お店選びでその人のセンスを確かめる
日本のウェルドレッサーの筆頭格、シューズデザイナーの坪内浩さんに「オシャレとは?」「男と女とは?」など根掘り葉掘り訊きまくる「酒とオシャレと男と女」。
今回やってきたのは、坪内さんが20代から通っているという、六本木の中華料理屋「華園」です。さてさて、いったいどんな話が飛び出すのでしょうか?
FORZA:お店の入り口を見ても何屋さんかわからないですね。のれんで店内が見えないのでますます緊張……正直、入るのに勇気がいりました。
坪内さん:今はどの街へ行ってもチェーン店が多いですからね。昔はここの華園さんみたいな、オンリーワンのお店が多かったんですよ。不思議な場所に足を踏み込む勇気がないと、いつまでたっても見える世界も変わらないので、何事もチャレンジですね。
FORZA:勉強になります。中華といえば紹興酒ですよね。紹興酒と一緒に、いくつか食べ物も注文します。それにしても、こちらのお店は内装が独特なデザインですね。この妖艶な雰囲気、本当に六本木でしょうか? なんだか異世界にでも迷い込んだ気分です。
坪内さん:ご主人の思考やセンスが出ている感じがいいですよね。開発されて変わっていく六本木という街の中で、こういった昔ながらの雰囲気のお店があるのがいいんですよ。最近のオシャレと言われるお店は、温かみに欠けて軽薄な気がするんです。キレイに整いすぎたお店が多いというか……。こういうお店を知っておくと女性からのポイントが高いですよ(笑)。
FORZA:坪内さんは、手作り感があるというかどこか温かい雰囲気のお店がお好きなんですね。
坪内さん:わりと気軽に行けてホッとできるお店が多いのかな? と思います。もちろん流行りのお店だったり華美なお店でもいいんですが、どうせならもう少し五感を刺激するようなデザインだったり、こなれた感じの内装でいてほしいなと思ってしまうことが多いんですよ。この歳になったから言えるけど、お店選びってその人のセンスや好みを測る意味もあるのかなと思います。おっと、紹興酒がやってきましたよ!
FORZA:マダム、こちらのお店は創業何年ですか?
邱さん:1978年からやっています。昔は出版業界やファッション業界の方が多かったんですが、時代とともに減ってしまいましたね。坪内さんのような職人気質の人には頑張ってもらいたいですよ。
坪内さん:恐縮です。昔はみんな勢いがありましたよね。いつかアーティストやデザイナー、職人など様々なタイプの人が集まるソサエティみたいな場が出来ると面白いですね。
邱さん:若い人に心意気や文化を伝えていってほしいですね。今は、偉人たちに語らせないし、話す場所もないから時代に捨てられちゃっている感じなんですよね。いいものを知っている人たちは財産なのに……。古希を迎える人もいるんだから早く次の世代に繋げていかないとですよね。
坪内さん:大人はSNSやインターネットに書き込む元気がないですしね(笑)。みんな真面目にやって来ているのに、なかなかわかってもらえなくなっていますよね。それに最近の人は流行ったらみんな同じ方向に行きますよね。
昔は人と一緒のことをするのが恥ずかしかったんですよ。人から学ぶことはあっても人の真似をするなって教えられていたんです。まずは誰よりも目立つのが第一優先。「あなたも素敵だけど僕も素敵でしょ」っていつも刺激しあっていたんです。今はみんなと同じじゃないと不安ですよね?
FORZA:なんだか耳が痛いです。でも、確かに今はSNSも普及していますし、人と繋がってお互いを確認しあっていないと恐怖心が生まれてしまうかもしれないですね。
坪内さん:もっと自分が持っている個性をアピールしてもいいと思うんですよね。若い子から感性がなくなって来ている気がしますよ。表現するのには自信もあり不安もありでしたが、そういう葛藤を乗り越えてこそ自分が磨かれるんです。
FORZA:個性があるように見えて、実はなかったりするんですね。ところで、坪内さん。今日はかなり素敵なステッキをお持ちですね。まさしく個性が溢れ出ています。どちらで買われたんですか?
