択肢の中で楽しんでいるわけです。今後は販路の中に二次流通(リサイクル)が新たに加わり、「C to C」のビジネスモデルが第5のチャネルに台頭してきます。

ユニクロ、H&Mのようなファストファッション、ECのZOZOTOWN(スタートトゥデイ)、そしてメルカリを代表とするフリマアプリなど、ファッションマーケットは常に革新者たちがチャレンジし続けているので、額は下がっていますが、端から見れば面白い業界ではないでしょうか。

 

10年ほどの周期で勝ち組が入れ替わっている

――確かに時代を振り返れば、IT化が進むと同時に「主役」が移り変わってきていますね。

齊藤:ファッション業界には「10年周期説」というのがあります。1988年にアメリカのGAPが「SPA(製造小売)」宣言をし、ユニクロがフリースブームで爆発的に売れたのが1998年で、その年にH&Mがパリに進出しました。その10年後の2008年にH&Mが日本上陸を果たしてファストファッションが台頭し、今年はその10年後です。

ファッションの革新は欧米が先を行っていて、新しいチャレンジによって、2018年の勝ち組が生まれ始めています。

――齊藤さんは2018年の動向をどう見ていますか。

齊藤:「低価格のベーシックアイテムの品質向上を果たした」ユニクロや、「トレンドファッションの価格の上昇を崩した」H&MやZARAが時代をリードしてきましたが、これからは、お客さまの手元にどう商品を届けるかという“届け方の革新”、つまり「お客さまの都合に合わせたプラットフォーム」をつくることが企業のチャレンジの課題になっていきます。

Eコマースのオンラインを起点にして、実店舗やオンラインなどお客さまとの接点を統合し、より快適なショッピング体験を提供する「オムニチャネルリテーリング」化が進んでいますが、消費者側は買いものに無駄な時間を使いたくないので、顧客の都合に合わせたプラットフォームを整えていかないと生き残れません。

――海外、特に国土の広いアメリカなどは、さらにその先に進んでいるとか。

齊藤:海外では特にAmazonの脅威に対して、実店舗を持っているメリットを活かした「クリック&コレクト」が進んでいます。オンラインで注文し、受け取るお店を指定して、いつでも好きなときに受け取れるサービスですが、アメリカのディスカウントチェーンのウォルマートや、ロンドンのファッション小売りのNEXTや百貨店のセルフリッジなどが積極的に導入していて、都市生活者は当たり前のように利用していますね。

日本では、ヤマト運輸が時間指定など、痒いところに手が届くサービスを先に提供しているのであまり実感がないと思いますが、日本でも間違いなくその方向に進むだろうと思っています。

――「クリック&コレクト」が普及すると、実店舗での接客なども変わらざるを得ないですね。

齊藤:お客さまはあらかじめオンラインで商品のことを調べて来店してくることを想定しての接客がマストになります。お客さまが情報を持って来店するので、ホスピタリティだけではなく、それを前提とした接客をするために、本部が情報を与えたり、デバイスを使用してわかりやすく伝える必要性も出てきますね。そこが選ばれる企業・ブランドの分かれ道になるでしょう。

 

Amazonが利便性のハードルを高めた

――また、オンライン起点では、Amazonは日本人の生活にすっかり根ざしました。

齊藤:注文すると、無料で翌日に届く、プライムを使えば2時間で届くという利便性は、お客さまにすればうれしいサービスですが、企業側から見ると反則技に近い(笑)。Amazonがどんどん先に行って、もう後戻りができない流れを作ってしまったわけです。

Amazonは本やCDから始まり、生活全般をカバーし、今は食品にも注力しています。ファッションも、Amazon Fashionが冠スポンサーになって「Amazon Fashion Week Tokyo(アマゾン・ファッション・ウィーク東京)」を開催するなど、アパレルマーケットを狙ってくるのは当然のことです。

――在庫コントロールを中心に急成長するアパレル企業のコンサルティングを行うディマンドワークスの代表。言うなれば、「店頭バックヤードの最適化の専門家」である齊藤さんは、ご自身のファッションについては、どのような考えをお持ちですか?

齊藤:セミナーなどで人前に出ることも多いですが、ネクタイはあまりしないので、ポケットチーフを愛用しています。コーディネートは、硬くもなくカジュアル過ぎない感じが多いですね。洋服の他には、30代にフレグランスを使い始め、独立した頃に床屋から美容院に変えてヘアスタイリングフォームに気配りし、50歳前後にフェイスケアやボディケアにも気を遣うようになりました。

ファッショントレンドはAI化で生み出せるのか

――今回、齊藤さんにぜひ訊きたかったのが、ファッションのAI化の可能性です。

齊藤:企業のトップと話していると、ITとAI(人工知能)の境目なく話している人が多いですが(笑)、経営層から言葉として出てくる頻度は多くなっていますね。「トレンド予測にAIは使えるか」というと、答えはYesでもありNoでもあります。

いわゆるファッショントレンドとは「多くの人たちが追随する変化」と定義されますが、いきなり生まれたり始まるわけではなく、その出所や徴候が必ずあるわけで、そこをデータベース化できれば、ある程度の予測は可能になります。あるいは、たとえば「原宿の交差点で○○を着ている人が多くなった」という統計が年々取れれば、「3ヵ月後にはこれが売れる」という予想もできるはずです。

