アーカイブに囲まれながら、未来の服を創る喜び
連載「服飾歳時記・二十四節気(着)」の取材で、赤峰幸生さんのデザインカンパニー「インコントロ」に伺ったとき、ちょうどオーダーメイドのダッフルコートが仕立て上がってきて、思わず「赤峰さんが考える、オーダーメイドとは?」と尋ねました。返ってきたのは、「無理・無駄な誇張はしない」という答えです。
50代前のIT系の仕事をしている人のダッフルコート
オーダー内容は「スーツの上に着られるダッフル」で、エレガントに見えるようロング丈に。さらに生地は、「英国のFOX BROTHERS(フォックスブラザーズ)の工場で膨大な数の生地のアーカイブを見て、気に入ったものを少量織ってもらって復刻した」という特別なものを使用。軽量なので、春の寒い夜にも羽織れます。
「お客さんからオーダーを受けるときに、どういう服が着たいのか、どういう風に着たいのかを聞いて、インコントロには既製服にはない色や生地も揃っているので、たとえば生地を見て、これでコートを仕立てましょうということもあります」と赤峰さん。
体型のサイズをしっかり測り、全体のバランスからポケット位置などディテールも調整。縫製工場は「40年ほど付き合いのある手の良い工場で、既製品がメインながら一点物にも対応してくれる」ところに依頼しているそう。
赤峰さんは、「これの下にベージュのギャバのスーツなんか着ると、かなりイケてますよ」というダッフルコートは、出来上がりまで40~45日ほどで、仕立て上がり16万円(税別)です。
「AKAMINE Royal Line(アカミネロイヤルライン)」に心酔する人たち
「今度、スウェーデンから、作ってほしいジャケットがあると来日する人がいます」と赤峰さん。そのほか、年4回インコントロを訪れて、「基本のワードローブを揃えたい」という大学教授、「見栄えが良い服」を求める政治家、「裁判で勝てる服」というオーダーの弁護士など、多士済々。
インコントロではコート、スーツ、ジャケット、トラウザーズなど様々なアイテムがオーダーできますが、一番多いのはシャツだそうです。
「アカミネロイヤルラインで心がけているのは、無理・無駄な誇張はしないこと。赤峰が考えるスタンダードだけど世の中にない服、5年から10年以上着て楽しめる、時代を超えて色褪せて見えない服を作っています」と赤峰さん。
続けて、「たとえばリーファージャケット(ピーコート)など、自分がその原型を着ているからこそ、赤峰流に解釈して、時代の波に耐えうる“普遍的な新しい服”を作ることができる。そういう“先の見通し”を考えて作るので、着込んで味が出て、袖口が擦り切れてきて、『やっと俺の服になってきた』と喜ぶお客さんもいます」と言います。
包丁を研ぐところから始める、それが本当のサルトリア
人のタイプには、「先駆的な人、時代的な人、独自的な人」がいるという赤峰さん。「先駆的な人は、他の人とはちょっと違うという自意識がある。時代的な人は、流行っているモノが好きという、“みんなで渡れば怖くない”タイプ。独自的な人は、普遍的なものが好きな頑固者」。人に性格があるように、服にもそんなタイプがあって、「それを噛み砕いて、服を作っていきます」と言う。
「医者が問診して、まず聴診器を胸に当てるように、僕にとってそれはメジャーなんです。会話の中からお客さんのタイプを見つけて、リクエストを聞いて、『では、ここはこうしましょう』から服作りが始まります」。
オーダーメイドの服の良さは、フィット感やオリジナリティだけでなく、「手がかかった服を着ると自信がつく、気持ちが違う」と赤峰さん。「服に心が宿りますから、当然、メンタルにも影響しますよ。服作りは、仏像を彫っていく作業のようなもの。美味い料理屋が包丁を研ぐところから始めるように、アカミネロイヤルラインの服作りも、原綿や原毛から糸を作って、織りを考えて、起毛の調子まで徹底する。そういう一回勝負の緊張感が好きです」。
オーダーメイドの問い合わせは、以下のホームページからでも可。一見さんももちろんOKです。「こんな服を着たい」と写真持参なら、さらに話が弾むこと間違いなし!
Photo:Shimpei Suzuki
Writer:Makoto Kajii
INCONTRO
http://www.incontro.jp/