もう2度と作られることがない要素が たっぷりと詰まってます!
さて、71回目はエルメスのカシミアニットベストです。そう、チョッキですね。ちょっと詳しい方ならタグをご覧になってピーンと来てるかと思いますが、あのマルタン・マルジェラが1997年から2003年までウィメンズウェアのクリエイティブ・ディレクターを務めていた時期にリリースされたアイテムです。なので、前のボタンの合わせもウィメンズ仕様の左前になっています。
正直オトコとして、左前の服を着るのには抵抗がありましたが…、マルタンが手がけるエルメスだから欲しいし、ベストならそこまで見えないから大丈夫だろうなどなど思ったんです。加えて最大の理由は、このニットベストがカシミアで、スコットランド製でこのサイズタグってことは、間違いなく「バランタイン カシミア」で作らせたモノだからでした。カシミアの風合いや、この絶妙なミルキーなメランジ具合はバランタインの真骨頂でしたから。
となりゃ、お察しの通り価格も……でしたが、当時の自分は今以上にブレーキが壊れていて、持っているお金のほとんどは服に変えていたほど。ちょっとだけ迷いましたが、結果清水ダァーイブ。めでたく2色ゲットすることと相成りました。てへ。
でも、やはりウィメンズ。マルタンが手掛けていたので作り自体は大きめでしたし、購入した当初は痩せていたので着られましたが、だんだんと肥えて、袖を通すとムチムチになってしまい、クローゼットの奥で眠るハメに…。なんならグリーンの方はタグすらも付いたままだという(笑)。
マルタンの元で働いていたデムナ・ヴァザリアによるVETEMENTS(ヴェトモン)の大躍進。アントワープ州立モード美術館 MoMuでは「マルジェラ:エルメス時代」が開催され、オランダ・ロッテルダムを拠点とする mint film office(ミント・フィルム・オフィス)は『We Margiela』と銘打たれた映画の製作や同名の書籍も発刊予定。さらに、マルタンのビジネスパートナーであったJenny Meirens (ジェニー・メイレンズ) が残念ながら逝去してしまったりと、なんだかマルタン・マルジェラ界隈が騒がしくなってきており、マルジェラ for エルメスのアイテムは古着市場でも高騰高騰の嵐。「こんなのを新品状態で持ってる」なんて言うと、譲って譲ってのオンパレードです。
走るのが習慣になって少しは痩せましたが、コレを着られるのは まだまだ先。マルタン、エルメス、バランタインと三拍子揃ったアイテムなので、決して手放すようなことはないとは思いますが、もしかしたら着ることもないような気もしています…。
Photo:Riki Kashiwabara
Text:Ryutaro Yanaka
『FORZA STYLE』シニアエディター
谷中龍太郎
さまざまな雑誌での編集、webマガジン『HOUYHNHNM』編集長を経て、『FORZA STYLE』にシニアエディターとして参画。現在までにファッションを中心に雑誌、広告、カタログなどを数多く手掛け、2012年にはニューバランス初となるブランドブックも編纂。1976年生まれ。