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FORZA STYLE - 粋なダンナのLuxuaryWebMagazine

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カレー南蛮は近代が生んだ名作

 

小髙さん:そうですね。でも、カレー南蛮は、老舗のお蕎麦屋さん的には「邪道」と言われるんですよ。手前どもの店ではお出ししているので、先輩方に「邪道な蕎麦屋」とよく言われます(笑)。でも私はね、カレー南蛮は近代が生んだ名作だと思ってるんですよ。たとえ「邪道」だと言われてもお客様に喜んでいただければ、売り続けて新たな歴史を作ればいいと思っています。

FORZA:邪道と言われても貫き通す信念……かっこいいです。熱い思いがありますね。

小髙さん:やっぱり言い続けたり、やり続けることでお店や蕎麦の歴史を作り変えちゃえばいいと思うんですよ。もちろん良い意味で。あと30年もすれば、そんなこと言う人たちもいなくなるだろうし。歴史なんてそんなもんですよ(笑)。でも怖いのが、蕎麦屋の旦那クラスの人が、「昔はね、スプーンとフォークで蕎麦を食べてた文化があったんだよ」と、言ってしまったらそうなっちゃう可能性があるんです。みんな口裏合わせて言い出し始めるので、歴史なんか作り変えられちゃうんですよ。文章に書かれると残っちゃいますしね。

坪内さん:お土産の蕎麦も「茹で」から「生」に変わってきましたよね。

小髙さん:昔は折り詰めに小分けに入ったゆでたお蕎麦に、お酒ふりかけて食べるのが普通だったんですよ。今の若い子は茹で置きって知らないんですよね。乾燥するとみんな捨てようとしちゃって……。これはこれで美味しさがあるので「もったいないでしょ」って思うんです。たまにお客様でも、半分だけ食べて、乾燥させるためにわざとそのまま放置プレイをする方もいらっしゃいます。そうすると、微妙に香りが立つんですよ。

坪内さん:蕎麦の放置プレイ(笑)。美味しく食べる技ですね! 昔は、あげたての蕎麦を食べる文化もなかったんですよね?

小髙さん:はい。特に更科なんていうのは、お殿様への献上蕎麦でしたので、お店で茹でて番重に詰め込んだものをお殿様が食べる歴史があったんです。大した歴史じゃないかもしれませんが、どんどん変わってきてしまうんですよ。今はどこのお店も「生」ばかりですよね。生で取りわけづらい機械打ちのお蕎麦屋さんでも生になっちゃいましたから。

FORZA:でも「茹で」のお土産は相当大変だったんじゃないですか? 特に大晦日。

小髙さん:お店側は相当大変ですよ(笑)。夜中から徹夜で、「茹でる冷ます」を繰り返しするので……。

坪内さん:今じゃお土産で「茹でてください」ってめちゃくちゃ嫌なお客さんですね。

小髙さん:今のご時世、そう思うお店もあるかもしれないですね(笑)。最近は蕎麦にたいする嗜好も変わってきて、みんな黒っぽい「田舎蕎麦」に戻っている印象がありますね。

坪内さん:そうなんですか。でも、このつゆは圧倒的に違うじゃないですか。蕎麦屋を選ぶ基準につゆが美味しいかどうかって重要だと思っているんですよ。

小髙さん:やっぱり基本的に、汁が美味しくないと蕎麦がいくら美味しくてもがっかりしてしまうんですね。お店自体に汁の文化がないお店も増えてきていますし。歴史がないところで修業しているのでそうなってしまうんですよね。冷たい蕎麦しかやっていないお店から独立しても、温かい蕎麦は美味しく作れないですよ。かけ蕎麦で美味しいと思うお店は本当にないですね。

坪内さん:本当にないですね。小髙さんが言うんだから間違いないですよね。

小髙さん:老舗の藪蕎麦さんでいただく、真面目に上手にだしを取ってくれている汁は美味しいですよ。やっぱこれが藪の味だなと思います。そうやって、かけで美味しいと思わせるお店は少ないですよね。蕎麦つゆは、「飲んじゃ辛いが食っちゃうまい」がちょうどいいんです。最近はどこも薄くボケたような汁が多いんですよ。若手の会の会長なんかもやらせていただいているので、「この味、どうですか?」と、聞かれることがあるんです。

でも、蕎麦ダメ、汁ダメ、鴨もダメで全部ダメってこともあって、「なんでこんな冷凍の鴨なんか使うんですか?」、「それでいて高価な金額をとっているとお客さんに失礼じゃないですか?」ってズバズバ言ってしまうので、先輩からは「生意気な奴だな」って思われてるかもしれないです(笑)。食べ物に対しては、年上だろうがフレンチだろうが「ダメなものはダメ」って、ちゃんと思える自分でありたいと思っています。食べ物にたいしてはずっと貪欲でいたいですね。

坪内さん:すごいお話を聞けました。でもその人と本当に親しいから言えるんですよね。愛ですね愛。しびれました。

FORZA:小髙さんオススメの料理屋巡りしたくなってきました。

小髙さん:自分で行きたいお店を作らないとダメですよね。うなぎだったら、あそこのお店が美味しいとか。若手に行きたいところを聞いても「行きたいところないです」って言われちゃうんですよ。ジャンルを指定しても頭の中からでてこないのは寂しですよね……。

FORZA:なんとなく耳が痛いです(笑)。もっと貪欲になります。せめて家の近所くらいは紹介できるように頑張ります!

今回はここまで。次なるお店はどこなのか……乞うご期待!

Photo:Tatsuya Hamamura
Text:Naoki Fujita

Edit:栗原P

【撮影協力】
神田まつや
東京都千代田区神田須田町1-13
03-3251-1556
http://www.kanda-matsuya.jp/p01.htm

坪内 浩 (Hiroshi Tsubouchi)
マグナムの創立メンバーであり、世界的有名なシューズデザイナー。自身のブランド、ヒロシ ツボウチとWH(ダブルエイチ)のデザインを手掛ける。ファッション業界では知らぬ人はいないウェルドレッサーとしても有名。自身の美学に基づいた流行を追わない個性スタイリングからも目が離せない。



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