坪内さん:これはリングと一緒で、M.Y.レーベルの吉田眞紀さんが作ってくれた世界に一つしかないステッキなんです。「スノードームを持ち手に使う人なんていないだろ」ということで作ったんです。でもこれね、安いスノードームだから綺麗に雪が舞らないんですよ。
FORZA:粉雪どころか、雪崩みたいな落ち方になってます(笑)。しかし、持ち手にスノードームを付けるなんて発想が粋ですね。
坪内さん:フランス産の木に、アルミとガラスという異素材を組み合わせる吉田さんの技なんですよ。でも実は完成してから気づいたことがあって、スノードームがガラスでできているので落とすと割れてしまうんですよ(笑)。持っているとオシャレな装いもできますし、電車で席を譲ってもらえたりする利点があるんですが、使うのにかなりの勇気がいる代物なんです。だからあまり外に持ち出していません(笑)。
FORZA:確かに……気軽に置けないですし、お酒にも酔えなくなりますよね。
坪内さん:あなたも節度を持ってお酒をたしなめるように、こういうステッキを持ってみたらどうです?
FORZA:う~ん、僕にはいろんな意味でまだ早すぎます。おっと、……豆腐干の和え物が来ましたよ。サラダのようにヘルシーな見た目ですが、塩加減もちょうどよくシンプルな優しい味です。生姜も効いて美味しいですね。ん、この味……アクセントに絶妙な量ですが、香菜(シァンツァイ・タイ語でパクチー)が入っていますね。僕、香菜だけは昔田舎でつぶしてしまったカメムシを思い出すのでどうしても苦手なんです。脇にどかして……っと。
坪内さん:そんな好き嫌いをしているようでは紳士には程遠いですよ。しょうがない。罰として香菜大盛り追加!
FORZA:先輩、勘弁してください~。そんな坪内さんには好き嫌いはないんですか?
坪内さん:ありますけど、美味しいものを食べるとだんだん無くなっていきますよね。好みの範囲を決めるのも粋じゃないので、まずはトライして食を楽しみたいと思っています。
FORZA:紳士たるもの好き嫌いすべからずですね。僕も頑張って香菜食べれるようになります。
……こちらはイカゲソのサーチャジャン蒸です。
FORZA:そういえば、坪内さんイカがお好きですよね。僕も好きなんですが、塩派ですか生姜醤油派ですか?
坪内さん:ゲソとか美味しいですよね。塩で食べた方が美味しいかもしれませんが、生姜醤油で食べる方が好きですね。僕は、いかに食材を美味しく食べれるようにするかが料理だと思うんです。
例えば、蕎麦屋さんでも「美味しいから塩で食べてください」ってところがあるじゃないですか? でもそれって汁を蔑ろにしているのかなと思っちゃうんです。確かに食材がよければ塩だけでいいと思うんですが、それだとつまらないんですよね。汁で食べてこそ美味いと思える方が僕は好みなんです。シンプルなものより試行錯誤して作った料理の方が好きですね。
FORZA:塩で食べられないから”まずい”という訳ではなく、塩で食べられないなら"味噌漬け"や"タレ焼き"にするなどアイディアが生まれるんですよね。どうしたらこの食材は美味しくなるのかと常に考えるのが料理ですよね。
坪内さん:材料に頼りすぎると職人の腕も弱くなりますよね。今でこそ海外で和食はインテリジェンスと思われて来ましたが、昔は全く注目されてなかったんですよ。
“クールジャパン”なんて言葉で日本がかっこいいと思われて来たのはここ最近ですよね。本当に日本食が美味しいと思っている人も少ないと思いますが浸透して来たから良かったと思います。
FORZA:海外へ行くと和食は寿司ですし、海外で和食をやろうと思っても器や食材がなかったりするので、浸透させるのは難しいことですよね。いいお話が聞けました。そういえば、名古屋で干場編集長とやられたトークショーは大盛況だったみたいですね。
坪内さん:盛り上がりましたよ。干場さんのファンがすごく多くてですね。一言喋っただけで「声素敵~」なんて言われていましたよ。そういうの聞くと僕まで嬉しくなっちゃうんですよね。隣で「やっぱり干場さんの声は素晴らしいよな」って実感しながら気絶していました。
FORZA:隣でそんなこと思っていたんですね(笑)。
今回はここまで! 次なるお店はどこなのか……次回も乞うご期待です。
Photo:Tatsuya Hamamura
Text:FORZA
【撮影協力】
六本木 華園
東京都港区六本木6-15-19 六本木アームス 1F
03-3401-1051
http://kaen-dining.com/
マグナムの創立メンバーであり、世界的有名なシューズデザイナー。自身のブランド、ヒロシ ツボウチとWH(ダブルエイチ)のデザインを手掛ける。ファッション業界では知らぬ人はいないウェルドレッサーとしても有名。自身の美学に基づいた流行を追わない個性スタイリングからも目が離せない。