コンサルティングの現場でもやることですが、上手くやっている人の行動や考え方の共通項を取り上げてインプットできれば、ベストプラクティス=最善の結果やアドバイスが可能になります。アパレルでも、情報を早く共有し、素早く行動に移すことができれば、売れ筋は得られるはずです。

――なるほど、でも、答えとしてNoでもあるわけですね。

齊藤:アパレル産業に限らず、成功するパターンを複数の要素から割り出して対応の事例がデータベース化できたらとても便利で素晴らしいことですが、アパレルが他の消費財と違うのは、年間を4シーズン(春夏秋冬)=13週間に区切って、「シーズン最盛期に定価で売り、なるべくバーゲン期に在庫を残さないで売り切る」という“短期勝負”型です。なので、どうしても勘や経験も加味されてしまう。

また、日本のアパレル業界は“単品指向”が強いんですね。それに対し、成熟したお客さまは、「このジャケットのインナーに何をいつごろ着たら似合って、変化が出せるか」というコーディネート情報を求めている。

アパレル界のAI化という意味では、その最適な組み合わせ(最適解)をデータベース化できれば、売る側は接客に使えるし、消費者はそれを参考にして買いものができて、いわゆる「タンスの肥やしにならない」というWinWinになれるわけですね。

――でも、コーディネート事例を集めるのは至難のワザです。

齊藤:20世紀は、良いモノを作って提供すれば勝ち組でしたが、現在は、消費者の潜在需要からいかに欲しいモノを引き出して、商品を先回りして提案し、かつSNSのプラットフォームをつくって「お客さまを巻き込むか」が大事です。

そういう意味で、ZOZOTOWNを運営するスタートトゥデイのアプリ「WEAR」は、SNSのプラットフォーム使ってコーディネートの投稿を紹介していますが、ファッション好きな若者を中心に、彼らが楽しみながら写真を投稿して、それがビッグデータになっています。よく考えられていると思いますね。

 

消費者は成熟し、プラットフォームは変わっていく

――「お客さまを巻き込むか」というのは重要な視点になると思います。

齊藤:以前は、自分の仕事も、「予測を立てて、いかに最適な在庫を各店に整えられるか」が勝負でした。しかし、ユニクロや無印良品のように、“在庫を正しく表示し、オープンにする”と、今度はお客さまが在庫を取り寄せたり、在庫のある店へ行ったり、消費行動が変わってきます。それも「巻き込む力」の一つです。

――なるほど。消費者も商品も常に動き、動かされているわけですね。

齊藤:手軽にモノを買いたいときや、わかりきった商品を買うときは時短や利便性を求めるので、それに適した使いやすいプラットフォームを使いますが、皆さん家に閉じこもっているわけではなく、「ワクワクするところには行く」わけです。アパレルに限らず、今後は情報や体験の提供ができるかどうかが、生き残れるか残れないかの分かれ道になります。

――何かそういう事例はありますか。

齊藤:昨年日本に上陸したバンクーバー発のアスレティックウェア・プレミアムブランドのルルレモンは、アメリカでは無料のヨガ教室を店舗で実施していて、商品に“体験”もプラスしています。体験させることで会話が広がり、本気になって、コミュニケーションが広がります。今の人は、体験を共有すればSNSで拡散してくれますからね。

 

ビジネスを制するなら、近未来予測をするべき

――そういう市場視察のようなことも齊藤さんの仕事には必須ですね。

齊藤:先ほど「ファッション流通の革命は10年周期で起こっている」とお話しましたが、やはり欧米でその変化は先に起こっています。自分で“インスピレーション・トリップ”と呼んでいますが、毎年夏に『3年後の東京のファッション消費を変えるような場所』を見に行くことを自分に課しています。

長年続けていますが、ロンドンを中心としたヨーロッパとアメリカを交互に旅しています。ロンドン、パリ、バルセロナあたりから始まって、翌年はアメリカの西海岸、東海岸、次の年はロンドン、ストックホルム、コペンハーゲン……、直近では、一昨年はシンガポール、去年はロンドン、アントワープ(ベルギー)を視察していきました。

――今年の夏はどこに行くのか教えていただけますか。

齊藤:今年はアメリカのポートランドとNYへ行くつもりです。特にポートランドはナイキの本社があったり“サスティナブル=持続可能な社会”のモデルケースのような街なので、今、何が起こっているかを見ておきたいと思っています。

齊藤孝浩(さいとうたかひろ)
ファッション流通コンサルタント。有限会社ディマンドワークス代表
1965年東京都出身。明治大学卒業後、総合商社、欧州ブランド日本法人立ち上げ、国内アパレルチェーンを経て、2004年に独立。在庫過多に泣かされた実体験をバネに、ファッション専門店の在庫最適化のための在庫コントロールの独自ノウハウを体系化。現在、SPA(アパレル製造小売業)型企業に特化した在庫運用実践支援コンサルタントとして活躍中。
著書に『人気店はバーゲンセールに頼らない 勝ち組ファッション企業の新常識』(中公新書ラクレ)や『ユニクロ対ZARA』(日本経済新聞社)がある。
特定非営利活動法人インディペンデント・コントラクター協会 第3代目理事長 (現顧問)
http://dwks.jp/
ブログ
http://dwks.cocolog-nifty.com/

Photo:Shimpei Suzuki
Text:Makoto Kajii

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