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LIFESTYLE ー こじらせ映画評

日髙夏子の「こじらせ映画評」

世界的神対応で祝福された、極上のラブ・ストーリー「ムーンライト」

2017.4.19
2017.4.19

差別や偏見のない、ただただ純粋な「愛」

FORZA STYLE読者のみなさま、こんばんは☆(今回はあえての『こんばんは』でお届けします。)

前回の連載で、勝手にアカデミー賞こじらせ予想をさせて頂きましたが・・・まさかの主要6部門全正解!中でも驚いたのが、今年の話題を全てさらった作品賞。これに関しては、理由や根拠があった上での予測というよりも、私自身の希望を込めた予想だったので、当ててしまったことに動揺。(とはいえ、映画館コンシェルジュとしての名目を保てたので一安心しています。)

しかし、こじらせ女の私の予想がばっちり当たるなんて、今回のアカデミー賞は相当こじれていたのでしょう笑 ましてや、世界中に激震を走らせた世紀のハプニング・作品賞の発表ミスが起きるなんて!『ラ・ラ・ランド』と発表された時は素直に納得しましたが、本当は『ムーンライト』だとわかった瞬間、思わずガッツポーズ!・・・しかけましたが、その直後のスタッフや関係者の顔面蒼白っぷりを想像すると、私まで気絶してしまいそうに。

そんな歴史に残る瞬間を世界中が同じタイミングで感じられるなんて、やっぱりエンターテインメントに境界線なんて無くて、同じ感動や衝撃を味わうことが出来ることが素晴らしいなぁと、実感した授賞式でもありました。

名場面は沢山あったのですが、こじらせ女の私が一番感動したのは、作品賞の発表ミスが発覚した瞬間の出来事。既に壇上にいた『ラ・ラ・ランド』のプロデューサーが、マイクを奪って「本当の作品賞はムーンライトなんだ!僕たちからムーンライトにトロフィーを渡させてくれ!」と叫んだシーン。『ムーンライト』チームを舞台上に呼び寄せたその姿は、本当にかっこ良すぎて、まさにこれこそ“神対応”。お互いの功績を素直に讃えられること、あんな状況でも相手に敬意を表せること。男前すぎる世界的な神対応に・・・気絶!これこそ、まさにイケてる大人の男の余裕が生み出した神業ですね。読者のみなさんも、こんな紳士的な神対応が出来ちゃうイケフォーを目指して頂きたい!と、勝手に私は思っていますよ。

ということで今回は、そんなアカデミー賞の中心となり、日本でも只今劇場公開中の『ムーンライト』をご紹介します。

まず、なぜ私は「ムーンライト」を作品賞だと思ったのか。政治的背景とか人種問題とか、時代的なタイミングがあったのは確かです。でも、それ以上に答えはシンプル。

© 2016 A24 Distribution, LLC

 

 

今まで出会ったどんな恋人(作品)よりも、一番、純粋に「愛」を描いていたから。

何度も言いますが、「愛」とか「恋」とかがとにかく苦手なこじらせ女の私が見ても、愛の美しさに素直に触れることが出来たんです。きっと誰が見ても、この愛の美しさに心が動かされてしまうはず。

主人公のシャロンは、アメリカ・マイアミの貧しい家庭に育った黒人の少年。唯一の家族である母は麻薬中毒者で、家庭に彼は居場所を感じられず、学校でも過酷なイジメに遭い孤独を抱える日々を過しています。そんな中で、麻薬ディーラーのフアンと出逢ったシャロンは、彼にだけは心を開いていきます。フアンは、「自分の道は自分で決めろよ。周りに決めさせるな。」という言葉をシャロンに遺します。

© 2016 A24 Distribution, LLC

そして、高校生になったシャロン。変わらず学校で壮絶ないじめに遭う日々でしたが、彼にとって唯一の救いは友人のケヴィンの存在でした。やがて、ケヴィンに友達以上の感情を抱くようになりますが、ある残酷な事件が起き、シャロンはこれまでの自分を捨て別人のような変貌を遂げてしまい・・・。そんなシャロンの人生を少年期(リトル)・ティーンエイジャー期(シャロン)・青年期(ブラック)の3章で描き、それぞれを別の俳優が演じています。

シャロンは、黒人でゲイで貧困街に暮らしていて周りは麻薬中毒者ばかり。
日本人でイケフォーのみなさんからすると、最も遠い存在で感情移入や共感をすることはなかなか難しい。それに、今までのこういう作品って差別や偏見を描き、その現状の壮絶さを訴えるものが多かったと思いますが、この作品は全く逆。

シャロンが受けた差別や感じた孤独を目にして、同情したり蔑んだりするのではなく、ただただ、シャロンの抱くあまりにも純粋で美しい愛を感じることで、気付いたら見る者全てがシャロンの幸せを願ってしまっているんです。自分以外の誰か、ましてや遠い存在の幸せを願うことなんて滅多にありませんよね。

© 2016 A24 Distribution, LLC

でも、シャロンは誰もの心を奪ってしまうほど純粋で愛おしくて、アカデミー会員の心をも奪ってしまうほどだった。だからこそ、作品賞に選ばれたんだと思います。そんな彼の姿を見ていると、ふと、差別や偏見なんて無駄なもので、誰だって同じように純粋な愛を抱いているんだということに気付いてしまうことが、この作品の素晴らしさです。

そして、この作品を見て、あなたは必ず誰かを思い出すはず。忘れていたはずなのに、あなたの心に潜んでいた消えることのない存在を。それはシャロンにとってのケヴィンです。

私は、シャロンがケヴィンへの想いを断ち切るかのように、自分を覚醒させるシーンが一番印象に残っています。それまで悲しく波のように揺れていたシャロンの瞳が、まるで暗闇に沈んだように光を失った瞬間、思わずぞっとしてしまいました。しかし、第3章で全く別人のような容姿になったシャロンがケヴィンからの予期せぬ電話を受けた瞬間、彼の瞳は第2章のティンエイジャーに戻ってしまう。どんなに自分を強く見せようと思っても、本当はずっと心の中にケヴィンがいて、彼のことを想い続けていた。それに気づきケヴィンへの想いが溢れ出してしまった時、シャロンの瞳は、再びムーンライトに照らされた波のように揺れ、切ない光を放つんです。

この作品を見て、私も同じようにある人を思い出しました。

© 2016 A24 Distribution, LLC

ただただ純粋に「愛」を抱いた、心から感謝している人。今はもう側にはいないし、普段は影をひそめているけれど、何度も忘れようとしても決して消えてくれない。ふと、今は幸せでいるのかな?ちゃんと笑顔でいるのかな?と思ってしまう。まるで心に刺さったまま、でも抜かないように放置していた小さな棘のような。これは、「愛」がある故の感情だということを、この作品で知りました。

そう、読者の皆様もそんな大切な誰かを思い浮かべるはず。でもそれは、報われなかったからこそ心の中に遺っているものであり、美しいまま。そして、自分の報われなかった想いをシャロンに託すかのように、彼に幸せになって欲しいと、ケヴィンとの未来が明るくあるように祈ってしまうのではないでしょうか。

そして、全編を通じて感じたのは、
シャロンと同じように、人間は誰もが自分がどんな存在なのか自分の中で悩み、答えを出そうとする。でも、本当は自分の中でもがくよりも、誰かを愛したり愛されたり、それが故にぶつかったり傷つけたり傷ついたり。そんなことを繰り返しながら、自分はどんな存在で、何を求めているのかということを見出していくのだと思ったんです。

© 2016 A24 Distribution, LLC

シャロンが感じた、母親の愛情を得られなかった孤独、フアンと初めて心と心が通じあうことで知った人のぬくもり、それを失う悲しさ、そして、ケヴィンへの叶わぬ切ない想い。そこには必ず「愛」があり、様々な愛の形と向き合うことを通じて、シャロンは自分の想いを知り、アイデンティティへと繋がっていきました。

この作品が「今世紀最高のラブ・ストーリー」と称される理由を、少しはご理解いただけたでしょうか?

様々な「愛」を描く、まさに、極上のラブ・ストーリーです。やっぱり「愛」が一番苦手なこじらせ女の私でさえも、「愛する」ことの美しさや素晴らしさを痛いくらいに感じさせてくれる恋人でした。

© 2016 A24 Distribution, LLC

ちなみに、読者の皆様にはフアン役を演じたマハーシャラ・アリにもご注目いただきたい!今作で見事に助演男優賞に輝きましたが、実は出演しているのは第1章だけ。わずかな時間しか登場していないのに、ずっとこの作品を導いているような存在感です。フアンは暗く、陽の当たらない場所に生きていましたが、その眼差しはどこか優しくて暖かい。ずっとシャロンを見守り、暗闇で迷ってしまわないように照らし続けてくれるような、まさに彼がシャロンにとっての「ムーンライト」のような存在でした。

©gettyimages

更に、彼はルックスもめちゃくちゃかっこいいんです。私の大好きな海外ドラマ「ハウス・オブ・カード」では、政治の世界を裏で操りまくる黒幕・ロビイスト役で、今作とは真逆のスタイリッシュなスーツを着こなしスマートで妖しいオーラを放ちまくってます。現在、43歳。まさに、みなさんと同じイケフォー。遅咲きではありますが、これまでの黒人俳優とは一線を画すような、スマートな美しさや知的さ、そして裏に危なさを兼ね備えた新しい黒人像を確立していると思うんです。この作品でさらに注目を集め、カルバン・クラインのキャラクターにも抜擢されたそう。これから、新しいイケフォー像を体現するようなファッション・アイコンとしても注目ですよ!

とりあえず、今回の連載で思ったこと。
ずっと「愛」だの「愛する」だの言い続けてしまったので、かなり枯渇気味。せっかくちょっと理解できたはずなのに、こじらせ女の私は一生分の「愛」という言葉を使い果してしまって、もう残っていないんじゃないか!?と、読み返した今、恐怖に慄いています・・・・。

それではみなさま、今夜もムーンライトに照らされながら素敵な一夜をお過ごしください

『ムーンライト』
監督・脚本:バリー・ジェンキンス 
エグゼクティブプロデューサー:ブラッド・ピット
原案:タレル・アルバン・マクレイニー
キャスト:トレヴァンテ・ローズ、アンドレ・ホーランド、、ジャネール・モネイ、アッシュトン・サンダース、ジャハール・ジェローム、アレックス・ヒバート、マハーシャラ・アリ、ナオミ・ハリス
【問い合わせ】
配給:ファントムフィルム
03-6276-4035

TOHOシネマズシャンテ他全国公開中!
moonlight-movie.jp

【ひだか・なつこ】
小学校から大学までの16年間を附属の女子校で過ごした“こじらせ女”。(幼稚園もほぼ女子校だったので、それもカウントすると約20年間)幼い頃に家族の影響でエンターテイメントに目覚る。中学・高校をミュージカルに、大学生活を映画館でのアルバイトに捧げ、海外ドラマ廃人も経験する。映画やエンターテイメントとより多くの人を結びつけたいという想いから、放送局に入社。今でも毎週末は映画館で過ごし、これまで見た作品は約4000本。そんな映画への愛をこじらせ、コンシェルジュとして今回の連載を担当する。
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